氷下の天使#2 氷下の約束◆1

流氷の海の下には、天使がいる。地球であったらクリオネのことだが、この世界では本当に天使が眠っている。 その天使の死体を引き上げる仕事がある……ある天使漁師が、交わした5年前の約束。彼女は……目を覚ました、ただ一人の天使だった。 最初↓ #1 ◆1 http://togetter.com/li/939471 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_氷下の天使#2 氷下の約束

2016-02-20 16:58:44
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_ベルシルム、フィル、そしてレッドは埃まみれの潜水服を引っ張り出し、船で沖へと漕ぎ出した。漁師ごとに漁できるポイントは決まっており、その持ち場は毎年ローテーションされる。  ポイントに到着し、ポンプを作動させて3人は潜水を開始した。 31

2016-02-20 17:09:45
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_3人は電話線で船と繋がっており、会話をすることができる。 「分かっているとは思うけど……流れに身を任せるんだ」 「レクチャーを受けるのも、観光の醍醐味さ」  フィルもレッドも慣れたものだ。 「その辺でワイヤーを固定してくれ。船に誰もいないから、安全のためにね」 32

2016-02-20 17:14:49
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_ベルシルムは一人、深くへと潜行していく。砂地の海底に広がるのは、無数のヒトデの群れ。そして、無言で横たわる天使の死体だ。  深い青に彩られ、まるで前衛的なサイレント映画のように3人を感動させる。ベルシルムは、何度見ても美しいと思う。 33

2016-02-20 17:21:46
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「可愛い女は好きか?」  ベルシルムの問い。レッドは明らかにテンションが上がる。 「好きっすよ! いやーもう、本当、それさえあれば何もいらないね!」 「俺もだ」  海底に降り立ったベルシルムは、一人の天使の横に跪く。顔に積もった砂を払ってやる。 34

2016-02-20 17:29:27
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_ゆっくり天使を抱き上げて、ワイヤーを巻き戻す。上層で待機しているフィルとレッドの元に、彼女を紹介しに行く。 「かわいいな」「かわいいだろう」  フィルは静かに言うが、声は嬉しそうだ。すると……死んでいるはずの天使がはにかんだのだ! 35

2016-02-20 17:34:47
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「生きている!」  レッドは悲鳴に近い声をあげる。グレイソフィアの使徒が生きていると分かったら大発見だ。けれども、ベルシルムは首を横に振る。 「心臓は鼓動していない。彼女は死霊だ」 「はじめまして」  天使が喋った! その声が脳内に響く。 36

2016-02-20 17:39:50
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_死霊は妄執によって心が狂っていくはずである。彼女は平然としている。つまりは、破壊衝動に代わる執着を持っているということだ。その説明も、天使はしてくれた。 「怒りの心を別な渇望に変えたのは、川からくる素敵な匂い……森の香りです。見たことないけれど、花の香りなのです」 37

2016-02-20 17:44:30
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_ベルシルムは天使を抱きかかえ、海中にワイヤーで吊られながら言う。 「もうすぐ漁区が変わる。君をこれ以上隠し続けることはできない。いつか、森の中の遺跡に連れていってあげるって約束したね。その遺跡には、たくさん花が咲いていてさ、きっと君の感じた香りはそれだよ」 38

2016-02-20 17:49:10
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「おいおい、約束を守ってあげなくちゃダメだぜ」  レッドは二人の仲の良さに思わずにやける。 「分かっているけれど、遺跡に行くには街を横切らないといけない。もう少し待っていてほしいんだ。もうすぐ魚の群れがやってきて、皆準備に忙しくなる。その時を……」 39

2016-02-20 17:53:50
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_天使は少し寂しそうな顔をしてベルシルムに告げる。 「20分だけでいいのです。時間をください。船で待っていて……考える時間が欲しいのです」  そのことをフィルとレッドにも告げて、ベルシルムは一度天使を海底に戻す。天使は、その時もいつもと変わらない様子に見えた。 40

2016-02-20 17:59:22
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_氷下の天使#2 氷下の約束 ◆1終わり ◆2へつづく

2016-02-20 18:00:01
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【用語解説】 【天使・使徒】 神の下僕として働く者たち。魔力の塊で出来ており、何らかの魔力を帯びたエレメントの姿をしていることが多い。多くは神の足元から自然発生するが、人間が自らの命を犠牲にして転生することも可能である。神々はそれぞれ個性的な使途を生み出し、共通点は少ない

2016-02-20 18:07:34