日本甲状腺学会雑誌への寄稿「甲状腺癌と超音波」から始まった議論:30年前、日本は21世紀の韓国にならずにすんだけれど・・・

乳癌の超音波診断の専門家、植野映氏(筑波メディカルセンター病院乳腺科)http://bit.ly/1Lf9Bqu が日本甲状腺学会雑誌6巻2号(2015年10月)に寄稿した「甲状腺癌と超音波」をFacebookに転載 https://www.facebook.com/notes/植野-映/一家言-甲状腺癌と超音波-日本甲状腺学会雑誌-october-2015/903052903106871 この文章から始まった議論をまとめました。
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巻頭言

ゆんゆん探偵 @yunyundetective

甲状腺癌の過剰診断の害の話は、 「一生放置しても害にならない癌がある」 「癌を切ることが身体に大きなダメージを及ぼすことがある」 と言う直感的に自明で無い2点を飲み込まなければいけないので、けっこうハードル高いのよな。

2017-03-16 12:12:31

巻頭言2

名取宏(なとろむ) @NATROM

専門家の間では、甲状腺がん検診の文脈で「過剰診断」という言葉が使われるときは、Welch and Black(2010)による定義によります。混乱があるとしたら、専門家による定義を理解しないまま自分勝手に独自の定義で「過剰診断」という言葉を使う人が一部にいるからでしょう。 twitter.com/CordwainersCat…

2017-04-05 08:58:17
彫木☀環🧷✂️✏️(オミクロン株にはガッカリだよ) @CordwainersCat

今や「過剰診断」と言う言葉だけが一人歩きして、それが指す内容については合意が何もない状態だと思います。まず、その言葉の定義、意味について話し合う方が先なんじゃないの?

2017-04-05 07:30:27
名取宏(なとろむ) @NATROM

過剰診断は、一般の方にとってなじみのない概念です。よくある疑問について解説しています[過剰診断に関する疑問に答える d.hatena.ne.jp/NATROM/2015071… ]。ご質問があれば答えます。

2017-04-05 08:59:34

Welch and Black (2010)とは次の論文のことで、誰でも無料で読めます。
Welch HG, Black WC :
Overdiagnosis in Cancer.
J Natl Cancer Inst (2010) 102 (9): 605-613.
https://academic.oup.com/jnci/article/102/9/605/894608/Overdiagnosis-in-Cancer

著者らによる過剰診断の定義は、論文の"What Is Overdiagnosis?"の項の第1段落第1文に次のように明記されています。
Overdiagnosis is the term used when a condition is diagnosed that would otherwise not go on to cause symptoms or death.
過剰診断とは、診断されずに放置されたとしても自覚症状を引き起こすことも死亡の原因となることもないような病状が診断された場合に使われる用語である。

過剰診断を生じるかどうかは、疾患と検査法(検出感度、実施時期その他)の組み合わせ次第で決まります。この論文で著者らが過剰診断の例として取り上げたのは

  1. 乳癌とマンモグラフィー検診(25%が過剰診断)
  2. 肺癌と胸部X線または喀痰検査(50%が過剰診断)
  3. 前立腺癌とPSA(前立腺特異抗原)検査(60%が過剰診断)
    の3つでしたが、その後ここに加わりつつあるのが甲状腺癌と超音波検診です。

[2019.6.2追記]

著者Welchには実はこんな体験があったのだそうです。

nao @parasite2006

The Dangers of Incidental Tumor Findings from CT Scans bioengineeringtoday.org/imaging/danger… 過剰診断の議論の出発点となる論文を2010年に発表したWelchの最新論文の紹介記事。原点は著者の実体験(偶然見つかった癌による腎切除手術を拒否した患者を10年後死後剖検したら、癌は拡大も転移もしていなかった)

2018-12-18 07:19:55
リンク Bioengineering Today The Dangers of Incidental Tumor Findings from CT Scans In the mid-1990s, a patient came to see general internist H. Gilbert Welch with a hoarseness that refused to go away. Welch referred him to an otolaryngologist who found and removed a small vocal cord tumor, which fixed the problem. But sometime during th 1 user 37

第1部

ぽんぽこ(ぽぽぽ13) @doublethink0

これはちょっと必読と思われますので。「一家言 甲状腺癌と超音波  日本甲状腺学会雑誌 October 2015」 facebook.com/notes/%E6%A4%8…

2015-11-13 16:35:58

[2016.9.14追記]
植野 映氏のFacebookページがなぜか読めなくなっていたので、手持ちの論文ファイル(残念ながら有料)から本文と引用文献部分のみ再録しました。

日本甲状腺学会雑誌 2015;6:136-137
シリーズ[一家言]
甲状腺癌と超音波
植野 映
筑波メディカルセンター病院乳腺科

一家言を唱えるほどの立場ではなく,「 一過言 」になってしまうかもしれないが,超音波一筋に研究した医師の言葉としてお許しを願いたい。
2011年3月11日金曜日午後2時45分,乳癌の手術のために患部を消毒し,覆布を掛け,術式の確認のためにタイムアウトを取った。そのときに,あの東北地方太平洋沖地震がこの筑波の地をも襲った。震度6弱,手術台から患者を落としては命がないと必死に抑え込んだ。そのことがまだ記憶の片隅に鮮明に残っている。患者さんにはメスも入っておらず,また,手術場の酸素などの配管の確認もできないために,その日の手術は延期することにした。幸いにも手術室の看護師の1人は元力士,ストップしたエレベーターの代わりに患者さんを病室まで担いで揚げてくれた。
その翌日に福島第一原子力発電所の水素ガス爆発が発生し,メルトダウンの恐れが一気に国民にも知れるところとなった。私の義理の母と妹は,この原子力発電所から4 km離れた双葉町内に住んでおり,4日の間,連絡も取れずに行方がわからなかった。この双葉町民らは「西へ避難しろ」の誘導で北西へと向かった。奇しくもこの方向は,最も放射能が漏れていった方向でもあった。私には「ヨード剤を住民は服用したのだろうか」との思いがつのった時期であった。
案の定,その後には甲状腺癌の発癌が話題に上ってきた。そのときに,私の脳裏に浮かんだのはチェルノブイリ事故後の甲状腺癌発生率の急上昇である。以前,甲状腺癌の超音波診断で白ロシア(現ベラルーシ)(注:1991年9月15日に国名を変更、なおチェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトによる検診開始は国名変更前の1991年5月で、前年8月には実施方法検討のための調査団が派遣されている)に講演に招かれ,そのときに「超音波診断による見かけの上昇があるために,現在の発生率はそのまま受け入れないほうがいい」と説いたが,現地では放射線の影響で多くの甲状腺癌が発生しているの一点張り, この考えを理解はしていただけなかった。
私自身は,乳癌の検診を1985年10月に茨城県メディカルセンターで視触診+マンモグラフィ+超音波の重点的な職域検診を開始した。その際に,乳癌のスクリーニングのみでは片手落ち(当時はそう判断した) と甲状腺癌の超音波スクリーニングを乳癌検診時に同時に行うようにシステムを構築した。その検診により多くの微小甲状腺癌が発見され,筑波大学ではその成果が話題となった。その6ヵ月後に私は英国に留学したために私の上司が発表してくださったが,これが世界で初めてのリアルタイム超音波による甲状腺癌スクリーニングのリポートであったろうと思う。帰国後にそのスクリーニングを東野英利子先生(筑波メディカルセンター病院),角田博子先生(聖路加国際病院) らとともに継続した。その発見率はさらに上昇し,最終的には75人に1人の甲状腺癌が発見されるようになった。そのあまりにも高い検出率には,かえって疑問を抱くようになった。その当時の甲状腺癌の死亡者数は年間約800人,また,一般病死者の甲状腺癌の組織学的検索では30歳以上の女性の甲状腺癌の有病率は25~30%とすでに報告されていた。その当時の渡辺泱先生(京都府立医科大学)にご相談したところ「その検出率は異常に高い値だ,それが事実とすれば流行病になってしまう。前立腺癌とよく似た状況となっている。検診は慎重に行ったほうがよい」とのサジェスチョンをいただいた。藤本吉秀先生(東京女子医科大学)にもご相談したところ,「甲状腺癌の性質から考えてそこまでは検診は行わなくてもよい」とのご意見をいただいた。このままではover surgeryになるとその甲状腺癌の超音波による検診は中止にした。その20年後に,韓国では超音波検査による甲状腺癌のスクリーニングが盛んとなり,甲状腺癌が罹患率トップとなってしまった。無策にスクリーニングを行ってしまった結果である。
その2つの経験から,福島の原発事故が発生したときに,今後,甲状腺癌のスクリーニング問題が起こるだろうと予測した。チェルノブイリの二の舞はさすがに防がなければならない。このままでは5年後に超音波がスクリーニングに導入され,多くの甲状腺癌が検出される。原発事故による被曝の影響と解釈され,国策を誤ると考えた。
乳腺甲状腺超音波診断会議が2011年7月に自治医科大学で開催され,その理事会で放射線による影響が出る前にスクリーニングを行う必要があることを提案した。鈴木眞一先生(福島県立医科大学)にはすぐに快諾をいただき,日本乳腺甲状腺超音波医学会 (JABTS)の総意を挙げて全面的に協力することが決まった。その後は各学会の応援をも得て,今の体制が鈴木眞一先生を中心として構築されていった(図1)。 小児甲状腺癌の超音波によるスクリーニングの成績はそれまでにはなかったために,現行のスクリーニングの施行は致し方のないところではあったが,第1順目の結果は,私からすれば想定内でもあった。ところが,甲状腺専門家であっても,「想像以上」とコメントしてしまう医師もいたことが甚だ残念であった。おそらくは甲状腺癌に対する超音波の検出率の高さを理解していなかったのであろう。ましてや一般の医師の反応は致し方ないことだろうか。それにしても評論家が甲状腺癌の特殊性,超音波の検出能力について理解もせずに間違ったコメントをしたり,テレビが事前調査もせずに報道したのには閉口した。
この誤謬はまだまだ続くであろうが,第2順目では甲状腺癌の検出率は低下すると私は睨んでいる。それは,第1順目で潜在的な甲状腺癌が検出されているからである。その結果が出て初めて,原発事故の影響がなかったといえるであろう。少しでも高値を示したのであれば,原発事故の影響は否定できないことになる。
一方心残りは,本当にこのような大規模なスクリーニングが必要であったかの疑問である。福島県外でのスクリーニングは論外である。これは香川の武部晃司先生(たけべ乳腺外科クリニック)も述べているが,彼は私と同じく,超音波による甲状腺癌のover surgeryを唱えており,小児でも同じであると警鐘を鳴らしてきた。確かに,over diagnosis,over surgeryであれば 多くの子供に過大な害を与えたことになる。今までの確定したデータに基づき検討しなければならない。過大な害を防ぐためにも,現在のスクリーニングをできるだけ早期に終了にしたいと願うこの頃である。
●文献 1)相吉悠治,牛尾浩樹,吉田 明,他.超音波検査下に発見された甲状腺癌の臨床的・病理組織学的検討.第19回甲状腺外科検討会(別府).1986.

[2018.11.6追記]
文中の「藤本吉秀先生」とは、「日本の内分泌外科学のパイオニア」と讃えられる内分泌外科医で、東京女子医大に日本初の内分泌外科を創設した藤本吉秀・東京女子医大名誉教授(1926年7月〜2016年7月23日)のことです。藤本氏に師事した杉谷巌・日本医大内分泌外科教授の教室ホームページの挨拶
http://www2.nms.ac.jp/nms/surgery2/produce/aisatsu.html
と小原孝男・東京女子医大名誉教授の追悼記事
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjsts/33/4/33_Pref04_1/_pdf
からも人柄がうかがえますので、あわせてご一読をおすすめします。

mizuki_kanna07409🐰おーん @kanna07409

「藤本吉秀先生(東京女子医科大学)にもご相談したところ,「甲状腺癌の性質から考えてそこまでは検診は行わなくてもよい」とのご意見をいただいた。このままではover surgeryになるとその甲状腺癌の超音波による検診は中止にした。」togetter.com/li/900034

2017-06-29 00:45:03
mizuki_kanna07409🐰おーん @kanna07409

「藤本イズム」って「外科医にとって大切なことは、ものを考えながら診療にあたることであり、治療の原点は病気の性質を深く理解したうえで、患者さんの苦痛や不安を軽減するところにある」ってことではないのかな?www2.nms.ac.jp/nms/surgery2/p…

2017-12-08 18:47:23
nao @parasite2006

なるほど、30年前の日本には見識ある外科医がいたから、21世紀の韓国の事態を避けることができたということか。30年後の今ははたしてどうだろう?twitter.com/kanna07409/sta…

2018-11-06 15:33:59
nao @parasite2006

togetter.com/li/900034 30年前の日本で超音波検査による甲状腺癌の過剰診断を初めて経験した植野映氏から相談を受け、検査続行に待ったをかけたのは渡辺泱・京都府立医大泌尿器科教授(超音波検査が専門)f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/11… と藤本吉秀・東京女子医大内分泌外科教授jstage.jst.go.jp/article/jaesjs…

2018-11-06 17:10:15

(追記ここまで)

nao @parasite2006

前リツイート、チェルノブイリ事故直前の1985年10月から筑波大学で乳癌の超音波検診とセットで甲状腺癌の超音波スクリーニングを続けたら、最終的に甲状腺癌の検出率が75人に一人まで上がってしまい、過剰治療の方が心配だと言うことになって検診は中止になったと言う話。FBの議論も貴重

2015-11-13 18:58:33

(↑筆者植野映氏は超音波診断装置で組織の弾性の違いを画像化して表示し、画像上である程度まで良性悪性の判断を可能とする超音波エラストグラフィの開発者として知られています。http://bit.ly/1SPI9Gc 1983年に筑波大学臨床医学系乳腺外科学講師に就任、1986年に英国留学後1987年には筑波大学講師に復職し、2004年に助教授に昇任、2012年からは筑波大学医学群臨床教授 http://bit.ly/1SPHt3s 現在の韓国と同様の乳癌と甲状腺癌をセットで検査する超音波検診のスタートは英国留学前の1985年10月のことでしたが、いつ頃中止されたのかは上のFacebookの文章からはわかりません)

toumei-unicorn @monstar81053

@doublethink0 大人のデータですが80年代に75人に1人の高率で、さらには死者の2割5分で見つかっているデータがあるのですね。

2015-11-13 18:20:05
ぽんぽこ(ぽぽぽ13) @doublethink0

@monstar81053 データがあるとは思いませんでした〜

2015-11-14 09:13:03
酋長仮免厨 @kazooooya

「白ロシアに講演に招かれ、…超音波診断による見かけの上昇があるために現在の発生率はそのまま受け入れないほうがいいと説いたが、現地では放射線の影響で多くの甲状腺癌が発生しているの一点張り、…」 「甲状腺癌と超音波」 植野 映 facebook.com/notes/%E6%A4%8…

2015-11-13 21:35:11
酋長仮免厨 @kazooooya

承前) 「第1順目の結果は、わたくしからすれば想定内でもあった。ところが、甲状腺専門家であっても想像以上とコメントしてしまう医師もいたことがはなはだ残念であった。おそらくは甲状腺癌に対する超音波の検出率の高さを理解していなかったのであろう」(身に覚えのある専門家さん手をあげろ!)

2015-11-13 21:37:38
酋長仮免厨 @kazooooya

承前) 「それにしても評論家が甲状腺癌の特殊性、超音波の検出能力について理解もせずに間違ったコメントをしたり、TVが事前調査もせずに報道したのには閉口した。 この誤謬はまだまだ続くであろうが、第2順目では甲状腺癌の検出率は低下するとわたくしは睨んでいる。」

2015-11-13 21:39:32
二十人のろの夢 @drsteppenwolf

@kazooooya 「第2順目では甲状腺癌の検出率は低下するとわたくしは睨んでいる。」っていうけど、低下するのは自明。1割減なのか、5割減なのか、9割減なのかなど、具体的にいわなきゃ、ただの与太話。

2015-11-13 21:47:13
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