ストレイトロード:ルート140(19周目)
- Rista_Bakeya
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本編
村の作物を荒らすという怪物が私達の前に現れた。私は役場で見た油絵を思い出した。その時は色合いも容貌も誇張かと思ったが、実は特徴を想像以上の正確さで捉えていた。「何見とれてるの。邪魔だから逃げて」藍に怒鳴られた。今ここにいるのは絵でも彫刻でも映像でもない。確かな殺意を持った生物だ。
2016-03-09 18:46:44「私には祈ることしかできないから」出立する隊列を見下ろす城壁の上で、ある兵士の妻が言った。「疲れた人の言い分ね」藍は眠そうに口元へ手を添えた。「祈るのに使うのは心だけだし。できることたくさんあるじゃない」私が手で合図した程度で彼女の口は止まらない。「まずは涙を止めるところからね」
2016-03-10 20:22:04140文字で描く練習、902。祈る。 心で何か唱えることだけじゃない。 誰かを思って何かやるのなら、すべてが祈りになる。
2016-03-10 20:22:11藍は誘拐犯の拠点から逃げる際に情報端末を持ち出した。情報の無断複製だけでも問題なのに、さらに何か操作している。「データを上書きして返すの」復元は容易なはずだが。「いいの。セキュリティがまともならこんなことされなかった、でしょ?」目的は嫌がらせか。風の魔女の印象も上書きされそうだ。
2016-03-11 19:29:19藍は私に幼い子供達の世話を押しつけ、自らは大人達のカード遊びの輪に加わっていた。雑談からさりげなく情報を引き出す作戦なのだろうが、明らかに目的を忘れている。「騙されたわ!」笑い声につられ、子供の一人を背に乗せたまま顔を上げた。絵札を持った顔を緩める雇い主はどう見ても普通の少女だ。
2016-03-12 21:27:27私達を下ろして出航した船を見送った直後、その視線で沖合を漂う何かを見つけた。双眼鏡など手元にない、と考える間に藍が答えを出していた。「見て、あの辺。人が浮いてる」風を己の目とする魔女は私に通報を命じた。「木の箱にしがみついて…そこまでは言わなくていいから」伝聞の形式が重要らしい。
2016-03-13 18:57:25140文字で描く練習、905。沖合。 風の速さで世界を視ることも、魔女と呼ばれる所以。 でも見え過ぎても困る?
2016-03-13 18:57:49今日最初の寄り道はその街で人気の紅茶専門店。だが藍は棚に並ぶ商品を手に取らず、私を見上げた。「昨日何かもらったでしょ。市長の秘書だったかしら」受け取ったからには何か返せと、にやけ顔を堪えた視線が促す。面白い展開を期待しているようだ。ただその人は秘書ではなく、薬指には指輪があった。
2016-03-14 19:10:32港町の朝市を回る間、藍は住民から幾度か無礼な扱いを受けた。顔も名も広く知られた風の魔女だが、この街にはまだ何もしてないと本人は憤る。「昨日の漁が今一つでさ。風の助けがなかったと拗ねてるだけ」果物屋の女将が私に耳打ちした。果実を気前良く多目に入れる場面は藍に見せつけ、笑顔を誘った。
2016-03-15 19:11:25天候に恵まれ順調に街道を走り続けた私達は、夕方になって後部座席の異臭に気づいた。「誰かいるの!?」藍が叫んでから、急に黙った。停車して車内を調べると、保冷庫にしまい忘れ腐りかかった食物が発見された。今回食物の積み込みは藍の担当。私も確認を怠ったが、責任を自覚してか文句はなかった。
2016-03-16 19:22:42車の窓越しに手配中の男を発見した藍はすぐ降車、通行人と協力して男を確保した。しかし協力者が突然藍を押し退けた。「先に見つけたのは俺だ!」「さっき素通りしてたじゃない!」口にはしないが問題は懸賞金の取り分だろう。少女と大人の口論は、私が警察官に車載カメラの映像を呈示するまで続いた。
2016-03-17 19:21:03140文字で描く練習、909。懸賞金。 GPS装置は絶滅危惧になった世界だけど、単体で動くレコーダーは多分生きている。しかも多分もっと頑丈になっている。
2016-03-17 19:21:09私達の関係を邪推して脅しに来た男がいた。男は当然藍に撃退され、二人並んで歩く姿の証拠写真が残った。「合成ね」藍は写真を放り出した。私はそれを拾った。「こんな人が多い場所で手なんかつなぐわけない」数日前の場面だ。戦いで疲れ果て、半分眠ったまま手を引かれて帰ったことを藍は忘れている。
2016-03-18 19:46:15藍は晩餐会の招待状を開封せずに見つめていた。「気が乗りませんか」「ううん、参加はしたいけど」それを押しつけた男は藍を追い回す組織の刺客、謂わば敵だ。誘いの裏に潜む狙いは何か。「そうじゃなくて」藍は傍らに立つ私の袖を掴んだ。「あなたも行くの。まずその鳥の巣みたいな頭何とかしないと」
2016-03-19 20:30:05生地の色、甘いソース、宝石のように切られた果物。自由な組み合わせで自分好みのパンケーキを作れる、そんな謳い文句に誘われた藍が長考をやめない。トッピングの種類がとにかく多いので、彼女が何に迷っているのかも予想ができなかった。悩む気持ちは解るが、そろそろ自身の空腹を思い出してほしい。
2016-03-20 19:17:45