レイニーデビル

呟き、集め、匣を満たす。呟きを集め、物語を収め、匣を満たすだけの思い付き企画。
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根の人 @aeGKBk1TiE

霧雨の中、老若男女は街を行き交い、声なき声が空を舞う。情報社会というなれど、言葉を交わすは昔と変わりませぬ。やかましい喋り口が、やかましい端末を叩く音としめやかな笑いへと変わっただけ。時は現代、日本にて。あゝ、コンクリィトジャングル。それを忌まわしげに眺める人も少数おります。

2016-05-05 17:43:48
根の人 @aeGKBk1TiE

はて、さて、間違っていただきたくないのは、私自身は憂う者ではないという事。現代は非常に便利になりました。跳梁跋扈する情報には退屈しない。あまり喋らないものも、端末を用いればたちまちお喋りになる。情報社会。言葉を交わすは昔と変わらず、規模は大分大きくなりました。

2016-05-05 17:44:46
根の人 @aeGKBk1TiE

――閑話休題。雨を行く一人の老人の姿がありました。濡れることもいとわず、十分に水を吸った服の裾からはしとしと、雨に紛れて水滴が落ちております。このままでは風邪をひいてしまいましょう。いいえ、年齢を考えればくたばってもおかしくはないでしょう。ですが彼はお構いなしに歩きます。その時、

2016-05-05 17:45:37
根の人 @aeGKBk1TiE

薄灰色の景色の中に、ポツゥンと黄色い雨合羽。老人は、目を見開き、ポケットをまさぐりました。取り出したるは、何の変哲もない端末機器。老人が持つにはふさわしくないような、最新型の端末機器でございました。それを掲げ、見せつけているのです。とても正気の光景には見えませんでした。

2016-05-05 17:46:13
根の人 @aeGKBk1TiE

「見つけた、ようやく見つけた」老人はしわがれた、しかし暗澹たる意志に満ちた声で呟きました。黄色い雨合羽は小首をかしげます。端末機器は薄明りを放ち、液晶に何やら表示されております。しばらくの間沈黙。老人は一言、「匣だ」と言いました。僅かに黄色い雨合羽が反応し、端末に目を向けます。

2016-05-05 17:47:04
根の人 @aeGKBk1TiE

「物語を満たす匣だ」  あゝ。  ――雨合羽の悪魔は、にやり、と笑いました。

2016-05-05 17:48:21
根の人 @aeGKBk1TiE

レイニーデビル、レイニーデビル、願いをかなえるレイニーデビル レイニーデビル、レイニーデビル、願いをゆがめるレイニーデビル 黄色い雨合羽 雨の日だけに現れる。 レイニーデビル、レイニーデビル。 かなえたい願いあるならばけっして近寄る事なかれ。 レイニーデビル、レイニーデビル

2016-05-05 17:49:12
根の人 @aeGKBk1TiE

レイニーデビル第一夜 「アプリを起動しました」 利用規約:こちらへのリツイートが物語に反映されます。 注意点 :次回第二夜呟き後、こちらは使用できなくなります。 遊び方 :身の回りで起こった怪現象や体験談、虚も実も織り交ぜて呟きましょう。ただし、一人一回が望ましいですね。

2016-05-05 18:45:04
根の人 @aeGKBk1TiE

――寝て起きて、一番に端末を触るのが彼の習慣でありました。間一信(アイダイッシン)は県内の高校に通う少年です。生まれが特別な訳ではなく、特別な能力を持つわけでもなく、ああ、まぁ、言わばどこにでもいる素朴な――ともすれば記憶にも残らないほどの地味な少年でございます。

2016-05-06 14:05:17
根の人 @aeGKBk1TiE

「……あれ?」布団の中で端末を弄っておりましたイッシンは、奇妙な違和感に気付きました。不特定多数の”ささやき”を行うコミニュケィションツゥル。Whisperと言えばそれなりに有名なものでございます。その中に、変化がありました。本来ならプロフィィルの表示される部分に、――

2016-05-06 14:05:47
根の人 @aeGKBk1TiE

「”目”……? なんだこれ」赤と黒で形成されたアイコンのリンクがありました。イッシンは広告か、と考えましたが、そんなもの昨日までありませんでした。かと言って、いきなり押すような勇気も彼にはありません。ふと時計を見ると、時間は八時の十分前。学校が近いとはいえ、もう出ねばなりません。

2016-05-06 14:06:26
根の人 @aeGKBk1TiE

学校に行くと、さて、それ以上に奇妙な光景でございました。集まっては何やら囁き合っているではありませんか。イッシンが何事かと覗いてみると、赤と黒の端末を眺めてあれやこれやと言っているようです。断片的にその不気味さについて感想を語り合っているのが聞こえます。「俺だけじゃなかったのか」

2016-05-06 14:06:56
根の人 @aeGKBk1TiE

ある種の安堵を覚え、イッシンは日常を過ごしました。彼には特に友人と長く話す習慣はございません。深い付き合いの友人もおらず、終礼の後はまっすぐ帰り、課題を終わらせ、あとはパソコンやゲームを起動し、遊ぶだけです。――アプリに奇妙な”目”が現れて一夜。それはごく平穏に過ぎたのでした。

2016-05-06 14:09:08
根の人 @aeGKBk1TiE

――イッシンが目覚めたのは深夜。妙な疲労感があったようでございます。肩口を抑え、首をかしげるイッシン。違和感がありましたが、「体育、そんなに疲れる事やったっけ」なんとなく自分の中で疲れている理由を落としつけて、再び布団に寝転がります。そこで、また違和感。起き上がって枕元を見ます。

2016-05-06 14:09:41
根の人 @aeGKBk1TiE

「あれ……枕、ひっくり返ってるじゃないか」奇妙な事もあったものでございます。彼が今まで寝ていた枕が裏表逆なのでございます。「これのせいかな」低反発の枕と言うものは上下反対でありますと、首を痛める事もある、といいます。疲労感に自分なりの納得をつけ、イッシンは再度目を閉じました。

2016-05-06 14:10:09
根の人 @aeGKBk1TiE

また同じ夜の深夜、草木の眠る丑三つ時にイッシンは目を開きます。心なしか、先ほどよりも疲労が伺えます。「……風邪かな」体温計を探そうとして、体のだるさからまたイッシンは寝転がります。違和感。「枕……」また、枕が裏返っているのでございます。奇妙に思いながらも気にする元気はありません。

2016-05-06 14:11:16
根の人 @aeGKBk1TiE

そのまま目を閉じれば良いのに、彼は枕をまた返しました。そうしないと眠れない気がしたからです。再度目を閉じましたが、今度は数分で目が覚めました。彼の顔は青ざめ、他から見れば明らかに異常なものでございます。体を起こすこともままならないのか、辛うじて体を布団から転がり出します。

2016-05-06 14:11:48
根の人 @aeGKBk1TiE

おかしい。流石にここまで続けば気づきます。このままだと死にかねない。そんな事さえ思った彼は、這って部屋の外に出ようとし――ふと、また、枕が裏返っている事に気づきました。ええ。気付いたところで気にする事はありません。しかし、彼にはどうにも気になるのです。……戻さねばならない。

2016-05-06 14:12:18
根の人 @aeGKBk1TiE

なんと滑稽な使命感でございましょうか。彼は這うと言う貴重な体力を枕の正逆の為に使い切ろうとしているのであります。「……戻して、寝ないと……」何かに憑かれたように呟きます。いいえ、正確に憑かれていたのでしょう。尤も、何の変哲もない少年である彼に気付くことはできませんでしたが。

2016-05-06 14:12:34
根の人 @aeGKBk1TiE

――彼が次に目覚めたのは、病院のベッドでありました。医者の話によりますと、極度の疲労と栄養失調との事。もちろん、彼に心当たりはございません。妙な病気かも知れない、ご両親が心配して精密検査を勧めるのも致し方ない事でございましょう。果たして彼は三日ほど学校を休む事となりました。

2016-05-06 14:12:48
根の人 @aeGKBk1TiE

「……暇だなぁ」彼自身体に違和感はなく、点滴やらを済ませた二日目にはもう退屈を感じておりました。ふと、端末を弄ってWhisperを起動しました。『入院ひま~~』と、なんとも無意味な呟きをして、操作の指を止めました。何人かのユーザーが『@目』と言うタグをつけて呟いているのです。

2016-05-06 14:13:01
根の人 @aeGKBk1TiE

「これ、怪談?」その呟きは全てオカルト的な要素を含む体験談でした。笑う人形、飴の降る夢、理不尽な体験談、走り出す饅頭、こっくりさんを行った友人の話、予知夢の話。どれも彼には信じられるようなものではありません。いつの間にか彼の指は”目”の上に置かれておりました。

2016-05-06 14:13:17
根の人 @aeGKBk1TiE

――『アプリを起動しました』淡白な文字が浮かび、消え、そして次の言葉が浮かびます。『あなたの身の回りの怪現象や奇妙な怪談、虚も実も織り交ぜて呟きましょう』その言葉が消えると、文字入力のウィンドウが浮かび上がります。一瞬彼の指が止まります。しかし、彼は好奇心の虜でした。

2016-05-06 14:13:39
根の人 @aeGKBk1TiE

「夜中寝ていると時々枕がひっくり返っていて……」何度か添削をしたのち、彼はそれを呟きました。すると――

2016-05-06 14:13:57
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