ゾンビ中年トラックで爆走#3 天国へ駆け抜ける風◆2（終）
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減衰世界
@decay_world
＿レックウィルはしばらくトラックの助手席から動かなかった。狂ったように動いた3連蒸気エンジンは、いまは静かに眠り気配を感じない。 そしてゾンビ中年の瞼にそっと手を触れ、目を閉じてやった。ようやく、トラックから降りるレックウィル。 71
2016-04-12 17:30:02
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＿大きく背伸びをする。ずっと助手席に座っていたため、身体が硬くなっていた。手を伸ばし、空を見上げる。空がつかめそうな気がした。 ピヨピヨというヒヨコの声。トラックの積み荷だ。春の空に響くヒバリの声を思い出した。 72
2016-04-12 17:38:33
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＿夕方になろうという時刻だ。昼飯も、朝飯すら食べずにトラックに揺られていた。それでもレックウィルは満足だった。一人の人間が、風になって召されたのだ。ご飯など夕飯においしいものを食べれば清算できる。 ふと気づくと、道の向こうから自警団の車が猛スピードで駆け付けてくる。 73
2016-04-12 17:43:24
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＿自警団の特殊車両は次々とトラックを囲むように停車した。車から出てきたのは自警団の男たちと、頭に髑髏の帽子を被った女の子。 「ありがとうございます！ 私のゾンビを助けていただいて……」 「君が今回の死霊術師？」 こくりと頷く死霊術娘。 74
2016-04-12 17:47:24
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「ヒヨコは無事なようですね」 「敵対企業の破壊工作でしょう。業界は右も左も敵ばかりですからね」 「ご協力、感謝します」 自警団の男たちが次々とあいさつ。そしてゾンビの処理を死霊術娘に任せる。本来ならば死後労働の企業が請け負うが、仕方がない。 75
2016-04-12 17:53:49
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「ああ、今回も失敗かぁ……」 ぽつりと呟いた死霊術娘の声を、すかさずレックウィルは拾った。 「いいや、大成功だよ。君はいい仕事をしたよ。ありがとうを言いたい」 そう言って運転席の横まで彼女を導く。何が何だか戸惑う死霊術娘。 76
2016-04-12 17:59:25
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＿レックウィルは親指でゾンビの顔を指さした。死霊術娘の顔が明るくなる。右目こそ落ちているものの、ゾンビの顔は安らかで、満たされていた。 「よかった……このひと、幸せな最後を迎えられたんだ」 「そうさ。彼は風になって安らげる場所へ向かったんだ」 77
2016-04-12 18:06:19
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「君の死霊術が、彼の心を解き放ったんだ。でなければ、これほどまでに肉体が安定して、無事故でここまで来れるはずがない。使役され、不本意な仕事をやらされているようには見えなかった。彼の思いを解き放ったのは君だよ」 そう言ってレックウィルは親指を立てた。 78
2016-04-12 18:10:57
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「はい……」 死霊術娘は、髑髏の被り物を掲げて言う。 「次はまっとうな仕事で、ちゃんと成功してみせます。今回は、どうもありがとうございました！」 そう言って、深々と礼をした。レックウィルは笑って、自警団に無線電信を借りにった。 79
2016-04-12 18:23:53
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「ベイベー俺は風になる……」 つい、口ずさんでしまった。長く聞きすぎたのだろう。そのフレーズは、風に乗ってどこかへ消えてしまった。レックウィルの連絡を受けて、日が沈むころ、ミレイリルの車はやってきた。 その車体には見慣れない擦り傷が一か所あったのだった。 80
2016-04-12 18:28:42
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【用語解説】 【トラック】 大型蒸気機関を積んだ、走る蒸気機関車とでも言うべき物。セラミックプレートで舗装された交易路を、西へ東へ爆走する。乗用車の倍の速さで走り、帝都と衛星都市の流通を担う。魔法での流通は、魔法を作る労働者の人件費と拘束時間がネックになり高コストすぎて廃れた
2016-04-12 18:47:33
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【次回予告】 超魔導魔竜ローガンダルレンは最強の竜の一人。その魔法陣は、近寄った者全てを滅殺の魔法をもって絶命させる……ところが、彼の様子がどこかおかしい。 とても死の魔竜には見えないが……？ 次回「ローガンダルレンの友達」 全60ツイート予定 #減衰世界
2016-04-12 18:54:35