鹿島先生

エッチしたい
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洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

僕の初恋の話をしよう。 まず言っておくと、それは一目惚れであり、そして叶わない恋だった。 鬱陶しい雨が中庭の紫陽花を揺らす6月。17歳になったばかりの僕は高校生活にもすっかり慣れて、だけど受験はまだ先の未来で、有り体に言えば同じような日常に退屈していた。

2015-12-16 01:25:49
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

朝起きて、電車に乗って、授業を受けて、部活に所属していないから図書館で時間を潰して、電車に乗って、家に着いたら何もせずに寝る。僕の毎日は判に押したような規則正しさで進んでいった。ルックスはお世辞にもイケメンとは言い難く、成績も運動神経も中の下。国語だけは得意だけど喋るのは苦手。

2015-12-16 01:29:22
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

それでも僕は将来を悲観してはいなかった。このまま周囲に流されて適当な大f額を受験、そこでそれなりの生活をして中小企業に就職、そのまま定年まで働いて終わり。そんな未来を漠然と想像して、それも悪くないと思っていた。やりたいことが分からなくて、やりたくないことも分からなかったのだ。

2015-12-16 01:31:41
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

だけどそんな僕の日常はあの日を境に非日常へと変化した。忘れもしない6月11日は朝から強い雨が降っていた。 「〇〇大学から来ました、教育実習生・鹿島です。これから3週間国語の授業でお世話になります。よろしくお願いしますね」 僕の教室に入って来て黒板を背景に立った女性は朗らかに笑った

2015-12-16 01:35:58
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

高貴な銀の髪は両側頭部でまとめられ、その先端には緩やかなウェーブがかかっていた。二重の奥の瞳は翡翠色で、やや吊目がちなのが強気な印象を与える。白磁の肌に薄桜色の潤った唇が咲いていた。そこから紡がれるゆったりと落ち着いた声は鼓膜さえ揺らさないほどの優しさで響く。

2015-12-16 01:42:37
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

鹿島先生は僕のクラスの女子と同じくらいの背丈だが、そのプロポーションは17歳とは違って完成されていた。スーツの上からでも分かる膨らみは豊かだが大きすぎない。肋骨からクビレを経て安産型の腰に至るまでの曲線はどんな彫刻家の手にも再現できないほど完璧な緩急がついていた。

2015-12-16 01:47:07
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

クラスの男子、女子、担任の先生でさえも鹿島先生に心を奪われた。ふんわりと漂ってきた上品なバラの花のようなスメルが僕の脳味噌を揺さぶった。質問タイムで調子に乗ったクラスのDQNが鹿島先生にスリーサイズと恋人の有無を尋ね、「秘密です……ふふっ♪」とウィンクされた時、僕らは恋に落ちた。

2015-12-16 01:50:28
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

それから、クラスの話題は鹿島先生で持ち切りだった。Sっ気の強そうな見た目とは裏腹に、鹿島先生は優しくてマイペースな大人の女性だった。授業は分かりやすく、たまにミスをするけれど、それもまた可愛らしかった。放課後は生徒の質問に熱心に答えてくれたから、僕は毎日居残った。

2015-12-16 01:52:47
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

僕は元々国語だけは得意だったから、授業中に発言してもみんなにおかしく思われなかったし、他の授業中には鹿島先生に褒められるような的確な質問を考えた。早く放課後になってほしいと1分おきに時計を見つめる僕は、生まれて初めて次の瞬間がくるのを待ち望んでいた。か

2015-12-16 01:56:34
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

鹿島先生への質問がどうしても思いつかなかった日や、国語の授業がない日は、僕は放課後になると一番に図書館へ向かった。鹿島先生はかつて図書委員をしていたらしく司書の先生とも仲良しであったため、高確率で放課後は図書館に現れるのだった。僕は日の当たらないいつもの席に座って鹿島先生を待った

2015-12-16 01:59:22
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

鹿島先生は図書館に入ると、まず図書委員と司書の先生に挨拶してから館内を一周する。僕の席は神話の棚まで来ないと誰からも目の届かない場所にあって、神話の棚に人が来ることは去年1年間を通して一度もなかったから、完全に特等席だった。鹿島先生は僕を見つけて、いつものように笑いかけてくれる。

2015-12-16 02:02:05
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

読んでいる本の話や大学の話などを振る僕に、図書館では静かに、と鹿島先生は立てた人差し指を唇の前に持っていく。その悪戯っぽい仕草に僕の心臓は肋骨を突き破らんとする勢いで伸縮する。その鼓動が鹿島先生だけでなく図書館中の人に聞こえているのではないかとさえ思ってしまう。

2015-12-16 02:08:02
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

僕と鹿島先生の特別な時間はだいたい2時間くらい続いて、図書館が閉まる30分前になると鹿島先生は国語科準備室へと引き上げていく。僕はいつでも、その日の鹿島先生の匂いを、仕草を、言葉を何度も再生することができた。それは夢のような日々だった。だから、いつか覚めてしまうことが怖くもあった

2015-12-16 02:10:53
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

鹿島先生が来て最初の週が終わった。土日が、普段は泣いて喜ぶような休日が、これほど恨めしいと思ったことはなかった。一刻も早く登校して鹿島先生に会いたかった。あの透き通った鈴の音のような声を聞きたい。幼さの残るはにかみ笑いを僕に与えてほしい。朝から晩まで、僕は鹿島先生を想った。

2015-12-16 02:16:06
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

目を閉じれば鹿島先生の顔が思い浮かんだのだ。上目遣いで僕を見る鹿島先生は、夢の中では僕だけに特別な目を向けてくれた。何も言わずに僕を抱いてくれて、僕のモノを握って、ゆっくりとしごいてくれた。初めてだと本人は言っていて、だけど手つきは慣れたもので、それが全く矛盾しなくて。

2015-12-16 02:20:39
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

僕は鹿島先生の柔らかさの中で何度も射精した。勃たなくなったら鹿島先生に添い寝をしてもらって眠った。とにかく僕は鹿島先生に恋をしていて、激しく欲情していたのだ。 事が起こったのは、そんな日々がさらにもう1週間続いて、ついに鹿島先生の教育実習も終わりかける金曜日の放課後だった。

2015-12-16 02:23:42
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

僕はいつも通り神話の棚の奥に座っていたが、その実必死に涙をこらえていた。鹿島先生は今日を最後に大学へ戻ってしまう。もう二度と会えないかもしれないのだ。最後に何を話せばいいのだろう。そもそも、教育実習先の生徒に告白されたって答えられるわけがない。僕の想いは鹿島先生を困らせるだけだ。

2015-12-16 02:26:10
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「今日もお勉強、偉いですね」 鹿島先生はいつもと変わらない笑顔で僕に声をかけてくれた。その日は初めて出会った日と同じく雨で、窓の外からは雷混じりの轟音が巨大なノイズとなって響いていた。 「……」 鹿島先生の変わらぬ態度に僕は身勝手に傷付いた。この人にとって、僕はただの生徒。

2015-12-16 02:29:24
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

明日になったら、鹿島先生は僕の顔も、名前も、存在すらも忘れて、自分の単位が取れていることを喜ぶのだろう。そして恐らくは久しぶりに彼氏と会って、夜が明けるまで抱き合うのだ。これだけ美人で優しくて理想的な人に恋人がいないはずがない。 「どうしたの?」 鹿島先生は僕の隣に腰かける。

2015-12-16 02:32:31
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

二人用の机が、並んだ椅子が、昨日まで神にもたらされた奇跡に思えていたのに、今はただ辛いだけだった。 「……」 僕が黙っていると、鹿島先生は鞄を床に置いて、一通の手紙を取り出した。 「君には特別仲良くしてもらったから、お礼にこれ」 僕は手渡された手紙を無言で開いた。

2015-12-16 02:35:31
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

鹿島先生の可愛らしい丸文字で記されていたのは、僕への感謝と応援のメッセージだった。 教育実習の不安は君のおかげで乗り越えられました。私のこと、忘れないでくれると嬉しいです。これから、君の未来は自由に広がっています。後悔のない人生を送ることが一番大切です。 そんなことが書いてあった

2015-12-16 02:40:02
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「あぁ……」 僕は。 「どうしたの?」 僕はなんて情けない男なのだろう。鹿島先生はこんなにも誠実に僕に感謝を述べているのに、僕は鹿島先生に理不尽に怒って、何も言わずに拗ねていたのだ。 「私のお手紙、嫌だった?」 僕の涙を見た鹿島先生はやや取り乱した口調でそう尋ねた。

2015-12-16 02:43:52
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

「……ありません」 どうして、涙はこんなにも熱いのだろう。 「え?」 「……いやじゃ、ありません」 僕は鼻を啜って、袖で乱暴に涙を拭うと鹿島先生の目をちゃんと見つめた。考えてしまっては、きっと言えなかった。止まったら、もう動けなかっただろう。 「僕、鹿島先生に恋していました」

2015-12-16 02:46:22
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

やっと言えた。僕の生まれて初めての告白。それは振られると分かっている告白で、自己満足で、相手を困らせるだけの代物で、僕の顔は涙でぐしゃぐしゃ、鼻水は多分垂れていて、口は金魚みたいにパクパクと落ち着きなかったけど、誠実な想いだけを込めた、僕の心からの言葉だった。 「……ありがとう」

2015-12-16 02:49:34
洲央@土曜西“は”45a @laurassuoh

鹿島先生は微笑んでそう言った。言ってくれた。僕の告白を赦してくれたのだ。 「僕も……ありがとうございます……」 「……うん」 鹿島先生は僕にポケットティッシュを渡すと立ち上がって神話の棚から図書館の出口の方へと歩いていった。 僕は鼻をかみ、涙を拭いて机に伏した。

2015-12-16 02:52:28