ローガンダルレンの友達#1 最強防護服、ロールアウト!◆2
_竜芽山脈の奥地に広がっていたのは、異様な光景だった。この土地特有の、深く霧がかかった斜面に、サボテンのような、岩のような植物がゴロゴロと生えている。 その中を、歩くのは竜杖吏員のエルヴィ。白くもっさりとした防護服を身に纏っている。ここはすでに死の領域だ。 11
2016-04-14 18:00:55_魔法陣の中に突入し、すでに30分が経過していた。ゆっくりと、ゆっくりと歩く。一歩一歩踏みしめて赤茶けた土の道を上っていった。 (汗が出てきたけど、想定内のダメージです) 全身が叩かれたように痛いが、歯を食いしばれば耐えられないほどではない。 12
2016-04-14 18:06:48(異常は無い。このままいけば……) そう思った矢先、紙を裂いたような音を立てて防護服の表面が破れた。左の二の腕だ。どろどろとゼリー状の防護材が流れ出てくる。そして、その下の二の腕が焼けるように痛い。 (ヤバい……引き返しますか?) 迷いが突然湧いてくる。 13
2016-04-14 18:13:11(冗談を言え。契約の時間は迫っているんだ。約束を反故にするつもりですか。このままいく。大丈夫です) 迷いを打ち消し、力強く歩く。メンテしている時間も惜しい。こちらの歩く速度は亀のように遅い。迷わず進むのが最短距離だ。霧が次第に濃くなっていく。 14
2016-04-14 18:21:16_約束は守りたかった。1000年ぶりのチャンスなのだ。その責任は、全て彼女が抱えている。絶対に失敗したくなかった。 しかし、迷いというものは何度でも襲ってくる。 (もしかして私、この旅の途中で死んだりしない?) 恐ろしい考えで、背筋が凍った。 15
2016-04-14 18:25:36(まさか、命惜しさに仕事を投げ出すなんてないでしょうね) 死体さえ回収できれば、蘇生することも可能だ。だが、この死の魔法陣内部で倒れたとして、誰が死体を回収できようか。そもそも、死体が残るのかすら分からない。 (大丈夫です。私は信頼を大切にします) 16
2016-04-14 18:33:03_恐れを打ち砕くのは、本人の決意だけではなかった。次第に体中の痛みが引いてくる。魔法陣の穏やかな場所へと到達したらしい。しかし、依然致死量の魔力が吹き荒れていることは分かる。 周囲の風景にも、岩のような植物が増えていることが見て取れた。 (よかった……) 17
2016-04-14 18:38:27_奇妙な植物だ。葉も芽もなく、花が咲くなど想像できない。植物以外の……虫や動物の気配は全くなかった。この岩のような植物だけが、魔法陣内部の死の環境に適応できたのだ。そのほかは苔すら見られなかった。後は、生きているんだかゴミなんだか分からない地衣類。 18
2016-04-14 18:44:11(なんて寂しい世界なんだろう……私だったら耐えられないね) 休むことなく、さらに山道を進むエルヴィ。超魔導魔竜がどこにいるかは分からない。ただ、魔法陣の中心にいることだけは推測できる。魔法陣の効果範囲から推測した、中心部へと進んでいくエルヴィ。 19
2016-04-14 18:50:21_完全に外界から隔離された世界だ。エルヴィは不思議だった。こんな世界の、何が楽しくて、何を目的に暮らすのだろうか。誰とも交わらず、1000年という時間を一人で生きたはずだ。 (超魔導魔竜は人間が嫌いなのでしょうか) 一つの答えが、彼女の脳裏に浮かんで消えた。 20
2016-04-14 18:55:37【用語解説】 【サボテン】 東方砂漠辺境から中原東の荒野にかけて生育する多肉植物の総称。丸いものや、円柱状のものや、うちわ型など、大体地球のものと同じ。植物は時に目覚ましい環境適応を見せる。大地から魔力を吸収し、自らの性質を大きく変えることができる。それが人間の役に立つかは別の話
2016-04-14 19:02:49