- akinosora_
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迷宮都市のアンティークショップ 大場鳩太郎 #bookmemo 緑陽クエスタ読んで、ファンタジーごりごり読みたくなったので積んでた本に手を出しました。これがとにかく当たり!マジックアイテムとか非常にワクワクするわぁ、一つ一つの話が短いのも気楽に読めていいね、面白かった!
2015-11-03 23:48:59ども、 拙作『迷宮都市のアンティークショップ』第3巻がファミ通文庫様よりが11月30日に発売されます。 pic.twitter.com/lD3yUdDYlY
2015-11-23 20:51:29それで今回は販促用SSを書き下ろしたのでこちらで公開しようと思います。 2500文字程度の作品の連続投下になりますが、何卒御容赦下さい。
2015-11-23 20:52:09
「やあ『古き良き魔術師たちの時代』へようこそ。もしダンジョンから持ち帰った未鑑定アイテムが御座いましたら是非、お立ち寄り下さい。 細剣、薬瓶、指輪、書物、革靴、どんなモノでもすぐに鑑定いたします。…おや。貴方の手にされているそのアイテムも付与道具かもしれませんよ?」:イントロ
2015-11-23 20:54:07その日も探索を終えたアネモネは、付与道具専門店(アンティークショップ)の『古き良き魔術師たちの時代』を訪れていた。寄る辺のない彼女にとって、ここだけが安心して寛げる場所だったからだ。 :1
2015-11-23 20:56:33「いい品を手に入れましたね」 全身甲冑を脱ぎ捨て、店のソファを陣取りビスケットを頬張っていると、店員のフジワラが声をかけてくる。 :2
2015-11-23 20:57:30どうやら鑑定が終了したらしい。彼は卓(テーブル)に水晶製の小瓶を置いた。 それはアネモネがダンジョンから拾ってきたアイテムのひとつだ。ちょっとした魔法薬だろうとしか思っていなかったので、意外に思った。 果たして、どんなアイテムだったのだろうか。 :3
2015-11-23 20:58:55「さて、ここで問題です。これは一体何でしょう?」「……何だそれは?」「クイズです。もし正解すれば、この商品の鑑定料はただで構いませんよ?」 フジワラが茶目っ気たっぷりにそう告げてくる。 アネモネはなかなか面白そうな話だと思い、受けて立つことにした。 :4
2015-11-23 21:00:03「ではヒントを三つ差し上げます」そう言ってフジワラは指を三本立てると、順に折っていく。「その一に、とても高価な品です。その二に、ベテランの探索者勢なら一パーティーにつき一本は常備しています。その三に、勿体無くて、大抵、使いそびれます。以上です」 :5
2015-11-23 21:01:10アネモネは腕組みをして考えてみる。 そもそも自分にはアイテムについての知識がない。魔法薬で知っているものは、治癒薬と解毒薬のような普段使うような身近なものか、有名なものがせいぜいだ。 なので、そのなかで最も高価なものの名前を口にすることにする。 :6
2015-11-23 21:03:15「答えは『霊薬(エリクサー)』だ」「ええ正解です」フジワラは、にっこりと笑顔を浮かべて頷いた。 「……ふん、くだらない問題だな」アネモネはわざとつまらなそうな顔をしてみせた。が、内心では嬉しくてたまらなかった。 :7
2015-11-23 21:05:40「霊薬は、深刻な外傷、状態異常を治癒し、疲弊した魔力と体力をたちどころに回復させる所謂、万能薬で有名ですね。それにとても希少で高価です」「売ると幾らになるんだ?」「この品質だと……これくらいです」 :8
2015-11-23 21:07:00フジワラが算盤を弾いて、教えてくれる。 その金額は想像よりも少なかったが決して端金ではない。ちょっとしたお宝といったところだろう。 「さてここで更に問題です。貴女はこの厄介な道具をどうしますか?」 「……どういう意味だ」更なる質問にアネモネは首を傾げる。 :9
2015-11-23 21:08:30「どうするかとは、このまま所持品にされるか、それともお売りになるかという意味です」「『厄介』の意味が分からない。毒でも入っていたのか?」「いいえ。ただ……アネモネさんは探索者たちの間に、霊薬にまつわる有名なことわざを御存知ですか?」 :10
2015-11-23 21:11:43アネモネは素直に首を横に振った。ある理由から、彼らの溜まり場である酒場には行くことがなかったので、彼らの情報には疎かった。 「ならお教えしましょう。……それは『霊薬の持ち腐れ』と『屍鬼(グール)に霊薬』です」 ♯11
2015-11-23 21:15:03「どういう意味だ?」 「前者は『霊薬』がとても便利な反面、希少で高価な為、勿体ながって使えないままでいる者を揶揄した言葉。後者は、結局使いどころを見極められずに死んでしまった者を揶揄した言葉です」 その説明で、アネモネは霊薬の『厄介さ』を理解した。 確かにこれは難問だ。 ♯12
2015-11-23 21:16:25『霊薬(エリクサ―)』は保険のようなものかもしれない。 いざという時――怪我や毒などで死にかけるような危険な場面において、きっと役に立ってくれるだろうと思うと、持っているだけで心強い。 ♯13
2015-11-23 21:18:00反面、『勿体ない』という恐ろしい毒を持っている。 そのせいで使い所を決められないまま持ち腐れてしまえば、役に立たないのと同じ。 怪我をしてもまだ大丈夫と粘った挙句、判断を誤り死んでしまっては意味が無い。 アネモネは暫くの間、この魔法薬をどう扱うべきかで頭を悩ませた。 ♯14
2015-11-23 21:19:35「……今回は売ろう」 考えた結果、今自分にとって何よりも必要なのはお金だった。 手持ちに余裕がなかったのだ。フジワラへの借金も返さなくてはいけないし、損傷の激しい全身甲冑を新調したいとも考えていた。 ならばそれが自分にとっては最善の手だった。 ♯15
2015-11-23 21:22:35「後悔しませんか?」 「……ああ。代わりに治癒系の魔法薬をいくつか売って欲しい」 「成る程。それが貴女の『解答』ですね」 フジワラは正否は告げてこない代わりに、にっこりと微笑んだ。 そして卓から水晶の小瓶を回収すると、カウンターへ戻っていってしまう。 ♯16
2015-11-23 21:25:45使うか使わないか分からない。そして一度使えばなくなる。 そんな最強の回復アイテムより、そこそこの回復アイテムを幾つもストックしておいた方が使い勝手はいいはずだ。 フジワラのことだ。きっと質のいい魔法薬を揃えてくれることだろう。 ♯17
2015-11-23 23:09:00「……なあ?」「何でしょう?」「何故、君は道具だけではなく、探索者の薀蓄についても詳しいんだ?」「……」 フジワラは付与道具屋だった。 だが彼はアイテムだけではなく、熟練の探索者並みにダンジョンにも精通している。経験に基づいた実用性の高い知識を持っているのだ。 ♯18
2015-11-23 21:28:02