クリスと響が靴を買いに行く話
「はっ!?クリス先輩の玄関に見慣れぬ格好良さげな靴が!?意外デス!」 「切ちゃんものすごく説明的だよ。それはともかく。もしかしたらトレーニング用かな。さすがに学院指定の運動靴は味気なかったのかな」 1
2016-04-30 23:26:26それは二人が気付いたとおり、日頃クリスが愛用する品々のイメージからやや隔てた一足だった。 クリスの私物には少女らしい可愛らしさを思わせるものが多いが、これはというとそうした趣味的な形状というよりは機能的なイメージを与えるスポーツ用品と言えた。 3
2016-04-30 23:30:27並べて眺めると一つの靴箱に収まるものとしては他のものより明らか浮いている。 「やっぱりヘンに目立ってる」 この靴がこうして人の目に触れるのは初めてであったし、自分のことを詳しく知る二人だからこそ気になったのだ。 4
2016-04-30 23:32:18「どうしたんデス?この靴?」 物珍しそうに切歌が視線を手元の靴から移し尋ねる。 「ああ、それはな」 クリスの口から靴を買うに至った様子が語り始められた。 5
2016-04-30 23:34:22この日は響がクリスの部屋を訪れていた。一人で来るのが珍しかったが、断る理由も無い。 「たまには二人でどこか行こうよ~。もうすぐ連休だよ?」 部屋にあげてしばらくすると机にぐだりと伸びながら響が言った。 7
2016-04-30 23:37:19「ああ、出動がかからなけりゃあな」 装者とはこうなのだ。先の予定は立たず、いついかなるタイミングで緊急出動があるか分からない。自由はあるが、それは『ある程度』と頭につき、何もかもとはいかない。 9
2016-04-30 23:41:25「そんなこと言ってたらどこへも行けないよ……」 構って欲しいのか、眉をハの字にしている。子犬がするようにかなしそうな表情だ。 確かにそうだ。先の予定が分からないからといって、はじめから予定を入れないようにしていたら叶うものもか叶わない。 10
2016-04-30 23:43:26独りでいることが常であったクリスには予定を先に入れ、駄目になった時には断り、後にはフォローする習慣が無かった。 また、いつの間にかそもそも予定は立てられないものだとすら思っている節があり、そのことにも気付いていない。 11
2016-04-30 23:45:19「あいつと一緒にいてやったら良いだろ。それに、お前と歩くといつも足とか疲れるんだよ」 なぜそもそも連れの小日向未来ではなく自分を誘うのか、クリスは疑問に思うよりも先に自分の順位を落として返事をした。 12
2016-04-30 23:47:16それに、活発な響は遊びになると色々と詰め込みたがる。すると歩く時間も長くなり自然と疲れてしまう。 といっても決して嫌というわけでもないのだが、それは度合いの問題だ。 13
2016-04-30 23:49:13「それはつまり、疲れない靴があったら私とも一緒に遊んでくれるって、なんだそれならそうと言ってくれたら良かったのに!」 がばりと跳ね起き立ち上がる。 14
2016-04-30 23:51:15「そう言われてみればクリスちゃんの靴っていつも可愛い感じのが多いもんね」 クリスが本気で嫌と言っていないことは分かるのでこの翻り方だ。しょぼくれていた表情は瞬時に吹き飛んでいる。 その間クリスは余計な一言だったなと内心で面倒がったが、今更とめてももう遅い。 15
2016-04-30 23:53:23「勝手にひっくり返すなッ!」 行動力というか、勝手というか、響の行いはクリスをどきりとさせる。それでもお互いの一線はいつからか理解しているつもりだから、響はクリスの本当に嫌がることはしないし、クリスがこうして怒鳴りつけても時にははたいても決してシリアスにはならない。 17
2016-04-30 23:57:21「こんど歩ける靴見に行こうねッ!」 その日、最後に振り返り笑顔でそう言って響はクリスの部屋を離れた。 クリスは期待半分、どうなるのかといった気持ちでその姿を見送った。 「何だか雑に丸め込まれた気がする……」 18
2016-04-30 23:59:09次の休みはそう時間を空けずに訪れた。 人々で賑わう大きな街。天気は良く、春の日和だ。 この日も響は誰も伴わずに一人でやってきた。 風が吹くような爽やかさがある。 二人で何事か話しながら目的の靴屋へと向かった。 19
2016-05-01 00:01:13「で、来たはいいけど……」 店内も人の賑わいがあり、誰もが誰かしらと来ているように思われた。 クリスも夕飯時などに切歌と調を伴って食材の買い物や外食に出ることはあるが、基本的に服や靴など身に付けるものについては一人で済ませてきた。 20
2016-05-01 00:03:03「落ち着かねえっていうか」 目的ははっきりしているので迷う必要も無く、真っ直ぐにランニングシューズなどを扱うスポーツシューズの売り場に向かった。 「そうかな?私は結構好きだなぁ」 二人で何足か見繕ってクリスは椅子に腰掛ける。 21
2016-05-01 00:05:01「サイズ見てもらっている時なんてシンデレラみたいじゃない?」 「いくらなんでもメルヘンが過ぎるだろ、それ」 いくつかの靴を履いては脱ぎ、サイズを変えてもらっている。 22
2016-05-01 00:07:01自分に合うサイズと履き心地の靴を差し出されることをもしシンデレラに例えるなら確かにそうかも知れないけれど、クリスには無理に例えているように思えて笑ってしまった。 23
2016-05-01 00:09:01「それより。ワケがあるならそろそろ教えてくれよな。なんでそんなに靴を用意させたがっているのかをよ」 ここにきてやっとクリスの口からずっと尋ねたいと思っていたことを問えた。何かがほころんだのだ。 24
2016-05-01 00:11:02「ううん、ワケって程でもないけど……」 わざとらしく頬を指でかく仕草をしながら少し照れくさそうに話しだした。 この響を見てクリスはこいつも時々言いにくそうにすることがあるなと感じた。他の連中はこういうときには意外とすっぱり話しそうだと思っているのだ。 25
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