事件解決はワインを飲んでからでも遅くない#1 ポンコツ名探偵登場!◆2

長距離列車の食堂車で、窃盗事件発生! 犯人は誰だ! そこに現れたコートの女性。 彼女は自らを探偵と名乗り、事件解決へ向けて動き出す! のはずが、その推理はどう見てもポンコツで…… 全100ツイート予定 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_事件解決はワインを飲んでからでも遅くない#1 ポンコツ名探偵登場!

2016-04-20 17:13:21
減衰世界 @decay_world

「ともかく、この場を移動しなければ失せ物がどこかへ行くこともあるまい。不便を強いるが、しばらくここで調査を続けさせてくれ」  探偵マヤーの出した結論がこれだった。クレメルはすっかり冷えてしまった薄っぺらな豚のソテーを食べる。列車は猛スピードで夜の中原を駆ける。 11

2016-04-20 17:21:38
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_気になる。事件が気になる。事件の行く先が気になるのだ。今までは、自分が追及される側だった。クレメルは盗賊の男だ。非合法ギルド、盗賊ギルドにも所属していた。クレメルは諦めたはずだった。レイヴンベイン・ファミリーを抜けて、まっとうな仕事に就くことを夢見た。 12

2016-04-20 17:27:24
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_盗賊は抜けたし、ペンダントだって盗んでいない。今回の件には、自分は無関係だ。頭の中ではそう思っていても、心の奥が「違う!」とざわめいている。  すっかり冷えたディナーを食べつくし、ナプキンで口を拭いた。急に手持無沙汰になる。残ったワインを大事に飲まなくては。 13

2016-04-20 17:32:58
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_マヤーだってそうだ。探偵の彼女とは、何度もやり合った仲だ。結局マヤーはクレメルを捕まえることは出来ずに、クレメルの勝ち逃げとなった。それでも、リスクを冒してでもマヤーに手を貸したくてたまらない。  証拠を消して、顔まで変えたのに。 (善人になったつもりかよ) 14

2016-04-20 17:38:18
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_不条理すぎる心境の変化に、自然とクレメルの眉間のしわが深くなる。視線を感じて横を見ると、隣のテーブルの乗客……メルヴィが心配そうに見ていた。 「あの……大丈夫ですか?」 「心配いらないよ。それともピンチに陥った犯人にでも見えるかい?」 15

2016-04-20 17:44:45
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「いいえ、あなたは犯人じゃなくて、乗客だよ。先入観は危険なの、一度思ってしまったら、それを補強する証拠を無意識に集めてしまう。だから私は、あなたをただの乗客として見たいよ」  メルヴィは食欲が無くなったようで、食事は手つかずのままナイフもフォークも握っていない。 16

2016-04-20 17:48:51
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_先程まで奇妙に静まり返っていた食堂車は、やがて不安げな乗客のざわめきで満たされた。クレメルはワインのお代わりを貰い、ちびちびと飲む。  食堂車はそれほど広くない。さっきからウェイターに怒鳴っている被害者の中年女性、旅行客が向こう側に5人ほど。 17

2016-04-20 17:55:38
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_メルヴィとクシュスのテーブルを見る。その向こうには、漆黒の闇を映す窓。メルヴィと視線が交わり、もう一度会話が始まった。 「困っちゃいましたね。手荷物検査でもすれば早いんでしょうけど……」 「そもそも探知で見つかっていないのに手荷物を開いたら権利侵害だよ」 18

2016-04-20 18:00:15
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「魔法は法並みに優先されるんだから、魔法で見つからないという決定的な事実が、逆に手荷物に触れられない大義名分を与えているんだ。魔法探知はもっと注意して運用しないといけないのに、マヤーはさっきから失策ばかりしている……」  熱のこもった声に、自分で自分が驚いたクレメル。 19

2016-04-20 18:04:57
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「ふふっ、まるで探偵さんのお父さんみたいですね」  メルヴィは笑った。実際にはマヤーの方が3歳年上の28歳だが、自分が彼女の面倒を見ている姿を想像して、クレメルは苦笑した。  列車は謎へ向かって、いまだ疾走を続けていた。 20

2016-04-20 18:09:38
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_事件解決はワインを飲んでからでも遅くない#1 ポンコツ名探偵登場! ◆2終わり ◆3へつづく

2016-04-20 18:10:09
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【用語解説】 【豚】 世界中で飼育される家畜のひとつ。起源は翡翠台地の森林に住むイノシシである。灰土地域には竜の国を通して伝播し、海上交易によって暗黒大陸とアヅマネシアにも渡った。灰土地域には野生のイノシシであるグレイボアが生息しているが、気性が荒く家畜化はされなかった

2016-04-20 18:16:09