角川ドミナント戦略と「空白地帯」のミステリ作家たち

結城昌治、生島治郎、大藪春彦、土屋隆夫など、入手難な1960〜70年代の国内ミステリ作品の入手難に至った流れについて、角川「ドミナント戦略」とともに考察した安眠練炭さんの呟きをまとめました。※追記 練炭さんの呟きのきっかけとなった、浅木原忍さんの呟きを追加しました。
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浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

東西ミステリーベスト100の旧版を見てると、30年の間に残った作家と忘れられた作家が残酷なまでに露わになってるなあと思った 特に旧版上位にいる結城昌治、生島治郎、大藪春彦あたりの忘れられっぷりが際立つ 土屋隆夫も新版でギリギリ『危険な童話』が残ってるけど今は著作全部品切れだしなあ

2016-03-08 01:35:03
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

60~70年代がミステリ史の空白地帯と化してるのって、ひょっとして主要な原因は消費税導入でこのあたりの作品が軒並み絶版になったとかそういうアレ?

2016-03-08 01:41:08
浅木原忍@31日西う25ab @asagihara_s

ふと気になって今新品で手に入る結城昌治作品ってあるの?と調べてみたらこないだP+D BOOKSで出た『志ん生一代』と直木賞受賞作『軍旗はためく下に』だけ生きてるらしい なんだかんだ言って直木賞の冠って強いんだな

2016-03-08 06:41:57
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

浅木原忍氏の『東西ミステリーベスト100』(旧版)についてのコメントで名前が挙げられている、結城昌治、生島治郎、大藪春彦、そして土屋隆夫には、「旧版時点では現役作家だったが新版までに亡くなっている」という共通点があります。これが忘れ去られた/つつある大きな要因でしょう。

2016-03-08 08:06:51
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

誰かが「作家にとって最大の営業活動は書き続けることだ」と言っていて(誰の言葉だったかは忘れました)、新作が出るとそれにつられて旧作も動く(再版されたり新装版が出たりしたり、書店在庫が回り始めたりする)のですが、作者が故人だと動きが止まり、やがて品切れ重版未定になってしまいます。

2016-03-08 08:10:02
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

もうひとつ、さっきの作家名を眺めていて私が気づいたのは、角川文庫から本が出ていた作家ばかりだということです。調べてみると生島治郎の主要著作が角川文庫入りしたのは1995年頃なので時期がずれるのですが、その他は1970年代後半~1980年代の角川文庫黄金時代に出ています。

2016-03-08 08:16:35
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

前にも呟いたことがあったと思いますが、昭和50年代の角川文庫は横溝ブームの牽引役として大いに活躍し、ほとんどドミナント戦略とでも呼ぶべき手法(エンクロージャー戦略かもしれません)でこれと目をつけた作家の作品の旧作を掘り起こして毎月のように連続刊行していました。

2016-03-08 08:20:21
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

角川文庫ドミナント戦略の代表は横溝正史と赤川次郎ですが、浅木原忍氏が「空白地帯」と評する1960~1970年代の作家の作品も多数刊行されました。高木彬光、山田風太郎などの人気作家(意外かもしれませんが高木彬光はカッパノベルスの稼ぎ頭の一人でした)はもとより鮎川哲也、天藤真など……

2016-03-08 08:29:22
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

またミステリ作家ではありませんが、半村良や西村寿行も角川文庫の棚にずらりと並んでいて壮観でした。ほかにも都筑道夫とか森村誠一とか和久峻三とか小松左京とか筒井康隆とか(御三家のうち星新一は太陽風交点事件の後、新潮文庫が囲い込んだので、角川文庫からはごくわずか)眉村卓とか……

2016-03-08 08:34:33
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

角川文庫ドミナント戦略のおかげで、日本の1960~1970年代の作家の作品はかなりマイナーなものも含めて当時の読者は容易に入手することができました。そして、角川文庫の凋落とともにこの時代が「空白地帯」と化し、有名作や代表作すら新刊書店では入手困難になってしまいました。

2016-03-08 08:40:56
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

角川文庫ドミナント戦略の終焉は1990年前後だと記憶しています。浅木原氏の指摘する消費税導入(1989年)の影響も大きかったのでしょう。何しろそれが遠因で社会思想社が倒産したほどですから、ガリバー角川も無傷ではいられなかったはず。それと角川家の一族の御家騒動も関係あるかも。

2016-03-08 08:44:04
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

角川を逐われた弟が電撃ブランドを立ち上げて再起をはかり、やがて角川に凱旋を果たす一方、兄は司直の手にかかる……という激動のドラマは140文字×数ツイートで語り尽くすことはできませんが、ともあれその後のハルキ文庫の連城三紀彦などは角川ドミナント戦略のかすかな残影のようにも思えます。

2016-03-08 08:50:55
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

いや、角川家の一族についての事情を抜きに素直に書店の文庫棚をみれば、ハルキ文庫が特に角川ドミナント戦略を継承しているというわけではなくて、単に二次文庫化の受け皿の1つに過ぎないわけですが。「空白地帯」を埋める努力は光文社文庫や創元推理文庫なと各社で見られます。

2016-03-08 08:54:36
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

しかし角川文庫の穴は大きく、なかなか埋まりません。幸い今ではちょっと考えられないほど本がよく売れた時期だったので角川ドミナント戦略期の本は中古市場にも大量に流入し、一時ほとんど捨て値で売られていましたが、最近ではバーコードのない本は扱わない新古書店も多く、見つけにくくなりました。

2016-03-08 08:58:31
安眠練炭 @aNmiNreNtaN

個人的には、昔の文庫本は活字が小さいので古本屋で買ってもなかなか読む気にならないという事情もあり、あまり読まなくなってしまいました。本は代えるうちに買い、読めるうちに読むべし!

2016-03-08 08:59:53