ゾンビ中年トラックで爆走#1 俺は風になる◆2

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＿ゾンビ中年トラックで爆走#1 俺は風になる

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◆2

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＿朝のことである。当然ゾンビがトラックで爆走するという予兆など微塵も感じさせない、晴れた朝だった。 　クノーム市郊外に、鉱毒に汚染され捻じれた林がある。そこにいくつかの商店と、巨大な病院がセットになった場所があった。 11

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＿頭蓋骨の形をした帽子を被った、いかにも怪しい娘が一人、病院の裏口から入っていく。彼女は死霊術師だ。頭蓋骨の帽子は彼女の趣味である。 　守衛に話を通し、死体安置所に向かっていく。 「今日のお仕事、絶対に成功させるんだから」 　意気込みは十分。 12

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＿死霊術師と病院という組み合わせは、一般的な光景である。不幸にも死霊になった人間は災いをもたらす。一方、計画的に死霊化し、労働力として最後のお勤めを果たしてもらうこともできる。 　それが死霊術師の仕事だ。そして合法である。ゾンビやスケルトンの労働は広く普及する。 13

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＿死亡届と同時に、役所に委託された業者が死後雇用を行い、遺族に賃金を支払う。死霊側も、残された家族のために、納得して消滅するまでの間働く選択肢を与えられる。 　ところがこの死霊術、失敗も多い。 （今月に入って1回も成功してないなんて、最悪のスランプだわ） 14

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＿死霊術娘はこれ以上失敗の許されない仕事に挑む。死後雇用は尊厳の与えられる仕事だ。どんなに辛い死を迎えた人間も、魔法によって死霊化させられるプロセスで思考が単純化され、名誉と幸福を感じながら最後の時間を使える。失敗したら、無に帰すのみ。幸せそうなゾンビの笑顔、守りたい。 15

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＿死体安置所に入り、指定された死体を見つける。脳に取引先から貰った魔法封入シリンダーを埋め込む。これは仕事の内容が詰まっているものである。 　死体は中年太りのおっさんで、生活習慣病で亡くなったらしい。儀式は一瞬で終わった。儀式にも死臭にも慣れたものである。 16

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「成功かな？　成功かな？」 　成否は一瞬で分かる。瞼を開け、瞳孔を見る。瞳孔がすぼまっていたら成功。目が無い場合、もう少し判定は面倒になる。 「やった！　成功だ！　2週間ぶりぃ！」 　思わずガッツポーズ。病院の公衆電信を借りに行く。 17

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＿ゾンビはというと、きびきびと歩き出し、死霊術娘を追い抜き外に出てしまった。ゾンビは疲れないし、痛みも感じない。目的地までそのまま歩いてもらった方が効率がいいのである。 「仕事終わりました。ただいま緑化病院から出発いたしました」 　取引先へ報告する死霊術娘。 18

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『ご苦労だった。金は振り込んでおこう。それでは』 　電信が終わった後、再びガッツポーズ。 「今日は私の復活の日！　おいしいもの食べよ～」 　その場で小躍りしながら病院を出る。被り物の髑髏と相まって、かなり怪しい。 19

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＿彼女の笑顔が曇るまで、そう時間は無かった。この時の彼女は、そんなことを想像だにしていなかったのである。 20

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＿ゾンビ中年トラックで爆走#1 俺は風になる ◆2終わり　◆3へつづく

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【用語解説】　【ゾンビ】 労働力として認知されている死霊の一種。滅びつつある肉体を持った死霊である。悪臭と不潔さを抑えるため、いくつかの処置を施した結果、副作用として肉体が急速に劣化していく。主に肉体労働の場で活用され、公共事業の工事現場などでよく見られる