【民博ゼミナール(講演録)】「ことばの遺伝子を探る(2015/10/17)」

国立民族学博物館で歴史言語学を研究されている菊澤律子准教授の講演録です。挑戦中のクラウドファンディング情報はこちら!https://academist-cf.com/projects/?id=19
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

そうです。イギリスからこれらの地域に人が移動し、そこで英語を話すようになったからです。現在、これらの国で話されている英語を比べてみると少しずつ違っており、同じ「英語」とはいえ、話してもお互いに通じないこともあります。

2015-11-23 15:04:23
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

これは移動してから、それぞれの土地で、ことばが少しずつ変わっていったからです。変化はそれぞれで独立して起こりますから、積み上がってゆくと、違いがどんどん大きくなっていきます。そのままゆくと、やがては異なる言語になってしまうわけです。

2015-11-23 15:07:56
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

このようなことがもっと大きな規模で、長い年月をかけて起こったと考えられています。

2015-11-23 15:12:02
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

この、コトバとヒトとの関係を「樹」と「→」の関係と呼びたいと思います。「樹」は言語の系統樹の樹、「→」はヒトの移動ルートのことです。 pic.twitter.com/w5kyQ7q10E

2015-11-23 15:13:41
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

さきほどのオーストロネシア諸語の系統図はこんな風になっています。 pic.twitter.com/HSnQuAuqNk

2015-11-23 15:14:30
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

一枚で入りきらないので、下半分はこちら。 pic.twitter.com/ue11OZraXf

2015-11-23 15:14:49
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

言語は話者がいなければ存在しませんから、言語が分岐したということは、ヒトの集団が分岐したということを意味しています。この考え方をもとに、オーストロネシア語族の言語の歴史を現在話されている言語の地理的位置と照らし合わせると…

2015-11-23 22:27:01
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

太平洋には図のような経路でヒトが拡散したのだということがわかります。 pic.twitter.com/D3uLQKV3XA

2015-11-23 22:28:41
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

それでは言語の系統関係は、どうしたらわかるのでしょうか。ここで注意しておきたいのは、似ているかどうか、は必ずしも系統関係には関係がないということです。

2015-11-23 22:32:18
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

たとえば、マグロとクジラとカバを比べたときに、マグロとクジラはカバに比べて互いに似ていますし海の中を泳ぎます。でも生物進化の系統からみると、クジラとカバの方が、マグロとクジラより、うんと近いのです。形や機能の類似性は必ずしも系統関係を反映してはいないということです。

2015-11-23 22:35:28
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

言語の場合でも、類似性がみられる理由には、さまざまな可能性があります。偶然の一致にはじまり、借用関係や言語の普遍的な性質のひとつであることもあります。例えば、現代日本語には英語に似た単語がたくさんありますが、誰も日本語と英語の系統が同じだとは思いません。

2015-11-23 22:39:42
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

また、日本語は開音節言語(単語が母音で終わる)ですが、そのような言語はポリネシアの言語をはじめ、世界にたくさんみられるため、系統関係を反映しているとは考えないのが普通です。

2015-11-23 22:41:01
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

言語の類似性の説明という観点からは、同じ系統に属するという要因は可能性のひとつに過ぎず、同じ系統の言語だからといって「似ている」とは限らないし、逆に似ている特徴があるからといってそれだけで同じ系統に属するとは限りません。 pic.twitter.com/oVLWiqCAYC

2015-11-23 22:43:07
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

生物の場合には、系統関係を知るために、近年では遺伝子の分析が盛んになっています。ことばの系統関係は、いったい何を見ればわかるのでしょうか?

2015-11-23 22:47:01
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

それを説明するための背景として、まず、「ことばを科学する」ということについて少しだけ説明させていただきますね。 pic.twitter.com/Bhcn2TxizF

2015-11-23 22:48:33
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

言語学というのは、私は「ことばを客観的に観察して分析する研究分野」だと考えています。

2015-11-23 22:52:13
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

ことばを客観的に分析すると、話者が持っている知識(=運用能力)とは異なる、ことばの構造や体系に関する知識(=運用に関するメカニズム)を得ることができます。

2015-11-23 22:54:06
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

たとえば、「ことばにについて考える」という発話について考えることにします。これをできるだけ小さい単位に分けると、どうなるでしょうか?

2015-11-23 22:54:53
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

この質問をすると、多くの方が次のように応えてくださいます。「ことばに ついて 考える」。

2015-11-23 22:55:25
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

人によっては次のような答えもあります。「ことば に ついて 考える」。

2015-11-23 22:56:00
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

もっと小さくならないでしょうか?

2015-11-23 22:57:32
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

どんどん分解してゆくと、図のようになります。さきほどのいずれの答えも間違いではありません。最初のものは、句、すなわち、実際に発話するときに自然に分けられる最小単位、ふたつめは「形態素」、つまり、意味を担う最小単位で分けています。 pic.twitter.com/1UKc1PPaVn

2015-11-23 23:13:04
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

形態素はさらにさまざまな発音の集まりで成り立っていますし、発音の体系は、音節、音素、音などから成り立っています。一番下は、(簡易)発音記号で実際の発音を示してみたものです。

2015-11-23 23:16:21
菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

話者はこの発音のつながりを聞いて、それがどこで語に分かれて、その組み合わせがどのような意味を持つのか理解し、他の話者と意志疎通します。 pic.twitter.com/CfDZDWi8hH

2015-11-23 23:23:22
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菊澤律子 Kikusawa Ritsuko @ReidLili

研究者は、音のつながりから意味の理解までのプロセスを分析して、そのメカニズムを解明しようとします。 言語学にはさきほど示した各段階を研究する分野があり、それぞれに名前がついています。 pic.twitter.com/oghunTSc1k

2015-11-23 23:28:17
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