風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#2 嵐のシルフ◆3

新婚旅行で訪れた街は、風車の街だった。街の中心にそびえる巨大な風車塔。 サンダーシルフの伝説が残るこの街で、新婚のレジルとミレウェは観光を楽しみます。しかし、嵐の予感が……! 全90ツイート予定 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#2 嵐のシルフ

2016-04-01 17:11:03
減衰世界 @decay_world

「あった!」  資料を探した果てに、とうとう核心を突く情報を手に入れる。 「シルフを呼ぶ呪文……シルフと意思疎通できるようになる忘れられた呪文だ!」  少年は喜んで該当のページをレジルに見せる。そして喜びの余りジャンプした。狭い部屋がギシギシと軋む。 51

2016-04-01 17:19:00
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「つまり、シルフの真意を直接聞こうというわけか。なるほど、単刀直入な話だな」 「殺されるかもしれない……でも、兄さんは命を懸けたんだ。僕だってやってやる」  呪文の書かれた本を手に、少年は部屋を飛び出した。後に続くレジルとミレウェ。 「なんでついてくるんだよ!」 52

2016-04-01 17:25:12
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「最後まで面倒を見るのも、大人の仕事だよ」  レジルはカイゼル髭を揺らして笑う。風車塔の頂上目指して上る3人。街の大人たちは、風車の補修を急いでいた。あちこちから風の唸る音と、雷の轟く音。辺りは薄暗い。 53

2016-04-01 17:30:25
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「手を貸そう、具体的には、交渉の間、避雷針を建てる」  レジルは滑るように塔の階段を上る。 「そんな簡単に……できるのかよ」 「君の兄さんが建てようとした避雷針の材料さえあれば……修復の呪文と建築の呪文の合わせ技だ」 「大丈夫、現場はそのまま」 54

2016-04-01 17:37:34
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「魔法使いってすごいや……僕は何ができるんだろう」 「忘れたのかね? シルフと意思疎通する呪文を唱えるのは君の役目だ。そして、交渉もね」  シルフに交渉の意思があれば、呪文を唱える魔力はあちらから供給されるという。知識量の差に、少年は軽く嫉妬する。 55

2016-04-01 17:42:58
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_塔の頂上へとたどり着いた。空いっぱいに広がる暗雲。焼け焦げた屋上。散乱した建築資材。すぐさま呼吸を整えて、魔法を開始するレジル。少年は少しだけ躊躇した。その肩に、ミレウェはそっと手を添える。  少年は無言で頷き、呪文を唱え始めた。 56

2016-04-01 17:48:25
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_顕現は一瞬だった。まさに雷光のスピードで、稲妻の玉が上空に出現する。白く発光する腕がいくつも雷球から伸びていた。その腕に並ぶのは無感情な目。サンダーシルフの顕現の一形態だ。 「あなたがサンダーシルフ?」  一応確認する。 57

2016-04-01 17:56:21
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「いかにも、わたくしはサンダーシルフの一人、ガイメルクの守り手。風神タジク様より北方守護の任を受けしもの」 「守り手だって! なら、どうして風車塔を壊すのさ」  サンダーシルフはまばゆく光り、3人は目を細めて見上げる。 58

2016-04-01 18:01:38
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「風車は破壊せねばならない……それが全ての悲劇の元。わたくしは、街の平穏のために、風車塔を破壊する……!」  力強く言い切るサンダーシルフ。いくつも稲妻がはじけ飛び、レジルの周囲に迸る。レジルは涼しい顔だ。防御魔法には心得がある。 59

2016-04-01 18:07:46
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「レジル!」  ミレウェが心配するが、笑顔でそれにこたえる。 「無事だ……それに、直撃しても致死量ではない威力だ」  レジルの強がりではない。稲妻は優しく……暖かであった。 60

2016-04-01 18:14:49
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_風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#2 嵐のシルフ(了) #3 生まれ変わる風 へつづく

2016-04-01 18:15:11
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【用語解説】 【風神タジク】 最も古く、最も強いシルフの男神。青い髪の青年の姿で顕現することが多い。シルフの頂点に立ちながら、権力を振りかざすことなく、自由に生きている。世界の12か所に鎮守のシルフを配置した。世界の中心を囲む8方角に守護神を、四方に風神を任命し、更新している

2016-04-01 18:22:10