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46億年目の最初で最後の輝き

天文学者大西浩次による美しくも悲しかった彗星の生涯に捧げる叙事詩
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Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

「46億年目の最初で最後の輝き」 大彗星になると期待されたアイソン彗星(C/2012 S1)は、太陽の表面をかすめるような軌道を持つ彗星であった。初期観測から、彗星サイズは約5kmと推定されていた。11月23日には長い尾を伸ばした。 pic.twitter.com/5Nyo1UbAZ2

2015-11-29 06:49:49
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Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

アイソン彗星の最大のイベントは、2013年11月29日未明の太陽表面の通過であった。しかし、この数時間前に彗星核の崩壊が始まり、小さくなった破片は、太陽の熱ですべて蒸発してしまった。大彗星は、夢のように消えてしまった。   apod.nasa.gov/apod/ap151102.…

2015-11-29 06:51:48
Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

君が生まれたのは、今から約46億年前の太陽系形成期だった。君の仲間達は、原始太陽系円盤の中の小さな砂粒や氷が集まった大きさ数kmくらいの微惑星として誕生した。この微惑星は、水が固体か気体かの境界を挟んでその性格が異なっていた。境界の内側は岩石を主体とし、外側は氷を主体としていた。

2015-11-29 06:54:10
Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

現在の太陽系での境界は、火星と木星の中間にある。これら微惑星は衝突合体を繰り返し、原始惑星へと成長していった。君は、境界のすぐ外側付近の氷微惑星として誕生した。この付近は微惑星の材料が多かったので、原始惑星は急成長し、巨大ガス惑星である木星や土星へと成長していった。

2015-11-29 06:55:34
Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

君は、原始惑星の引力で散乱され、太陽系の遥か遠くへはじき飛ばされてしまった。これから永劫と言えるほどの時が流れ、地球上に人類が誕生した頃、何らかの拍子で、君は、太陽系中心に向かって落ち始めた。そして、2012年9月、誕生した付近まで戻って来た君を、ロシアの観測チームが発見した。

2015-11-29 06:57:09
Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

そのチームの名前から、君はアイソン彗星と呼ばれるようになった。太陽表面ギリギリを通過する軌道を持ち、木星より遠い位置にもかかわらず19等星という明るさで輝く君を見て、周囲の人たちは大彗星になると期待してしまったのだ。君の大きさは5kmくらいと言われた。

2015-11-29 06:57:55
Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

でも、この時、君は、太陽熱を受けて、揮発しやすい一酸化炭素や二酸化炭素を爆発的に蒸発させて、大量の「水の氷の粒」をまき散らしていたのだ。この衣で大きな彗星のように見えたのだ。しかし、君自身はもっと小さかった。だから、みんなが期待するほど明るくなれなかった。

2015-11-29 06:58:09
Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

しかし、太陽に近づくにつれて、君のやわらかい体が壊れ始め、11月14日と20日に、それぞれ2等級も明るくなったね。やっと肉眼で見えるようになり、多くの人々が、太陽表面を通過する11月29日未明に注目した。 pic.twitter.com/34XebUwGTz

2015-11-29 07:00:41
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Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

僕は、君の勇姿を見届けようと、太陽観測衛星の画像に注目していた。28日夕方には、木星ほどの明るさで「すらり」とした美しく長い尾を引いていた。しかし、君に異変が起きたのは、その直後であった。夜には増光が止まり、そして、近日点通過の3時間前には減光を始めたのだ。

2015-11-29 07:01:48
Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

そうして、運命の瞬間、・・・実は、コロナグラフの遮蔽板で、見ることが出来ないのだが・・・、君が遮蔽板に隠れる頃には頼りない姿になっていた。この時の君の温度は約3000℃、鉄なども蒸発する温度の中で、君の長い尾は、次々と消えていった。 pic.twitter.com/7hT0w13jk3

2015-11-29 07:03:43
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Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

君の姿が遮蔽板から再び出てきたとき、多くの人は驚いたよ。僕も君の姿を再びこの目で見ることができると思ったよ。しかし、すぐに、ぼんやりとした君は、氷が蒸発してしまった残骸(大きめの砂粒?)による「亡霊」だと気づいたよ。 pic.twitter.com/kZ0kzb2a2e

2015-11-29 07:05:06
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Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

今になって思うと、増光が止まった時点で君の体がばらばらに崩壊しはじめたのだね。そうして小さな破片になった君は、高温の中で一挙に蒸発してしまったのだ。君の最後の姿を見ようと、シュミット望遠鏡で探したのだけど、見つける事が出来なかった。 pic.twitter.com/VZJJvHcRVa

2015-11-29 07:10:51
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Kouji Ohnishi 大西浩次 @koujiohnishi

いまも、空を見上げると思いだす。見えなくなった君の姿を。  アイソン彗星、享年46億歳。2013年11月29日未明、太陽表面付近で消失。46億年で初めての太陽系中心部への旅の途上であった。 pic.twitter.com/6KP2yPxZEh

2015-11-29 07:32:23
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