風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#1 風車の街ガイメルク◆2
_次の日、眩しい朝日が宿の窓から差し込む朝。レジルはゆっくりと起き上がり、寝不足の身体を体操で動かしていた。朝食も食べ、観光を始める準備。相変わらず堅麦パンの朝食。甘辛く煮付けた豆を載せて食べた。 昨晩の嵐もあったせいか、街が妙に騒がしい。 11
2016-03-28 17:18:21_そこに慌ててやってきたのは、丸眼鏡のガイドだった。 「た、大変です。風車塔が……」 外に出るレジルとミレウェ。すると、街の中心の巨大な風車塔が、一部崩落していて煙を上げているのだ。 「昨日落雷があったようで……ああ、観光が……」 12
2016-03-28 17:28:05_今日は風車塔の内部を見学するツアーの予定だった。これではそんなことを悠長に言ってられないだろう。 「申し訳ございません、今日の観光は中止に……埋め合わせは……」 「大丈夫ですよ、私は、土産物を選ぶのに悩んで1日くらいかかってしまうのです」 13
2016-03-28 17:32:38_丸眼鏡のガイドはハンカチで額を拭くと、一礼して宿の奥へと走っていった。電信機でも借りるのだろう。 宿の外、ベンチに座って慌ただしくなった街の様子を眺めるレジルとミレウェ。街の男たちが総動員で風車塔へと向かっていく。気づけば、向かいに少年。 14
2016-03-28 17:38:55「不思議だろ。観光資源ひとつでこんなに必死になるなんてさ」 15歳くらいだろうか、しわの深い眉間は、少年をいくらか大人に見せる。少年はレジルの隣に座る。 「この街の食料は堅麦の実に依存している。周りが山と砂漠しかないせいで、食料交易も限定される」 15
2016-03-28 17:43:35_少年は風車塔を見上げながら続ける。 「風車塔の生み出す強力な動力で堅麦を挽かなければ、この街は飢えて滅ぶんだ。小さな畑で作れる野菜なんて圧倒的に足りない。街の守り神は……サンダーシルフは僕らを滅ぼそうとしているんだよ。神の武器は雷。風車塔を破壊したのも、雷だ」 16
2016-03-28 17:51:49_なるほど、北境界高地の山の上にあって、これほどまでに発展できるのには理由があったのだ。 「詳しいね、ただの男の子には見えないが……」 鋭く切り裂いたような目がレジルをちらりと見る。そのとき、丸眼鏡のガイドが宿から飛び出した。ひたすらに謝る。 17
2016-03-28 17:56:45「街の男たちが総出で風車塔の修復にあたるようで、店も施設も休業状態……せっかくのツアー、なんとお詫びしていいものか……」 「いいんだ。この子から、興味深い話が聞けそうだったのだよ」 そう言ってレジルは少年の肩に手を置く。邪魔そうな顔をする少年。 18
2016-03-28 18:01:31「あっ、この子は……」 丸眼鏡は言葉を失う。レジルは謝る丸眼鏡に、逆に頭を下げる。 「この世には予定通りに行くことと同じくらい、予定通りにいかないことがあるものです。それは、晴れの日が永遠に続かないのと同じように……」 「ダーリン、この子が気になります」 19
2016-03-28 18:05:55_ミレウェは少年に興味津々のようだ。少年は立ち上がってレジルの手を取った。 「兄さんが死んだときと同じ状況なんだ。力が必要なんだよ。観光客さんたちの力を借りてもいいかい?」 そこでレジルは、街に来たとき、風車塔のてっぺんが焼け焦げていたのを思い出したのだった。 20
2016-03-28 18:10:44【用語解説】 【北境界高地】 灰土地域の東の果てにある巨大山脈。世界の中心から北に南北に伸びているので、北の文字がつく。地球では崑崙山脈辺りの風景に似ているかもしれない。切り立った崖、万年雪の巨大な山、痩せた土地と湧水、あるいは極端に乾燥した荒地。人口はほとんどない
2016-03-28 18:17:47