第5話「変貌」パート3

0
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-1「綾香君、『艦娘』についてはどの位の事を知っている?」 「一般的な知識と…それから「わたし」自身が艦娘として知っている範囲でしか」 一般市民にはその詳細までは知らされる事が無いため、綾香側の知識では発表や報道で見聞きした程度の事しか分からないのだ。

2016-05-27 21:41:45
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-2「では、現状から説明していくことにしよう。深海棲艦との戦いも長い、そして楽なものでもない。艦娘とはいえ疲弊もするし、最悪…海の底へ消える事もある」 勿論そうならないようにするのが我々の役割だが、と司令官は付け加えた。

2016-05-27 21:42:50
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-3「艦の魂を宿す存在、その中でも純粋な魂が顕現した存在を『オリジナル』と呼ぶことにする。これが過去の戦い…国民の多くが知るところの深海棲艦との戦いで勝利を収めてきた者達だ。だが、この『オリジナル』の存在が如何にして生まれたのか、詳しくは実際のところ殆ど分かっていない」

2016-05-27 21:43:43
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-4 そこで、戦力を増やすために海軍が研究を重ね、成功したのが『艤装型』と呼ばれる艦娘達だ。艦の魂を艤装を介して装着し、『オリジナル』の艦娘に近い力を、人間が艦娘となることで手にする事が出来る…因みにこの方法が確立された当時も反対論はあった、一応付け加えておくが」

2016-05-27 21:44:18
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-5「長引く戦いの中で『オリジナル』の艦娘達だけで前線を維持することは難しくなりつつあった。戦力の増強は急務だった…そして当時この『艤装型』について人道性との天秤にかけられたが…この案は通り、そして海軍の中で広く普及した」 ここで一旦司令官は言葉を止めた。

2016-05-27 21:45:37
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-6「…『綾香』としての君がもしもどこかで実際に艦娘の姿を見たことがあったとしたら、それは恐らく『艤装型』で間違いないだろう…実のところ『オリジナル』は最早少なくなりつつある。多くの命が、これまでの戦いで失われてしまったのだ…」 そう言う司令官の瞳は深い悲しみを湛えていた。

2016-05-27 21:46:59
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-7「さて、話を戻すが…普及した『艤装型』にはメリットもデメリットも存在した。先ずメリットについてなのだが、それは何といっても『元の人間に戻れる』というところだろう。艤装がキーとなっているため、これを解体する事で艦娘とベースとなった人を切り離す事が出来る。大きな利点だ」

2016-05-27 21:47:53
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-8「そしてデメリットについてだが、2つある。先ず装着可能な人物が限られる。かなりの適正と身体能力が素体そのものにも求められるため、軍の中で志願者の適性を測り、選り取っていく必要がある…だが、軍が大いに気にしたのはもう1つのデメリットの側なんだ」 「…それは?」答えを促す。

2016-05-27 21:48:23
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-9「いざ艦娘となった後、能力や経験が直ぐには発揮できないという事だ」 この時頭に何かが引っかかったが、私は黙っていた。 「強い力自体は手に入り、記憶も上書きされるのだが、そもそもが人間に力を載せたような存在だ…馴染んでいくのには更にそこから経験を積む時間が要るという事だ」

2016-05-27 21:49:06
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-10「あれ、でもそれじゃ私は…」 引っ掛かっていたのはこれだ。射撃演習では、とてもそんな感じはしなかった。 「そう、そこがこの先の話に繋がる。深海棲艦に脅かされる世界、増産された『艤装型』艦娘が実際に前線で戦えるようになるまでの時間すら惜しい…と考える連中は当然出て来る」

2016-05-27 21:49:45
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-11「そこで出てきたのが…人間にそのまま魂を定着させ『艦娘化』させるという案」 話を進める司令官の顔が険しくなる。 「『艤装型』のデメリット部分を解消し、より『オリジナル』に近い存在を最初から生み出す論…『オリジナル』の経験や知識までも…」 司令官が綾香の事を見つめる。

2016-05-27 21:51:03
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-12「だが、この研究はとてつもなくリスクが大きかった。艤装型のように後になって魂を切り離す事は難しく、また、最初に素体に魂を移す点で失敗は連続した…」 ここまで聞いて、綾香の胃は重くなる。それじゃ、私はもう… 「…この研究は秘密裏に行われた。いや、恐らく現在もそうだ」

2016-05-27 21:51:32
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-13「最初期はオリジナルのDNAを介しての定着が図られた…だが、被験体の拒絶反応は凄まじく、生存率は恐ろしく低かった…ありとあらゆる要素が蝕まれると、人の身体が先ず耐えられない。当時海軍はこの研究によって裏では死体の山を築いた…とても外に漏らせたものではない」

2016-05-27 21:52:39
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-14「司令官は…何故それを知っているのですか?」 「私は…そのプロジェクトの初期にそれに関わった人間だからだ。元々私は佐伯の鎮守府に居たのだが…技能を見込まれてな…」 「それなら何故…!何故それを止めなかったのですか!」 感情に任せて言葉にする、がー

2016-05-27 21:53:05
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-15「止めようとした!」 司令官が応接机に拳を振り下ろし、大きな音が響く。 「失敗しても成功しても非道な研究…内部で反対論も出て初期段階で止めようとしたんだ…!だが、その結果は…!」 執務室に司令官の怒りの声が響き渡る。 「…関与した人間を、海軍は当然野放しにはしない」

2016-05-27 21:54:12
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-16「このプロジェクトに携わった人間は、被験者、研究者、共に情報統制から逃れる事は出来ない。私も…そして、佐伯で一緒だった鳳翔や皆まで巻き込んでしまった」 …その声は、少し震えているように聞こえる。 「ここまでの話を聞けばこの島の事も少しは察しがついたのではないか?」

2016-05-27 21:54:33
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-17「…ここに来る途中で『監獄島』と、兵士さんは言っていました」 「その名前を既に耳にしていたか」 司令官はまた暫く言葉をまとめるために沈黙した。 「ここは…元々はその研究を行うための十分な『準備』が内陸で整うまで研究を秘密裏に進めるために作られた出張所の様なものだ」

2016-05-27 21:55:31
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-18「本土側に機能が移行した後は、ここは主に被験体の収容や『処理』を行うための収容所として扱われるようになった。その為、移送を行う兵たちの間で『監獄島』という呼称が出来上がったようだな」 「では、あのお墓は」 「ここに居た者達のものだ。そして、外での研究は進み…」

2016-05-27 21:56:02
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-19 司令官が何とも言えない溜息をもらす。 「『供給』よりも『消費』ペースが早くなっていった。喜ばしい事だ、死に陥る例が減っていったのだから」 その表情は『そもそも全く喜ばしくなどない』と物語っている。 「そして収容所としても機能しなくなったここから、人々は撤退したが…」

2016-05-27 21:56:37
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-20「…その後、残されたここに2つの役割が与えられた。一つは『私達』を押し込める『監獄』としての役割。もう一つは…倉庫と言うべきか、精神病棟とでも言うべきか」 「どういう事でしょうか?」 「即ち、君のような症状が発生した艦娘が送り込まれる場所になったという事だ、綾香君」

2016-05-27 21:57:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-21 私の…ような… 「私が初期にここに幽閉されてより、研究がどう進んだか詳しくは分からない。だが、概ね良好に『艦娘化』は成功するようになったのだろう、ここに『人間』は来なくなった。しかし、時間が経つにつれ、心に問題を抱えた艦娘達が度々ここに配属されるようになっていった」

2016-05-27 21:57:50
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-22「体は艦娘になるに至っても、精神や記憶に歪みのある者や、錯乱を生じている者。だが、体は正常に機能する者…これは海軍にとっては厄介な事だ。迂闊に外部には出せないが、かといって完全な失敗でもなく手に余る状態だ」 「…押し込めておく場所が必要だったと?」 「そういう事だ」

2016-05-27 21:58:58
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

5-3-23「明石さんの言ってた前に配属された娘というのも…?」 「何だ、明石の奴が口を滑らせたのか?気を付けるよう促しておいたのに…」 隣の扶桑さんまでもが『呆れた』という調子で首を振っている。 「でも、それを私に隠しておく必要性はあったのですか?」 「理由が無い訳ではない」

2016-05-27 21:59:20