紅玉の茶会を、打ち砕け!#1 エンターザダンジョン◆2
_先日のことである。洞窟に魔力が溜まる前。まだ枯れ果てていて、安全だったころ。シャルクク少年はその洞窟に一人で探検に来た。友達は連れていない。シャルククには一緒に誘って遊べる友達がいなかった。 どうにかして自慢できるものが欲しい。そう思って探検に来た。 11
2016-03-15 17:18:11_友達を作るには、自分に価値が必要だと思っていた。シャルククは、自分は喋りも得意ではなく、美少年でもなく、お菓子をプレゼントすることもできない、何の価値もない人間だと思っていた。 (価値は、見つけに行くんだ) 洞窟探検で危険を冒せば、見返りがある気がした。 12
2016-03-15 17:22:55_洞窟の魔力が高まるであろうことは大人たちの間で話題になっていた。もうすぐ閉鎖され、冒険者に処置してもらうことになる。僅かな残り時間。 シャルクク少年は思い切って洞窟の闇へ踏み込んだ。その先に、宝石の輝きを見たのだ。確かに! 13
2016-03-15 17:28:26_大人たちにまず報告することにした。 「あの洞窟の奥には大きな宝石があるんだ!」 「嘘だろう。昔あの洞窟に入ったけれど、そんなものは無かったぞ」 「魔力が高まっているんでしょ、魔力からいろんなものが生まれるって聞いたよ」 必死に説得するシャルクク。 14
2016-03-15 17:32:39(自分だけが見つけた、自分の価値だ。これで友達にも自慢できる……きっと、友達もたくさん増える。じゃないと、さびしいよ……僕はやっと自分の価値を見つけられたんだ。お願い、信じて……) シャルククの熱意は相当なものだった。 15
2016-03-15 17:36:51_大人たちはシャルククの熱意に負けて、洞窟を探検することにした。結果は散々だった。何も見つからない。そもそも真っ暗な洞窟の中、シャルククが奥までいけるはずもなく、付近を探しても見つからなかった。 シャルククは嘘をついたと叱られて、いたずらっ子の烙印を押されてしまった。 16
2016-03-15 17:42:02_悔しくて、泣いた。夕暮れの街、自宅の前に座ってしくしくと泣く。 「僕は嘘なんかついていないのに……誰も信じてくれない」 「誰もなんて言うなよ」 隣の家に住むお兄さんが、シャルククの前に立っていた。 「探しに行ってあげるよ。そういうの、得意だし」 17
2016-03-15 17:48:20_シャルククはぱっと顔を明るくして言う。 「クルス兄ちゃん! ありがとう……僕、このままじゃ……何もない人間になっちゃう。何も価値のない人間に……友達も、できない……」 「大丈夫だ、案内してくれるかい? 詳しい状況を知りたいんだ」 18
2016-03-15 17:53:28_クルスはシャルククにとって、近所の職業不明の怪しいお兄さんだったが、そのとき初めて冒険者であることを知った。 冒険者は魔力の濃くなった場所に赴き、生成される宝物を拾うことや魔力を求めて集まってくる化け物を倒すことを仕事とする。 19
2016-03-15 17:58:47_そして、クルスは正式に冒険者として洞窟を調査することを願い出て、シャルククを調査に同行させることにしたのだ。クルスはシャルククの護衛のために、自腹で友達の冒険者を雇った。 そうして、3人は洞窟探索を始めて……人面サソリを倒した所であった。 20
2016-03-15 18:03:28【用語解説】 【冒険者】 魔力が高まってダンジョン化した場所に赴き、魔力の結晶を回収したり、魔力を体内にため込んだ化け物を狩り内臓や骨髄を市場に提供する個人事業者。他にも自治体の要請で荒事を解決したりする。魔力が溜まるのは不定期なため、自治体に事業部が常設されることはあまりない
2016-03-15 18:11:29