「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」 #5

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
5
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#5

2011-01-21 20:53:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ギュギューン、ギュギュイーン……カウンダウン……ファイヴ、スリー、ツー、ワン……ブッダコスモス、ユーアーインザスペース」……武装霊柩車のレディオからは、スペイシーなダークエレクトロ・ポップが流れてくる。まるで銀色の弾丸宇宙シップが孤独な銀河を漂っているかのようなアトモスフィア。

2011-01-21 20:56:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオサイタマ湾岸に架かる長大な吊橋、グラントリイ・ブリッジ。建造途中で放棄されてから数年が経過しており、この死んだ橋を渡ろうとする市民はいない。このルートを選択したのは実際正解だ。デッドムーンはそう考えながら、ダッシュボードに忍ばせた違法カキノタネを口に運び、奥歯で噛みしだいた。

2011-01-21 21:10:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

全長100キロ。橋を支える主塔部分は巨大なトリイを模しており、200mおきに闇から姿を現す。「広告部分重点」「実物ならば可か」「忠雄と宏」……各トリイの中央に埋め込まれた額には、建設計画を主導していたタダオ&ヒロシ重工の空虚なメッセージが黄金ショドーで刻まれ、静かに朽ちかけいた。

2011-01-21 21:32:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この光景には強力な催眠効果があるに違いない、とデッドムーンは心の中で毒づきながら、違法カキノタネで眠気を飛ばす。フロントミラーに一瞥をくれると、死んだ月のごとく血の気のない、不健康そうな自分の顔が見えた。トーフ・プロテインとトレーニングで筋肉は逞しいが、深い隈は隠しきれないのだ。

2011-01-21 21:36:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クライアント=サン、そろそろ今回の運びの潜在敵について教えてくれないか?」デッドムーンは左の助手席に座るヤクザを見た。このヤクザの顔の左半分には、高性能デジタルカメラが埋め込まれている。ウィーンというフォーカス音だけを発し、その特注型クローンヤクザは無言でデッドムーンを見た。

2011-01-21 21:41:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」無言。まただ。カメラヤクザはデッドムーンをじっと見るだけで、何も答えようとはしない。デッドムーンとカメラヤクザは一言も言葉を発さないまま、しばし重苦しい時間を過した。「広告部分重点」「実物ならば可か」「忠雄と宏」……トリイのメッセージだけが不気味に繰り返されるのみだった。

2011-01-21 21:46:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

不意にカーオーディオから警告ブザー音が鳴り響き、非常ボンボリが激しく明滅を始める。「ブッダファック、一体何だよ……」デッドムーンが首にLANケーブルを刺すと、脳内ディスプレイに周囲のソナー情報が映し出された。数キロ先、橋の車道に無数の車両反応! ナムアミダブツ! 予想外の事態だ!

2011-01-21 22:05:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは全くの偶然であり、不運であった。同じくグラントリイ・ブリッジ上、デッドムーンたちよりも西に数キロの地点では、ダークオニ・ヤクザクランの第四ヤクザバイク連隊が宗教儀式めいた集会を行っていたのである。その数、約100人。

2011-01-21 23:06:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しとしとと重金属酸性雨が降りしきる中、ヤクザバイカーたちは航空整備士めいたライダー服を身にまとい、橋の上に即席で築かれた土俵の周囲で正座していた。路肩にはずらりと違法改造バイクが並び、車体には金棒、サスマタ、包丁、カタナといったおそるべき武器の数々を持つオニのペイントが見える。

2011-01-21 23:09:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

土俵の上に立つ連隊長モタロウが、マイクを使って数名の名前を呼ぶ。『ダークオニ』とミンチョ体で縦書きされた赤いノボリが、土俵の四方で不気味に揺れていた。顔を蒼ざめさせたヤクザバイカー8人が、死刑執行囚めいた足取りで土俵に上り、ドゲザの姿勢を取る。

2011-01-21 23:16:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ザッケンナコラー! スッゾコラー!」モタロウは血も凍るような恐ろしい怒声を飛ばしながら、両手で握ったテクノカタナを高く掲げる。グリップを握ってスイッチを押すと、テクノカタナの刀身部分がドリルめいた高速回転を始めた! ナムサン! 土俵の下で正座するヤクザたちの間にも緊張が走った!

2011-01-21 23:22:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「インガオホー!」連隊長モタロウが、規律違反者たちに対してテクノカタナを振り下ろそうとしたその時! 東の方角から銀色の物体が、ジゴクめいた四基のヘッドライトを動かしながら、時速300キロメートルで猛接近してきたのだ! ナムアミダブツ!

2011-01-21 23:28:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

接近してくる車の正体は解らぬが、このままでは土俵を直撃することは間違いない……「イヤーッ!」流石はヤクザクランの連隊長、モタロウである。彼は危機を察するやいなや、持ち前のカラテで疾走し、勇ましい掛け声と共に素早く土俵から飛び降りたのだ。

2011-01-21 23:32:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

土俵の下で正座していたヤクザたちも、ワンテンポ遅れて立ち上がり、路肩へと退却する。モタロウによってカイシャクされるのを待っていた8人のドゲザヤクザたちが、何かおかしいことに気付いて恐る恐る顔を上げると……彼らの視界は武装霊柩車が放つ猛烈なヘッドライトの光によって完全に奪われた!

2011-01-21 23:36:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエーエエエエエ!!!!」8人のヤクザの絶叫が、深夜のネオサイタマ湾上で響き渡る! コワイ! デッドムーンの武装霊柩車はスピードを緩めるどころかさらにアクセルを踏み込み、猛烈な速度で土俵へと突っ込んだ! クロームシルバーの車体は土俵の側面スロープを登り、勢いよくジャンプする!

2011-01-21 23:43:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

8人のヤクザたちは天をあおぎ、水揚げされたマグロめいて口をパクパクとさせていた。デッドムーンの武装霊柩車はまるでロケットのごとく彼らの頭上を飛び越え、天頂に浮かぶ満月に吸い込まれるかのようにゆっくりと飛翔しながら、百メートル先の橋上道路へ確かなグリップ力で着地を果たす。タツジン!

2011-01-21 23:49:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

このような曲芸めいたドライビングも、武装霊柩車乗りにとってはチャメシ・インシデントである。並の運び屋であれば、ジャンプなどという手は使わず、土俵周囲のヤクザを轢き殺して進んだかもしれない。だが強いプロフェッショナル意識を持つデッドムーンは、明確な敵以外を殺そうとはしないのだった。

2011-01-21 23:54:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「酔ってないか、クライアント=サン?」デッドムーンは涼しい顔で助手席に問う。クローンヤクザは、ジャンプの直前に目の前に出現したショック吸収バーに掴まるようデッドムーンに促され、着地の衝撃に耐えていた。彼はデッドムーンのほうを見てカメラをフォーカスさせると、また無言で正面を向いた。

2011-01-21 23:58:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかし、デッドムーンが見せたプロフェッショナル意識はヤクザたちの命を救うどころか、皮肉にもダークオニ・ヤクザクラン第四連隊全員の怒りを焚きつけてしまったようだ。連隊長モタロウの号令のもと、すぐさま全員が違法改造バイクに乗り込み、ニトロブースターを使って背後へと急接近してきたのだ!

2011-01-22 00:01:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「間違いねえ! 奴は武装霊柩車乗りのデッドムーンだ! 殺せ!」儀式を邪魔され怒りに燃えたモタロウは、狂犬めいた表情で「ナムアミダブツ」「ダークオニ」と書かれた違法改造バイクを駆っていた。彼の命令は即座に、連隊内全員のバイクに備わる小型液晶IRCモニタへと無線電波でリレイされる。

2011-01-22 00:07:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モタロウは、ダークオニの幹部陣がデッドムーンを憎んでいることを知っている。1年前、ライバル関係にあるデスオイラン・ヤクザクランの組長が死に、その運びを彼が請け負った。ダークオニはデスオイランに屈辱を与えるべく数個連隊でこれを妨害したが、デッドムーンを止めることはできなかったのだ。

2011-01-22 00:24:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「モタロウ=サン、止めてください!」「そうです、あのデッドムーンって奴は不吉すぎますぜ! ブードゥーめいてやがる!」モタロウの直情的な行動を止めるべく、側近達がIRCメッセージを送ってくる。これに対しモタロウは、ぞっとするほど恐ろしい表情で返事を返した「お前ら、ちょっと来い……」

2011-01-22 00:27:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重金属酸性雨を切り裂きながら先頭を走るモタロウのバイクの右横に、2人の側近のチョッパーバイクが近づいてきた。するとモタロウは、おもむろにテクノカタナの刀身を回転させ、この臆病なヤクザバイカーたちに攻撃を加えたのである! 「インガオホー!」

2011-01-22 00:30:32