「実録 ブラック鎮守府24時」其の参

ブラック鎮守府の日常、赤城編。
0
オットセイ @tobashisakichi

『実録 ブラック鎮守府24時』その参 「第一機動部隊より入電。一航戦加賀、および蒼龍、敵機の爆撃により轟沈しました」 大淀からの通信に男は顔の片側を歪ませ、わなわなと震えた。 「あの鉄屑ども……ッ!」 許しがたい。あれだけ資源を食い荒らしておいて、ろくな戦果も上げずに轟沈とは。

2016-05-22 14:29:47
オットセイ @tobashisakichi

しかし、戦況は芳しくなかった。戦場からの入電は後を絶たない。 「一航戦赤城も被弾、炎上! 艦載機による誘爆が止まりません!」 「あの大飯食らいの鉄屑がぁ!」 男は軍帽を床に叩きつけると、地団駄を踏んだ。 「沈んだ奴らの艦載機を全て飛龍に回せ! 何としても敵空母を撃沈させろ!」

2016-05-22 14:41:21
オットセイ @tobashisakichi

血眼で怒り狂う男。全身から蒸気のような悪意を噴出させ、大淀を怒鳴りつける。 そこへ、別働隊を率いる中将が入室した。 「赤城がやられたのか!?」 「そうですよッ! あの鉄屑、これまで主戦力として活躍していたから大目に見ていたものを、この正念場で何の役にも立ちゃしない!」

2016-05-22 14:50:42
オットセイ @tobashisakichi

「赤城は何発被弾した!?」 「い、一発か、二発かと……」 中将の問いに、大淀が答える。それを聞いて、男は再び絶叫した。 「たったそれだけで……それだけで大破など、ふざ、けるなぁぁぁ!」 「で、ですから、誘爆が酷く……」 「燃える鉄屑など必要ないッ! 一航戦の面汚しめッ!」

2016-05-22 14:55:41
オットセイ @tobashisakichi

男は大淀の胸倉を掴むと、彼女の身体を揺さぶった。眼鏡が落下し、粉々に割れる。 「飛龍に通達しろ! 沈んだクズ空母の分まで戦えとな! 敵を撃滅するまで、撤退は許さん!」 「は、はい……」 「護衛艦の利根と筑摩もだ! 大破しようと燃料が切れようと、撤退などさせんぞ、絶対にだッ!」

2016-05-22 15:00:32
オットセイ @tobashisakichi

しかし、そのときである。新たな入電に、大淀は真っ青な顔で崩れ落ちた。 「ひ、飛龍、轟沈しました……」 「あああああああああああああああああっ!」 男は無様にも壁に頭を打ち付けると、鬼のような形相で大淀を振り向いた。 「残った艦は夜戦へ突入だ! このまま終わらせてたまるかっ!」

2016-05-22 15:04:52
オットセイ @tobashisakichi

荒れ狂う男に、落ち着いた声色で中将が告げた。 「近くに君の長良が居る。赤城を曳航させ、鎮守府まで一足先に撤退させるんだ」 「気でも狂いましたか、中将どの! 燃えた鉄屑など、もはや要らんのです! 高々一発の爆撃にやられる空母など、帝國海軍には必要ない!」 「彼女を見捨てる気か」

2016-05-22 15:08:27
オットセイ @tobashisakichi

「彼女? 一体誰のことです? あれはねぇ、鉄を練って練ってこねくり回して、女の形にしているだけですよ! 気味の悪い紛い物ではないですか!」 「それでも、彼女たちは鉄屑ではない。まだ乙女だ。我々の都合で乙女を戦わせておいて、見捨てるなど出来ん」 「はあ、ご立派で……なら、そうだ」

2016-05-22 15:12:14
オットセイ @tobashisakichi

男は卑劣な笑みを浮かべ、中将に対峙した。 「中将どのの駆逐艦部隊……あれで赤城を沈めてください。木っ端微塵にしてね」 「……何だと?」 「誘爆が止まらない以上、もうあれは駄目ですよ。さっさと轟沈すればいい」 「本気か」 「冷静な戦況判断ですよ、中将どの」 「……本当に不潔な男だ」

2016-05-22 15:15:33
オットセイ @tobashisakichi

中将は踵を返して部屋を出る。扉を押しながら、男を振り向いて言った。 「……赤城の介錯は、私の艦隊にやらせる。それで満足だろう」 「それは有り難い。助かりますよ、中将どの」 「勘違いするな。君のためではない、彼女の苦しみをこれ以上長引かせないためだ」 そう吐き捨てて、中将は去った。

2016-05-22 15:22:32
オットセイ @tobashisakichi

――海上に立ち上がる火柱。その中心に、大破した赤城が浮かんでいる。 「慢心は……いけませんね……」 気付けば辺りを、駆逐艦たちが取り囲んでいる。彼女は全てを察して、頷いた。 「ごめんなさい……雷撃処分、してください」 その言葉通り、味方から放たれた魚雷が、彼女を海底へといざなう。

2016-05-22 15:26:42
オットセイ @tobashisakichi

「提督……私は最後まで、一航戦の誇りを……」 次第に遠のく海面を見つめながら、そう呟く。 そのとき、彼女へ最期の入電。 「貴様ノ誇リハ鉄屑。モハヤ不要、沈メ」 それを見て、彼女は震える手で頭を掴んだ。 「嘘……そんな……嘘……私たちの誇りは、本物……嘘……嘘よ……」

2016-05-22 15:33:59
オットセイ @tobashisakichi

「そうでなければ加賀さんも、私も……一体何のために……」 薄れゆく意識の中、ふと海底を見る。そこには、既に四肢の吹き飛んだ一航戦加賀の姿。 「嫌……嘘よ、こんなの……私たちの誇りは……兵器としての宿命は……本物で……そうでなきゃ、私たちは……」

2016-05-22 15:41:32
オットセイ @tobashisakichi

赤城の船体にも分解が始まる。自分が自分でなくなっていく喪失感の中、そもそも自分とは何だったのかということすら、彼女は分からなくなっていた。 「提督……」 恨むべきなのか、否か。恨むべきだとしたら、何を恨めば良いのか。 暗黒の深海は何も答えず、ただ、その静寂だけが雄弁だった。 完

2016-05-22 15:45:10

以下、おまけ。

オットセイ @tobashisakichi

【アニメ艦これ第1話】 吹雪「私もいつか、赤城先輩と一緒に……ハハ、無理だよね……」 ぼく「うん、無理だよ」 吹雪「司令官!?」 ぼく「解体」 カンカンカン ぼく「この資源で近代化改修でもするか」 赤城「この子、雷装しかないのでMAXの私には不要です」 ぼく「捨てよ」 完

2016-05-21 00:43:44

P.S.艦これACをプレイする際の注意。

オットセイ @tobashisakichi

AC版で艦娘を轟沈させると、艦娘が海底に沈みながら「提督、ご一緒できて幸せでした」的なことを言うんだけど、何気なく「俺はそうでもなかったけどな」と呟くと後ろに並んでる提督さんたちにサイコパス認定されるので黙ってプレイしましょう。

2016-05-21 01:08:37

気を付けましょう。