タマネギの形をした涙#1 変態とのコネクション◆3
_ナィレンの南には灰土地域を横断する大河……聖河が横たわっており、水資源に乏しいナィレンは、古代より聖河から水道を渡して水を確保していた。 古代エシエドール帝国の時代から石造りの水道や水道橋は大切に維持されていたが、今回そこが詰まったという。 21
2016-02-05 17:18:20_ただ詰まっただけではない。謎の巨大植物が水道を埋め尽くしているという。こういった問題は、自警団の手に負えない。アーティファクトを所持した冒険者の役目である。アーティファクトは高価であるため、自治体が管理運営するのは費用的に難しい。特にナィレンのような弱い都市は。 22
2016-02-05 17:25:52_アーティファクトを安定して生産出来れば話は違うだろうが、アーティファクトは偶発的に出現するものだ。力とは権力であり、ある日突然ただの人間が権力を手にする。 権力を奪うためにはかなりの労力を必要とする。だから、仕事を提示して、安価でレンタルする。その方が楽だ。 23
2016-02-05 17:29:52_ミェルヒもアーティファクトを所持した冒険者だ。エンジェはアーティファクトを持っていないが、ミェルヒをサポートして彼の死角を埋める。 ミェルヒが持つ赤錆の鎧は様々な性能を秘めている。火炎放射はよく使うだろう。半面、めったに脱ぐことはできないという呪いが課せられている。 24
2016-02-05 17:34:07_エンジェとミェルヒは現場に来ていた。目の前には巨大な植物。青いタマネギ。水道を太い根で埋め尽くし、セラミックの蓋をこじ開けて天高く伸びている。 「これは自警団には無理だね」 水道の幅は5メートル程度。水路といってもいい。それが完全に塞がれている。 25
2016-02-05 17:40:53_あふれ出た水が田畑に浸水して農民が困った顔で座っている。辺りは田舎町で、広い畑が広がり小屋のような農民の家が点在していた。 「気を付けてくれ。水道だから農薬は使えないし、斧で切ろうとしたら根を伸ばしてきて反撃する。危険だ」 自警団が説明する。 26
2016-02-05 17:45:50「ま、植物だからね。軽く燃やしてみるかな」 見るからに水分量の多そうなタマネギだったが、ミェルヒの持つ赤錆の鎧の火力も負けてはいないだろう。虚空に火を噴く。ミェルヒの身長の倍ほどもある火柱がバシネットの兜から噴出した。 エンジェは出る幕もないと暇そうにしている。 27
2016-02-05 17:54:49_ふと、水道脇の街道を見る。一人の男……いや、おっさんが息を切らして走ってくる。薄汚れた白衣を着ている。 「やめてくれー!」 必死に叫んでいる。エンジェは、絵の具で汚れた自分のネズミ色・ボロボロ・ワンピースと汚れた白衣が似ているような気がした。 28
2016-02-05 17:59:30_ミェルヒはタマネギに向かうのをやめて立ち止まる。何が事情がありそうだ。おっさんは転がり込むようにミェルヒの前に立ちふさがり、彼の両足に縋りついた。 「頼む、タマネギを焼かないでくれ、頼む!」 おっさんの目の下にはクマがあった。伸ばし放題の無精ひげ。 29
2016-02-05 18:05:26_おっさんは涙を流しながら懇願する。 「俺のせいだとは分かっているが、あのタマネギは俺の全てなんだ! 頼む、時間をくれ……なんとかさせてくれ!」 30
2016-02-05 18:11:21【用語解説】 【聖河】 北の北壁山脈の雪解け水と、南の竜芽山脈の湧水を水源とする灰土地域最大の大河。北西の果てで海と交わる。支流がいくつもあり、豊かな生態系を築き、都市へ恵みをもたらす。聖河スキュラが生息し、自治権を主張し、通行料を要求したため水上交通は発達しなかった
2016-02-05 18:21:44