自然愛護モヒカン過激派と引退した戦士#1 夢の農場◆1

戦士を引退し農場主となり、悠々自適の生活を送るスキュラ。彼女は恐れていることがあった。それは、一つの大きな呪い。 平和な農場に奴らがやってきた……ヒャッハー! モヒカンの襲撃者だ! 全50ツイート予定 続きを読む
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_自然愛護モヒカン過激派と引退した戦士#1 夢の農場

2016-05-05 17:15:36
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_翡翠台地の朝は寒く、それが日の昇る前ならなおさら寒い。けれども、農場の朝には活気と威勢のいい野猿の鳴き声が響く。  中規模の農地を前にして、小作人たちが農具を構え、整列している。どれも耳長族の、貧しい者たちだ。 1

2016-05-05 17:25:56
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_小作人たちの前に立っているのは、農場の主。体長は2メートルにもなる巨大なスキュラだ。下半身は犬を縫い合わせたような巨大な塊になっており、上半身は普通の若い女性と変わらない。 「みんな、今日もがんばりまっしょい!」  朝の挨拶も手短に、えいえいおーの掛け声。 2

2016-05-05 17:33:26
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_一通りの儀式を済ませて、小作人たちはそれぞれの持ち場へと散っていく。麦畑に紛れた雑草を取ったり、収穫を迎えた芋を掘ったりしている。  スキュラのキリサは地主なので特にすべき仕事もない。ただ、こうして農場を見回って困っている小作人がいないかいつも見ていた。 3

2016-05-05 17:46:34
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「ようし、みんな頑張って働いているぞー」  キリサはかつて戦士だった。スキュラという種族は体格に優れ、化け物じみた怪力と体力を持つ。若くして傭兵として名を馳せる者も少なくない。  彼女もまた、戦地に赴き、たくさんの命を屠ってきた。ある日突然、運命が変わるまでは。 4

2016-05-05 17:51:29
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_キリサと戦った相手が、恨みからか生きたまま死霊化し、自らの命と引き換えに呪いをキリサにかけたのだ。 「お前の夢は必ず潰える! 何度でも踏みにじられる! 絶対だ!」  その言葉が怖くなったキリサは傭兵をやめ、夢だった農場経営を始めた。夢を手にできるうちに、叶えたかった。 5

2016-05-05 17:57:06
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(夢が潰えるだなんて、嘘じゃないか)  実際キリサの夢はあっさりと軌道に乗った。開墾する代わりに補助金を貰い、土地と頭金が用意できた。借金もだいぶしたが、返済も順調だ。キリサは麦のことをよく調べて、質の良いものを育成できた。潰えるどころか、奇跡の連続かもしれない。 6

2016-05-05 18:04:45
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_小作人への待遇も、かなりいい方だろう。彼らに十分な給料を渡せるだけの資本が持てた。それもこれも、キリサが収穫した麦の良い取引先を求めて奔走した成果でもあった。小作人はやる気を出し、それが麦の品質へと繋がる。 (いずれ彼らには自分の農地を持ってもらいたいなー) 7

2016-05-05 18:09:03
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_キリサの仕事はまだ時間が早い。どこも誰も眠っているだろう。キリサはこの時間が好きだった。優雅に朝食を用意し、朝刊を読む。  朝採りの卵をオムレツにして、バターをたっぷり塗って食べる。 (なんて美しい時間だろう、俺は夢を見ているのか……?) 8

2016-05-05 18:16:19
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_遠くの丘から太陽が昇る。目を細めて、キリサは美しい光を浴びた。今日も一日が始まる……かと思われた。キリサは何かに気付く。丘の上に、群れている誰かがいる。  それは無数の巨大重機の群れ。蒸気エンジンの燃料魔法が噴き出す白煙。 9

2016-05-05 18:20:55
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_丘の上から農場を見渡した、重機の乗り手……耳長族の、頭をモヒカンに刈った、凶悪な男たち。彼らは一斉に重機で農場に向かって駆け下りる! 「ヒャッハー! 森を開墾した自然破壊だぜぇー! 許せねえよなァ!」 「許せねぇ! 森の叫びが聞こえるぜぇ!」 10

2016-05-05 18:25:59
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_自然愛護モヒカン過激派と引退した戦士#1 夢の農場 ◆1終わり ◆2へつづく

2016-05-05 18:26:37
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【用語解説】 【開墾の奨励】 翡翠台地は手つかずの密林がほとんどを占め、極彩色の鳥や、奇妙な声で鳴く猿などが住んでいる。文明的にも部族社会で後れを取り、なんとか発展させようと苦心している。科学技術レベルでは、滅亡と勃興を繰り返す灰土地域に比べ、安定的に発展したので下地はある

2016-05-05 18:38:16