紅玉の茶会を、打ち砕け!#1 エンターザダンジョン◆3
_人面サソリの死体は放置し、3人は洞窟の縦穴を上り始めた。鍾乳洞はあちこちから雫が垂れていて、ザイルが濡れるので上りにくい。 メイハはシャルクク少年のために筋力増強の魔法をかけてやった。魔法の補充にはお金がかかるが、彼女なりの優しさだ。 21
2016-03-16 17:27:29_縦穴を上った先は、長い横穴だった。 「だいぶ魔化が進行している」 クルスは呟き、闇に沈んだ洞窟の奥に魔法をかける。すると、壁が発光し地下道のように明るくなった。この魔法は周囲から魔力を吸収して半永久的に明かりをもたらす。最初に潜った冒険者が設置する魔法だ。 22
2016-03-16 17:34:39_こういった狭い場所には魔力が集まってくる。すると、魔力が結晶し様々なものが生成される。神が世界を創造した際、万物を生み出したルールが生きている。そして、魔力を求めて様々な化け物がテレポートで集まってくる。魔力は次々と結晶し、化け物に食い尽くされ、枯渇する。静かになる。 23
2016-03-16 17:39:19_そして、しばらくの休眠期間を取った後、再び魔力が集まり始める。そういうサイクルなのだ。 「普通これだけ魔力濃かったら、もっと化け物集まってきますよね。場を支配している主でもいるのかな」 メイハの指摘ももっともだった。人面サソリ以外の姿は見えない。 24
2016-03-16 17:47:35_そのとき、明かりが一瞬消えて、再び光が戻る。 「え?」 シャルクク少年は唖然としてしまった。自分の隣にいたはずの、クルスとメイハの姿が影も形も無くなっていたのだ。声を上げて呼んでも、残響音が響くだけ。 25
2016-03-16 17:52:21_何かが起きたのだ。とりあえず縦穴に戻ってみるが、二人の姿は見えなかった。縦穴の下にいるかは分からないが、今のシャルククにはそこを降りることはできない。 「探さなくちゃ……」 不安で足が震える。人面サソリの想像をして、頭を振る。 26
2016-03-16 17:57:33_シャルクク少年は振り返り、横穴の先を見る。そこはまだ明かりがついておらず、闇に沈んでいた。あの向こうにいるかもしれない。消えた二人か、もしくは人面サソリか。 「お兄さん、助けてよ……」 心細くなり、呟く。 27
2016-03-16 18:03:49「いま、ひとりぼっちなんだ……」 静寂。ぴちゃぴちゃと垂れる雫の音だけが響く。シャルククは必死に自分の悲しい思考を打ち消す。 「ちがう、ひとりぼっちじゃない」 自分で自分を励ます言葉。 「寂しいからって、僕はお兄さんを忘れたくない」 28
2016-03-16 18:08:29_闇に向かって、歩き出すシャルクク。その足取りには、勇気があった。 「お兄さんは僕を信じてくれた。なのに、僕はお兄さんを忘れるところだった。僕はお兄さんを信じる。信じてくれたから、僕も信じるんだ」 29
2016-03-16 18:15:35_そのとき、縦穴の方から足音。何かが縦穴をよじ登っているようだ。それは人間の上る音ではない。カサカサと、硬質なものが這い上る音。 「ひっ……」 脳裏に人面サソリがよぎる。シャルククは息をのんで、闇に向かってそろそろと歩き出した。 30
2016-03-16 18:21:25【用語解説】 【神による世界の創造】 超文明崩壊と共に破壊しつくされた世界を、神々は幾度となく再生させてきた。現在の超文明、濁積世は、主神エンベロード、副神ベルベンダインの元創造される。古い世界を地層の下に封印し、5つの種族による調和の文明を生み出すが、理想は一瞬で瓦解する
2016-03-16 18:29:07