タマネギの形をした涙#3 25年後の君に◆2
_タマネギの花が咲くことは分かっている。失敗も成功もなく、ただ花が咲く。エンジェは加齢の呪文を使い、タマネギを急成長させた。すぐにつぼみが伸び、やがて巨大なタマネギの花が咲いた。 ざわざわしていた子供たちが一瞬息をのむ。 71
2016-02-10 17:26:23_それはまるで花火が弾けたような、白い爆発だった。バチバチと音を立てて炸裂するタマネギの花。 子供たちもまた、爆発したように湧いた。大きな花だった。空を埋めるほど大きく咲くとは、エンジェも思わなかった。 72
2016-02-10 17:31:22_子供たちが喜びの声を上げる。その光景を、開発者のおっさんは呆然と見ていた。そして、一筋の涙を流した。 いままで、自分の何かがこれほどまでに他人を喜ばせたことがあっただろうか? 思い出すのは、援助を頼みに行った先の、つまらなそうな顔。 73
2016-02-10 17:35:58_変態の足元に群がり、彼を称賛する子供たち。その栄光は、おっさんにはかすりもしていない。変態は嬉しそうに子供たちの頭を撫でる。 それでも、おっさんは満たされていた。 「俺はやった、やり遂げたんだ」 74
2016-02-10 17:39:59_おっさんは一人、歓喜の輪から離れて種を拾う。すでにタマネギの花は自家受粉で実を結び、ぱらぱらと種を地面にこぼしていた。 このタマネギは、きっと再び芽吹くだろう。この種が熟したのは一瞬の間であったが、これを収穫するためには……。 「25年かかった」 75
2016-02-10 17:44:06_おっさんは初めて分かった。今までの苦しみは……悲しみは、辛さは。すべてこの日のためにあったのだ。 諦めていた。25年が消え去ると、絶望した。それでも、種は実った。続いていく。今までの日々が、続いていく。 76
2016-02-10 17:48:47「無駄じゃなかった。無駄じゃなかったんだ……俺はいままで、本気で生きてこれていたんだ……」 大粒の種を手のひら一杯に集めて、おっさんは震えていた。それを確認し、ミェルヒは火炎を噴く。燃え上がるタマネギ。喜ぶ児童。 77
2016-02-10 17:55:28_おっさんは自分自身に問いかける。 (俺はこれからも誰かの役に立てるだろうか……いや、役に立てるはずだ。これまでの25年は無駄じゃなかった。なら、これからの25年も無駄のはずないじゃないか) 隣にはエンジェ。迷いの消えたおっさんの顔を見れば、彼女にも察することはできた。 78
2016-02-10 17:59:35「あなたの本気、実りましたね」 「ああ、これから25年かけて、この実を芽吹かせてみせる……きっとだ」 エンジェは、焼き尽くされるタマネギを見ていう。 「残酷な世界は、あなたの夢を挫きます。それでも……」 おっさんは、笑い飛ばす。 79
2016-02-10 18:03:50「25年後、また25年後……何度でも繰り返せばいい。夢が叶わずに死んだら……」 おっさんの涙は、もう乾いている。 「地獄で夢の続きを追えばいいさ」 80
2016-02-10 18:12:45【用語解説】 【魔法の制約】 様々な効果を持ち、余りにも便利すぎる魔法ではあるが、いくつかのデメリットや制限がある。その一つが、使うと腹が減るということだ。水道代わりにお湯の魔法を乱用すれば、きっと食費が何倍にもなるだろう。細胞内で魔力を代謝する際に糖分を必要とするためである
2016-02-10 19:27:35