荒野の領土に歌よ響け#2 嵐の去った後の景色◆1
_潜水騎士に言いたい放題言われ、盾は苦しみ甲板の上で跳ねていた。カルマサはどうなだめようか、手を出せない。 「苦しい……悔しいぞ……俺がもっと強かったら、あんな奴らなんかに……」 全く暑い日だ、とカルマサは空を見上げた。すると、先程と同じように上昇気流が生まれる。 31
2016-02-29 17:15:24「やめとけよ。嵐なんか起こしたって……」 そこまで言って、カルマサは肩をすくめた。盾の怒りはもっともだ、カルマサの価値観で彼を止めることはできないように思えた。 「しょうがねぇ奴だぜ」 やがて生まれた暗雲は、突撃艇の去った方へと猛スピードで飛んで行った。 32
2016-02-29 17:20:12_盾はかなり消耗したようで、あれほど元気に跳ねていたのに、今はぐったりとして動かなくなっている。 「な、疲れただろう。南国のさ、果物のジュースが飲みたくないか?」 「俺はジュースなんか飲まない……」 「ジュースを嫌いな人間は少ないよな。ジュースは潤いだからな……」 33
2016-02-29 17:25:02_カルマサは盾の隣、甲板に寝転がって赤褐色の肌をさらに焦がす。 「難しいよな。俺の価値観では、偉そうにしているやつらにへらへら笑っていればいいと思っている。お前はそうは思わないんだ。俺はお前がジュースの嫌いなやつに見える」 「ジュースなんて嫌いだ。べたべたするだけだ」 34
2016-02-29 17:40:51_そのとき爆音を立てて突撃艇が戻ってきた。さっきの暗雲を受けたようで、全体的にびしょぬれだった。ただ、やはり転覆はできなかったようである。 「てめーだろ! 嵐をぶつけたのは!」 潜水騎士が次々と船に乗り込み、盾を集団で踏みつける。 35
2016-02-29 17:48:03_盾は魔力の風を巻き起こして抵抗するが、戦闘潜水服を着ている潜水騎士には傷一つつけられない。カルマサもまた、潜水騎士に歯向かうことなどできない。 「次こんなことをしたらぶっ壊すからな、大人しく隅っこで震えていろ」 彼らが去った後には、曲がってしまった盾だけが残った。 36
2016-02-29 17:53:33_アーティファクトに痛覚はあるのだろうか、カルマサは傷ついた心を想像するだけで苦しい。うめき声をあげる盾。 「悔しいよ、俺は。こんなことをされても、傷つけられても。踏みにじられても、耐えなくちゃいけないのかよ。傷つけた奴は、笑って酒でも飲んでるのに、俺はこんなに……」 37
2016-02-29 17:59:27「辛いけれど、一人ぼっちの方がもっと辛い。このままお前が怒りをまき散らし、出会うひと全てを傷つけていくなら、お前は一人ぼっちになってしまうんだぞ。その絶望こそ、お前は怖くないのかよ」 「そんなことは分かっている! 俺がそんなことにも気づかないと……思っているのか……」 38
2016-02-29 18:02:05_カルマサは静かに立ち上がると、干してある潜水服を畳んだ。潜水服はすっかりカラカラに乾いていた。 「いや、悪かった。一人ぼっちなんて突き放してすまなかった。俺はお前の傍にいてやりたいよ。もっと遠い国の話を聞きたいしさ」 39
2016-02-29 18:06:19「うるせー消えろ!」 「やだよ。俺にはやることがあるもん」 「なんだよ」 カルマサは盾を拾い、ライオンの絵を撫でて言った。 「お前を補修してやらなくちゃいけないだろ? お前は本当に、凄い奴だからさ」 40
2016-02-29 18:10:35【用語解説】 【アヅマネシアの重工業】 金属の鉱石が大量に産出し、セラミックが普及する灰土地域とは違ってあらゆる場所に金属が使われる。特に造船業が盛んで、軍艦である突撃艇駆逐艦が毎年のように進水し、沈められている。ただ、内戦で生産性は年々衰え、鉱山は閉鎖し、ジャンク漁りが蔓延る
2016-02-29 18:16:23