紅玉の茶会を、打ち砕け!#1 エンターザダンジョン◆1
_少年は怯えていた。そして信じていた。いま少年は……シャルククは洞窟の底に潜んでいる。鍾乳洞の地面は濡れており、彼の半ズボンはお漏らししたようになってしまった。それでも、恐怖の方が大きい。頭上にいるのは……カサカサと硬質な音を立てる、サソリの化け物だ。 1
2016-03-14 17:26:07_サソリの化け物の遥か頭上、崖をよじ登るのは冒険者のクルス。サソリの化け物は、彼を追って崖を上る。ここは縦穴になっており、登攀中にクルスは化け物の襲撃を受けたのだ。シャルククはとっさに身を隠す。その判断は正しかった。クルスはわざとザイルを打ち鳴らし、化け物の興味を引く。 2
2016-03-14 17:32:52_シャルククは岩陰に身を隠しながら化け物の姿を確認する。1メートルはあろうかという大きなサソリ。尻尾は、毒針の場所に、子供の大きさの頭がついている。その無表情の口からは、おぞましい歌声が響いていた。 「人面サソリ。知能は低い。大丈夫」 クルスの声を、シャルククは信じる。 3
2016-03-14 17:37:35_人面サソリは、尾の顔から奇妙な歌を歌う。それのせいか、クルスには異常が発生していた。彼は数種の魔法が使えるはずだが、シャルククがいつまで待っても魔法を使う様子は見られない。魔法を封じられている! 得意の剣も、ザイルを握ったまま下にいるサソリを攻撃することは不可能だ。 4
2016-03-14 17:43:06_シャルククは助けに行きたかった。応援もしたかった。そのどれもが、状況を悪化させるであろうことを知っていはいる。 人面サソリは歌声と同時に魔法を展開する。地面の小石がゆっくりと空中に浮遊した。飛礫の呪文だ。このまま加速させた石をぶつける気なのだ。 5
2016-03-14 17:47:36_ジャリッ……という、砂を踏む音に、シャルククは気づく。歌声に紛れて聞き逃すところだったが、誰かがいる。その正体も見当がついた。さっきから姿を見せていない、もう一人の友達。 壁を上っていくサソリのすぐ下で、白刃が一閃した。歌声が途切れる。尻尾は綺麗に切られていた。 6
2016-03-14 17:52:26_思わず歓声を上げたかった。だが、まだ早い。少年はじっと身を潜めて決着がつくのを待つ。サソリの背後に姿を現わしたのは、クルスの仲間の女魔法使い、メイハだ。指には透明化の指輪が光る。魔法が使えなければ、道具を利用するまでだ。 サソリはガタガタ震え、真っ逆さまに墜落した。 7
2016-03-14 17:57:44_呪文さえ封じれば、人面サソリはただの大きな虫に過ぎなかった。メイハはてきぱきとサソリを捕まえ、解体していく。クルスも登攀をやめて下に降りてきた。 陰から飛び出し、クルスの脚に抱きつくシャルクク。 「大丈夫。尾さえ処理すれば、人面サソリはそう強い化け物じゃない」 8
2016-03-14 18:02:22_クルスとメイハは軽くハイタッチ。そしてサソリを解体し、肝やいくつかの内臓を油紙に包んで背嚢に入れる。 これらの臓器には、化け物が摂取して蓄積した濃度の高い魔力が詰まっている。そのため、売れば金になるのだ。 9
2016-03-14 18:08:49「その肉はどうするの? 宝石を見つけるために使うんだよね」 シャルククは不安そうに言う。 「そう、宝石。お兄さんたちも宝石楽しみだよ」 目的は小銭稼ぎではない。3人はシャルクク少年が見たという、洞窟の奥の巨大宝石を探しに来たのだ。 10
2016-03-14 18:14:39【用語解説】 【人面サソリ】 胴体が1メートル近くある巨大サソリ。尾の先が人間の頭のようになっており、敵に対する魔法の阻害といくつかの殺傷性のある魔法を使う。魔法を制御する条件として感情の存在があるが、人面サソリにもやはり感情は存在する。一方知能は低く、気の向くままに狩りを楽しむ
2016-03-14 18:23:10