荒野の領土に歌よ響け#1 お喋りな盾◆1
_こんな波の静かな日は、きっと誰かに出会える日。カルマサは船のデッキの上に寝椅子を用意し、さんさんと照り付ける太陽を浴びていた。 ハーフパンツに上半身裸。彼の肌は浅黒く焼けている。 「よう、ご機嫌だな!」 頭上を飛び交うカモメに挨拶。 1
2016-02-26 17:42:21_彼は一人だった。中型のボートは自分一人で操縦できる。港に別れを告げ、島から島へと渡り歩いていた。 楽しい生活だ。アヅマネシア連邦の内戦は100年も続いているが、秩序が無いわけではない。自由を謳歌できるくらいの居場所はあった。 2
2016-02-26 17:54:39_秩序。そう、権力が崩壊した後は、力が秩序を維持した。カルマサは自由と引き換えに、力に屈した。屈辱ではなく、ビジネスだ。カルマサは小さいプライドよりも、金と自由を優先する。 今日も潜水騎士たちが突撃艇を飛ばしてやってきた。カルマサのめんどくさそうな顔。 3
2016-02-26 17:59:48_潜水騎士はアヅマネシアによく見られる兵種だ。水中の歩兵といっていい。鎧の騎士のような恰好は戦闘用の潜水服だ。彼らの掲げる長大な槍の先端には、5キロの高性能爆雷。これで海底を歩き、敵船の船底を攻撃する。 「のんきに遊んでるなぁ!」 潜水騎士の、のんきな声。 4
2016-02-26 18:04:55_突撃艇から槍を掲げて、潜水騎士がカルマサに声をかける。 「遊んでばっかりじゃダメだ。仕事をしろ! 数日前から数日後の間に、この近辺でアーティファクトが見つかる……もしくは生まれる!」 「探して渡せって言うんだろ? 分かりましたよ」 5
2016-02-26 18:09:27_潜水騎士は海賊と何ら変わりないが、各地で高レベルな軍閥を形成している。生産設備などを掌握し、潜水騎士の装備さえも安定して生産する。 こうして、予知を行って作戦を展開することすらできた。逆らえば、船を破壊されて沈むしかない。 6
2016-02-26 18:13:54_彼らの去った後、カルマサはめんどくさそうにあくびをした。そして潜水服を着て、海中散歩を始めた。カルマサはビジネスと自由のバランスをうまく使う。海中散歩は自由だし、仕事をしているようにも見えるのでビジネスにもなる。自由を主張してビジネスを損なうこともなく、逆もない。 7
2016-02-26 18:16:57_海底にはまるでゴミ捨て場のように船の残骸が散乱して漁礁になっていた。古いものから新しいものまで様々だ。死因は無数にある。潜水騎士の槍だったり、魚雷だったり、砲撃戦だったり。 アヅマネシア連邦の内戦は飽きることなく繰り返される。 8
2016-02-26 18:20:53_カルマサの仕事は、この残骸漁りだった。レアメタルや魔法物品、運が良ければアーティファクトを拾って、軍閥に提供する。 見返りとして金を貰える。軍閥で流通する金で、支配下の島の市場で利用できる。内戦が飽きるほど続いたせいか、奇妙な秩序がそれぞれの軍閥に存在した。 9
2016-02-26 18:24:52_海底で何かが光った。一見岩に見えるが、カルマサの探知機はそれがアーティファクトであることを知らせていた。 「ラッキー。もう見っけた」 「何見てんだよ」 意外な現象にカルマサは驚く。アーティファクトが喋った。このアーティファクトは、生きているのだ。 10
2016-02-26 18:28:54【用語解説】 【アヅマネシア】 世界の中心から北東の一角を占める、広大な海。そこに点在する様々な諸島、列島を指す。他の地方には見られない独特の文化や風習、固有の言葉を持ち、人種もアヅマネシア人がほとんどを占める。灰土地域とは違い、魔法と科学が融合した文明が続くが、戦乱は絶えない
2016-02-26 18:33:17