虚構の展覧会に、選ばれしものたち#1 動き出すアトリエ◆2
_そもそも、ミェルヒには絵を売るという業界について全く知識が無かった。相変わらず埃だらけの部屋、無駄に広い屋敷。土地税だけでもお金がたくさんかかるだろう。それを払えるだけの収入を稼ぐ方法が見当もつかない。 それをエンジェに言うと、エンジェは得意顔を見せた。 11
2016-03-20 14:42:28「イヒヒ、なーんだ。まだそんなレベルだったの? 私はそこからもう一歩先に進んでいるよ」 「なにか考えがあるのかい」 エンジェは得意げになってくるくる踊り、絵の具まみれのネズミ色・ボロボロ・ワンピースを翻す。 12
2016-03-20 14:48:06_ミェルヒは窓の外を見る。すでに日が傾き始めている。こんな時間になって、ようやく起きて、ひと作業して休憩。そんな日々をエンジェは送っていた。 「うーん、君は何も前進しているようには見えないけど、きっと君なりの考えがあるんだろう。聞かせてくれないか?」 13
2016-03-20 14:55:13「おっ、私の話、聞いてくれるのね。何を隠そう、これがポストに入っていたのよ!」 エンジェが隠し持っていたのは、一枚のチラシ。そこには大きく、 【新人画家による絵画展示即売会!参加者募集中】 と書いてある。 「これよ~これに参加するってわけ」 14
2016-03-20 14:59:38「これって、結局どういうイベントなの?」 いまいち反応が鈍いミェルヒに向かって、エンジェは力説する。 「つまり、描いた絵を飾ってくれて、気に入ったらそれを購入してくれるお客さんもいる……そういうイベントよ! 名前も売れて絵も売れる。一石二鳥!」 15
2016-03-20 15:05:46「へぇ、そんなもんか……」 ミェルヒはそういった業界のことを全く知らないが、なるほど、作品を衆目の目に晒すというのは良さそうに思えた。 「もう、申し込んでるから。そのうち担当が伺いますって」 「話が早い!」 16
2016-03-20 15:09:46「行動力あるなぁ……本当、羨ましいよ」 ミェルヒならどうしただろうか? ミェルヒはかつて定職に就かず、ブラブラしていた時期があった。しかも、結構長かった。エンジェと出会い、彼女の熱意に触れるだけで、自分が枯らしてしまった美しい花を見たような、そんな気持ちになる。 17
2016-03-20 15:15:43_応援したい、支えたい気持ちは、近くで暮らすうちに深まっていった。そんなエンジェの大事な一歩をサポートする担当のことも、気にかかった。まるで嫁入り前の娘に対する父親のように。 後日やってきたのは、意外にも整ったスーツの男だった。 18
2016-03-20 15:21:32_髪型も整っており、ネクタイも曲がっていない。そうして礼儀正しくお辞儀をし、エンジェのアトリエを見て回った。 「いやあ、素晴らしい……こんな、才能が埋もれていたとは」 僕の方がエンジェの魅力を分かっている、と思わず嫉妬した自分に苦笑するミェルヒ。 19
2016-03-20 15:29:57「申し遅れていましたが、出品1作品につき、これだけの出品費がかかります。ですが、作品が売れれば相殺できるものですし……」 隣で交渉しているエンジェと担当の男。ミェルヒはその言葉の端に、言い知れぬ不安を覚えた。嫉妬ではない……確かに疑いを感じたのだ! 20
2016-03-20 15:34:44【用語解説】 【ネズミ色】 衣類を染めるには、鉱物由来の化学染料が広く使われる。科学文明であったエシエドール帝国時代の遺産であるが、染料の精製技術などは科学技術の衰退とともに魔法的技術に入れ替わっていく。灰色の染料は屑鉄鉱石(鉄ではない)の粉末から作られ安価で、ダサい色である
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