美しい男は買い食いなんてしない#2 輝きの季節◆1
_再びソファでキリオとレックウィルが向かい合った。ミレイリルは慌ててコーヒーを入れに行く。背後から深刻な声。 「霊のやつ、俺の食欲を全開に引き出したんだ。食べ物を見なくても、延々とベルの音が頭の中で響き続ける。もう限界だ……」 彼の背中でいやらしく笑う太った霊。 31
2016-01-30 16:19:49_レックウィルの眉間に僅かにしわが寄る。 「霊はかなり強力な暗示を持っているようです。これでは呪いの指輪の効力が強すぎます。ボーダーを下げましょう。強力な食欲にのみ反応するように」 「おねがいします、先生。貴方だけが頼りなんだ」 指輪を調整し、キリオは帰る。 32
2016-01-30 16:25:15_キリオが事務所へまたやってくるのに数日もかからなかった。 「今度はあいつ、静かにしてるんだ……でも、無意識に食欲が高まってきて、こらえられなくなって……きっと、ボーダーギリギリの所を……」 「一枚上手ということですね」 レックウィルは苦そうにコーヒーを飲む。 33
2016-01-30 16:35:24「期間をください。必ずや対策をします」 「そこをなんとか」 「ボーダーよりも食欲が強くなることはありません。どうかしばらく耐えてください」 「分かった。俺もボクサーだ。強敵と、何度も殴りあってきた男だ」 その日キリオは帰り、レックウィルは夜まで考え込んでいた。 34
2016-01-30 16:39:37_ミレイリルも、その日は帰宅せずにレックウィルに付き合った。魔法物品の選択や調整はできないが、コーヒーを入れて話を振るくらいはできる。 時計は午前2時を回っていた。 「難しい仕事ですね、先生」 「難しくなかったら、僕じゃなくてもできる仕事さ」 35
2016-01-30 16:43:37_レックウィルは紙にメモを走らせ思考を続ける。いくつも浮かんだアイディアを、一つずつ否定していく。 「すぐに答えが出るなら、僕はいらない。本気で悩み、考え、通ることのできない道を押し通る。そこまでやって、初めて評価されるのさ」 何杯目か分からないコーヒーを飲む。 36
2016-01-30 16:48:32「僕にしか出せない答えがある。僕にしか解決できない問題がある。だからお客さんは、僕を……レックウィルの事務所を選ぶんだ。キリオさんは僕を選んだ。だから、僕は絶対答えを出せる」 ミレイリルは彼を眩しく思う。彼の年齢の頃、ミレイリルは何をしていただろうか? 37
2016-01-30 16:52:28_ミレイリルは30歳になるまで自宅でのんびりとしていた。家事手伝いくらいしか経験もない。自分にしか出せない答えが思いつかなかった。 「もちろん、ミレイリルにしか解決できない問題もあるよ」 うつむいた彼女の顔を覗き込むレックウィル。恥ずかしそうに眼を逸らす彼女。 38
2016-01-30 16:58:19_レックウィルはソファに座ったままテーブルの上のメモをくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てた。 「くだらない案を書きすぎて目が腐りそうだ。君を見てると目が癒されるよ」 そう言ってじっとミレイリルを見る。真っ赤になって彼女は身をよじった。 「やーん、やーん、照れます」 39
2016-01-30 17:04:30_ミレイリルの声は甘く自分でもそこだけは自慢に思っていた。ただ、何に役立つかといえば不明だが。 レックウィルは静かにミレイリルを見たまま思案を始める。そして、何か閃いたように表情を明るくした。 「そうだよ……キリオさんに、恋人がいるか聞かなくちゃ!」 40
2016-01-30 17:08:33