女騎士ハラミを焼く#3 肉の死闘◆3
_鋏のアーティファクトは挑戦的な構造をしたバリア発生機能を持つ。飛来物に対し、強力な結界を発生させて、粉砕することで防御する。 普通だったら弾き飛ばせばいいだろう。しかし、作者はそうは思わなかったはずだ。それこそが作者の戦場だったというべきだ。 81
2016-01-20 17:44:14_飛来したクロスボウのボルトは、鋏の展開したバリアに干渉して空中に静止し、一瞬にして破砕された。その力……空間のひずみはアーティファクトの周囲半径1メートルの範囲に半球状に発生した。そう、肉鎧を完全に巻き込んだ形で、強力なひずみが発生したのだ。 82
2016-01-20 17:49:00_骨の折れる音。皮膚が引き裂かれる音。肉鎧は絶叫した。体中の皮膚が裂けて霧のように鮮血が噴出する。たまらず締めていた手を放し悶絶する。 セリマはせき込み、大きく息を吸った後、肉鎧の下から這いだした。そしてそのまま逃げる、逃げる、逃げる。 83
2016-01-20 17:54:42「大丈夫か」 げっそりとした青い顔の金髭エリートが駆け寄ってきた。手にはクロスボウ。セリマは抱きつき、荒く呼吸を繰り返す。 「もう大丈夫、大丈夫だから……」 背後で肉鎧がわめいているのをどこか遠くに聞いていた。まだ死んではいない。 84
2016-01-20 17:58:37_肉鎧はいまだ健在であった。折れた骨、裂けた肉を驚異的な治癒能力で回復させているようだ。丸くなってうめき声を上げながら、安静にしている。 奴は冷静だ。いま戦っても回復が遅れるだけだ。治癒に全力を出し、復讐心と怒りの心をなだめているようだ。 85
2016-01-20 18:01:31「毒矢がある。援護頼む!」 「ハハッ、了解だ。半病人だからな、外れても恨むなよ」 「エリートなんでしょ、百発百中って、信じてるから」 短い会話を交わし、毒矢のボルトを渡す。そして、腰の小剣を抜いた。正直肉鎧を切り裂けるとは思えない。 86
2016-01-20 18:05:27_顔面は血まみれで、鼻は潰れている。 「美しいだろう」 セリマは全力で治癒に専念している肉鎧に向かって話しかける。後方では金髭がボルトの装填作業を急いでいる。 「こんな醜くなってもな、美しいと言ってくれるひとがいるんだ」 87
2016-01-20 18:10:58_闇の中、その声を聴いて手を振った影が見えた。クロスボウを持っている。そのシルエットは新型のそれだ。その人物の影は、闇の中でも分かるほど不健康そうな痩せぎすだった。 いや、一人ではない。続々と騎士団の面子が遠巻きに肉鎧を包囲し始めたのだ。 88
2016-01-20 18:17:57「一人で肉を食おうとするなよ、俺たちにも分けろよ」 誰かが言った。 「やれやれ、また私の分の肉は無しか」 今ではそれが……そのセリフを言うのが、とても心地よかった。 (肉が食えなくても私は美しく生きれる。生かされたんだ、何か、とても大きな力に……) 89
2016-01-20 18:22:55_セリマは騎士団の面々に向かって宣言した。 「ご存じの通り私はほぼ丸腰だ。手柄はお前たちにくれてやる! それでもかまわないさ。お前ら、こんなおいしい肉を前にして、半病人だからって躊躇するなよ!」 雄叫びと共に、クロスボウのボルトが、動けない肉鎧に向かって殺到した! 90
2016-01-20 18:27:59