風邪とエプロンと倉子

キャンジャニ学園×関ジャニ∞ @canjani8kanjani

1 頭痛い。 喉も焼ける様に痛ーて水すら飲み込めへん。 鼻詰まって息出来へんし鼻かみ過ぎてヒリヒリする。 頭ぼーっとして布団から起き上がるのんもしんどい。 飯なんて丸2日くらい食ってない気するけど、そういや今日何日？ 手持ちの薬ももう切れた。

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2 スマホもどっか行ってもーてうんともすんとも言わんから電池切れてんねやろな。 でも探す気力もないから誰かに助けを求めることも出来へん。 なんや朦朧としてきた。 もうずっとこんなんや。 寝てるんか起きてるんかもわからんまんま。 あー、俺このまま死ぬんやろか…。

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3 誰にも気付かれんと冷たくなって、んで変な臭いするーって大家がドア開けて入ってきて腐った俺発見されて。 …って、アホなこと言うてんなぁ、俺…。 こんなんで死ぬはずないやん。 寝て、起きて、そしてらきっと治ってるって。 ほんであったかくて美味い飯喰いに行くねん。 何にしよ。

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4 焼肉？ラーメン？ …あんま喰いたないな。 風邪って言ったらやっぱあれやな…オカンが作ってくれたあのお粥。 白米だけで作っとるから殆ど味せーへんねんけど。 梅干し入れてちょっとずつ崩しながら食べんねん。 子供んときはあんま美味い思わんかったけどな。

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5 そういや昔は風邪ひくんあんま嫌ちゃうかったなあ。 いっつも忙しくて弟たちに占領されてるオカンが家にいてくれんねん。 心配そうに覗き込む顔が嬉しくてなあ。 あん時だけは俺だけのオカンやった。 一人暮らしって好き勝手やれて気楽やけどこういうときしんどい。 気弱なってんな、俺。

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6 寒いなあ…また熱上がってんねやろか。 寝よ寝よ。 起きたらよくなってますように。 そんなん考えたとこまでは覚えとる。 そのまま眠って、何か夢うつつに声かけられたような。 あぁ、オカン来てくれてんや…さすがやな、言わんでもわかんねや…って、そう安心してまた眠りに落ちた。

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7 あぁー…よく寝た。 何かスッキリしてるし体も軽い。 頭痒いわー風呂入りたいな。 部屋もあったかいしいい匂いもする。 腹減ったなー。 飯何やろ？ …って、飯！？ ハッとして、パチッて目開けた。 オカンなん来るはずないやん？ あれ夢やろ？ じゃ、この匂い何！？

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8 少し体を起こして部屋ん中を見まわす。 脱ぎっぱなしだった服も適当に食べた後のゴミも、ベッドの下に転がってたはずの空のペットボトルもなくなっとる。 暖かく、こざっぱりと整えられた部屋。 一体誰？ マジでオカン？ そん時、ベランダへ続く窓が開いた。

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9 『うー、さむ…』 洗濯かご持って、体を震わせながら部屋に入って来たんは…。 「倉子？」 吃驚して出た声に顔を向けて。 『あ、起きた！』 目おっきくさせて、かご放っぽり出してこっち走って来た。

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10 『熱は？下がってる？…よかったかぁ…。しんどくない？何か飲む？あ、まだ起きちゃダメだってば！』 ぺたぺた顔中触られて、矢継ぎ早に質問されて、答える間もなくまた布団に押し込まれて、呆然と台所に走ってく後姿を見る。 ほどなくして、湯気の立ったカップ持って戻って来る倉子。

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11 その手から受け取って口にしたお茶は意外なほど美味かった。 こんなあったかいもん飲んだんいつぶりやろ。 何かホッとする。 力抜けるわあ。 壁によりかかって飲みながら息を吐いた。 『裕兄ちゃん』 「ん？」 『いつから風邪ひいてたの？』

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12 「いつやろなぁ…試験の間から調子悪かったけど何とか誤魔化して…終わってからかなあ、パッタリきてもーたんは…」 斜め上見ながら記憶を辿って、視線を下に戻せばそこには何や怖い顔した倉子がおって。 『…吃驚したんだから』 「んん？」

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13 『LINE送っても既読にならないし、来てみたら真っ赤な顔して死にそうになってるんだもん…』 「あぁ…スマホどこ行ってんやろ？」 『そこ、机の上。ベッドの下に落ちてた』 「ホンマ？ありがとう」 充電せな…って取ろうとしてペシッて手叩かれた。 「痛っ！？」

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14 『もう！今いいの、そんなの！』 「そんなんって…」 『心配したんだから！』 顔赤くさせて叫んで、みるみるうちに目から涙が溢れる。 「ちょ、倉子？」 『すごい熱で…死んじゃうかと思った…怖かった…』 「そんな大げさな…」 『怖かったの…よかった…ほんと…』

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15 「お…っと、ぉ？」 ふえぇ…って泣き声あげて抱き付いてきた体を片手で何とか支える。 持ってたカップを横に置いて、その背中を何度も撫でた。 「…ごめんな？」 『うっ、ふ、ぅ…っ』 嗚咽を漏らす倉子の体を抱き締めて、妙に安心した気持ちになる。 体温ってあったかいなあ。

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16 人がいるってええなあって。 寒い部屋も病気になって一人で寝てんのも慣れとったはずやのにな。 寂しかったんかなあ、俺。 ぽんぽん背中を叩きながら考える。 風邪ひいとんの俺やのに、何で倉子のこと慰めてんねやろ。 てか着替えてないし風呂入ってないから臭いやろ？

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17 汚いから離れた方がええで。 そう思っても何となく離れる気にならん。 倉子が泣き止んで顔上げるまで、ずっとそうしとった。 『…も、大丈夫？』 「多分な」 『ほんと？』 「おん。頭スッキリしとるし、腹も減っとるし。もう大丈夫やろ」 『よかった…あ、ご飯食べる！？』

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18 ホッとした表情がパッと変わる。 「食べる食べる。ええ匂いしとる。倉子作ってくれたん？」 『うん。簡単な雑炊だけど』 パタパタ台所に走ってく姿。 さっきから何度も見とるけど、今気づいた。 制服にエプロンて。 どっから持ってきたん、それ？

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19 病み上がりやし腹減ってるしで力入らんけど、ちょっとムラッとして、あ、元気や俺…って。 そんな性欲も、倉子が持ってきた鍋の中身見て吹っ飛んだ。 具だくさんの雑炊。美味そ。 「いただきます」 ふーふー冷まして一口。 「ん！」 『えっ！？』 「美味い」

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20 『えっ？あっ…よかった…』 ふっ、って力抜けたように笑う倉子。 そういや、今日初めて笑ったん見たわ。 ホンマに心配してくれててんなあ。 その笑顔をチラチラ見ながら雑炊を食べる。 「鶏肉とかネギなんあった？」 『冷凍庫に入ってた』

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21 記憶ないなあ…前付き合っとった誰かが入れてったんやろか？ そんなん言うたらめっちゃ怒りそうやから言わんけど。 鶏肉とネギと卵が入ってて、出汁がきいててちょっと甘めの雑炊。 これが倉子んちの病気んときに出てくるやつなん？ オカンのとは全然違うやつやけど、妙に美味い。

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22 倉子んちは家族みんなよー喰うからなあ。 ちっちゃい頃遊び行って、テーブルん上いっぱいおかず並んでるん見て吃驚したん覚えてるわ。 懐かしいなあ。 空になった茶碗にお代わりよそってくれる姿見ながら、家族ってこんなんやったかなーって。 なんか…なんか、ええなあ。

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23 そんなこと思って、いやいや！って頭振って、んで、ふと気づいた。 「倉子、部屋どうやって入って来たん？」 『え？』 「鍵かかっとったやろ？」 『空いてたよ？』 「嘘つけ。ちゃんと閉めたん覚えてんもん。寝とるときガチャガチャやって開けへんかったし」 『…』

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24 「…お前、もしかして鍵持っとるん？」 『…』 「倉子？」 『…』 「おい」 『…』 視線反らして唇噛んで俯いて、それからキーホルダーから一個鍵取ってテーブルの上に置いた。 『…ごめんなさい』 「お前…」 その鍵を手に取って、溜息ついた。

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25 「いつから持っとったん？」 『…前におばさんからお使い頼まれた時に…』 「作ったん？」 こっくり頷いて…って、お前…。 「マジか…」 そんなんずっと前やんか。 一人暮らし始めてすぐやん。 あれか？俺鍵かけ忘れてた言うて部屋入って来てたん、ホンマはこの鍵使ってたん？