虚構の展覧会に、選ばれしものたち#3 展覧会をはじめよう◆1
_呼び鈴が激しく鳴り響く。ミェルヒは飛び起きると、エンジェの部屋に急いだ。 「エンジェ、朝っぱらからお客さんだよ、起きてよ」 「うーん、ミェルヒが出て~」 布団を抱きしめて眠そうなエンジェ。 「しょうがないなぁ」 ミェルヒは急いで着替えて、玄関を開ける。 61
2016-03-25 17:15:55「司法ギルドの者です。お話を伺いたいのですが……」 黄色と紫のネクタイをした重厚なスーツを着た男が3人、壁のように玄関前に佇んでいる。 「ひっ、ひえぇ、ヌーメルレウンギルド!」 「安心してください。貴方たちを検挙しに来たわけではございません」 62
2016-03-25 17:22:00_3人の男を応接間に通し、エンジェとミェルヒは緊張しながら話を聞く。 「……ということで、この展示即売会は完全な詐欺と言う話なのです。出品費の提供はなさらなかったようで、安心しました。それで、詐欺師の行方はご存じないんですね」 「まぁ、困った話です」 63
2016-03-25 17:27:47_エンジェはまるで他人事のように言う。もしかしたら彼女は気づいていたのかもしれない。ミェルヒはそう思った。そのとき、司法員たちが一瞬で透明化する。 「……奴が来ました。貴方たちは玄関で普通に応対してください」 顔を見合わせるエンジェとミェルヒ。 64
2016-03-25 17:33:40_呼び鈴が鳴った。エンジェとミェルヒが玄関に行くと、そこには担当が……詐欺師の男が立っていた。泣いていたのか、目が赤い。 「すまない、会場が、どうしても……抑えられなくて……」 すぐさま姿を現わした司法員に取り押さえられる担当。 65
2016-03-25 17:38:10_取り押さえられたまま、エンジェに向かって必死に訴える担当。 「頼む、最後に絵を見せてくれ。あの絵が全てだ。俺は全てをあそこに置いてきたんだ」 すさまじい熱意が、まるでミェルヒの肌を焦がすかに思える。 「ダメだ。お前への求刑は懲役5年だ」 司法員が冷酷に告げる。 66
2016-03-25 17:43:09「ごめんなさい」 エンジェは担当の熱意に気おされながら、申し出を断った。 「あの絵は完成していないの。正直、ギリギリまでかかると思ってて……」 そして、申し訳なさそうに笑顔を作り「イヒヒ」という戸惑いの笑いを漏らす。担当は最後に笑ってくれた。 67
2016-03-25 17:49:17「5年後……刑期が終わったら、必ず見に行く。誰に売られようとも、この世にある限り、必ず見に行く……約束する。君は、本当に凄い絵を描いた……俺の心を、描いてくれた。ありがとう……本当に、ありがとう」 司法員たちは静かに手錠をかけ、魔法を構築する。 68
2016-03-25 17:54:19_そして、司法員と担当はテレポートでその場から消えてしまった。何の痕跡も残さずに。玄関先であっけにとられたままのミェルヒ。エンジェは、静かに呟いた。 「私、凄い絵が、描けたんだね……心を動かしたひとが、一人だったとしても」 69
2016-03-25 18:00:20(一枚の絵で、あそこまでひとの心を動かせるんだ……) 確かに、ミェルヒもエンジェの絵に心を動かされた一人だ。思わず、自分の人生をかけるほど、心が動いた。 それでも、担当程だっただろうか? (悔しいな……) 心の奥では、密かに嫉妬していた。 70
2016-03-25 18:07:41【用語解説】 【スーツ】 科学文明であるエシエドール帝国時代からある伝統的な労働者の服。魔法織りの生地をオーダーメイドで縫い合わせて作るため、非常に高価であり、帝都以外では一部のエリートしか着れない。よく見られるのは格好だけ真似た大量生産品の偽スーツである
2016-03-25 18:14:55