米ロ新START条約履行についての今後の見通し

ロシアで米ロ新START条約が正式に批准され、昨年末の米国の批准とあわせ条約が正式に発効する。それはそれで結構なことであるが、ミサイル防衛(MD)についての米ロ間の認識の齟齬は残ったままである。これが今後の米ロ間の新START条約履行や更なる戦略核(及び戦術核)削減交渉を妨げる暗雲として残っている。
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fj197099 @fj197099

ロシア:新START 議会の批准手続き完了(http://bit.ly/g0TW0U)…米ロ新START条約は米ロ両国での批准が完了して発効する。ただしロシア上院は批准にあたって米国のミサイル防衛(MD)能力の発展次第では条約から離脱することへの一定の含みを残す声明を採択した。

2011-01-27 07:09:45
fj197099 @fj197099

このこと自体はロシア政府が新START条約を調印した時に既に一方的な宣言として行っていることであるから驚くには当たらない。しかし「条約はMD計画を制約しない」とする米国と「米国のMD計画の発展次第ではロシアは条約から離脱する」とするロシアとの間の認識のズレは残ったままと言う事だ。

2011-01-27 07:12:08
fj197099 @fj197099

この問題が今後の米ロ間の新START条約履行及び戦略核(及び戦術核)削減交渉の進展と大きく係ってくるであろう。というのは、過去の核軍備管理条約(SALTなど)ではABM条約の様に戦略核の軍備管理とMD規制の連関が明確に意識されていたが、新STARTではそれが存在しないからである。

2011-01-27 07:14:57
fj197099 @fj197099

当時と異なり核拡散が進んだ今日では米国は米ロ間の戦略的安定性だけを考えていればよいという訳にはいかない。抑止が効かない可能性がある北朝鮮やイラン等の「ならず者国家」からの核攻撃への備えがどうしても必要である。故に米国はMD計画を対ロ配慮の観点から諦める訳には決していかない。

2011-01-27 07:16:47
fj197099 @fj197099

他方でロシアは米国のMD能力が自国の戦略核攻撃を無力化してしまうことを恐れる。核抑止の世界ではMDは実は防御ではなく攻撃能力を高めるものとして位置づけられる。完璧な防御に自信があるなら先制攻撃を躊躇う理由はなくなるからだ。ロシアはMDが米ロ間の戦略的安定性を損なうことを恐れる。

2011-01-27 07:19:28
fj197099 @fj197099

MDを巡るこの米ロ間の認識のズレは決して埋まることはない。ロシアは米国のMDに対抗するため、核弾頭数の増強などの軍拡を進めるであろう。故に中長期的に見ると米ロ間の更なる戦略核(及び戦術核)削減交渉は困難であるばかりか、現在の新START条約の履行でさえ不確実性が残るのである。

2011-01-27 07:21:30
fj197099 @fj197099

米国では対欧州方面でのMDとしてPAAという計画が進行中だが、昨年11月のNATOリスボン首脳会談ではこれをNATOのALTBMDという計画と連結してNATO全域の領域MDへと発展させる計画が正式合意された。主にイランの核計画の動向と関連して、欧州のMD計画は着実に進んでいる。

2011-01-27 07:24:05
fj197099 @fj197099

特に注目は2018年以降である。米国のPAAではこの年以降、ICBMを対応とするMD網を形成することになっているが(その役割を担うのは日米共同開発のSM-3 Block IIAミサイルの発展型のBlock IIBミサイル)、これは単なる欧州防衛ではなく米国を直接守るためのものだ。

2011-01-27 07:26:06
fj197099 @fj197099

故にロシアから見ればICBM対応のMD配備は米ロ間の戦略的安定性を深刻に揺るがすものとして受け止められるであろう。よってこの年までに米ロ間のMDに対する認識の齟齬が解消されない限り、戦略核の削減及び軍備管理の次元でも米ロ間の協調が破綻する可能性が高いということなのである。

2011-01-27 07:27:47
fj197099 @fj197099

米国はそれを避けるために昨年のNATOリスボン会議でロシアとのMD協力を打ち出した訳であるが、詳しい協議は今年3~6月に先送りされ、しかもおそらく意味ある協力体制の構築は出来ないであろう。新START条約はオバマ政権の成果だが、そこにはMDを巡るこんな時限爆弾も存在するのである。

2011-01-27 07:30:52