Orphe兄貴のマイアミ鎮守府　2014年7月

orphe @orphechin

前回までのあらすじ:横須賀を襲撃した極大二航戦を撃破したマイアミ一行。お次は生産者への突撃取材。しかしそこで待ち受けていたのは野獣と化した球磨多摩、限界突破した四体の戦艦、そして艦娘へと変貌を遂げた主任であった。唸る足柄吠える羽黒、戦いの行方や如何。 #マイアミ鎮守府

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足柄は妙高流の構えをとる。獣相手であろうと己の流儀を貫く構え。敵である多摩の体格はこちらの倍近い。紫の体毛に覆われた奴の両腕の筋力は、ゆうに戦艦の主砲ほどの威力もあろう。しかしそれに怯える足柄ではない。彼女はマスター・アシガラ、妙高流の達人なのだから。 #マイアミ鎮守府

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「ﾆｬｱｱｱｱ」「ﾀﾏｧｧｧ」猫科動物の唸りを上げて、二者の距離が徐徐に縮まる。足柄は妙高流「零観」の構え。上空からの襲撃にも対応しうるそれは、体格に勝る多摩相手には適したものであった。 対する多摩は、四つ足のまま。紫の猛虎は牙を見せつつにじりよる。 #マイアミ鎮守府

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「ニャッ！」 二人の距離が互いの制空権に入る前に、足柄の叫びが轟く。 関節はずしとカラテと妙高型特有の何かにより、足柄の腕が大きく延びる。 妙高流刺突術「20.3cm指砲」である。 不意を撃たれた多摩の頭部は無惨に抉られるはず…しかし、無事。 #マイアミ鎮守府

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足柄の指は虚空を切る。多摩は大きく上体を反らし、足柄の奇襲を回避。そして起き上がり右手のジャブ、足柄はこれを腕でガード。だが。「グニャーッ！」足柄の腕から血が吹き出す！衝撃は押さえられても爪は防げぬ！次いで多摩は容赦なくジャブを連弾、追い討ちをかける！ #マイアミ鎮守府

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15.5cm砲に匹敵する衝撃と爪のダメージが足柄の上体に集中。足柄はガードを重ねるが、多摩のジャブは対応を上回る速度で足柄の体を打っていく。そしてストレート！46cm級の打撃！「ウニャーッ！」ガードを素早くときバックブリッジで回避、そのまま後方三回後転！ #マイアミ鎮守府

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「あ、あの動きは…」「知ってんの、熊野？」球磨の猛攻を避けながら熊野が解説に入る。「ええ、聞いたことがありますわ…英国暗黒ペット業界に伝わる格闘術、『ボクシング』！」 「…それペットに限った話じゃなくね？」「ダマラッシェー！」熊野の重巡スラング！コワイ！ #マイアミ鎮守府

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さてツイ鎮読者諸氏にはすでに自明の事ながら説明せねばなるまい。 英国は世界に冠たるペットの生産国、そしてスポーツの発祥国であり、ギャンブラーの国である。 ゆえに、ペットに格闘技を覚えさせ賭けに講じる文化が産まれるのも当然の流れであった。 #マイアミ鎮守府

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そこで産まれたのがボクシングだ。19世紀、動物の身体の柔軟性に目をつけた英国の貴族が考案し、その後労働者階級の間にも広まった事で隆盛を見た。特に1880年のロンドンの試合にて、プードルがサラブレッドを5分40秒で打ち倒した伝説の試合は今でも語り草になっている。 #マイアミ鎮守府

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あらゆる動物たちがこのボクシングを習得し、街角で殴りあいをいていた19世紀ロンドンは、さながら古代ローマのようであったという。中でも愛好されたのが猫である。「猫パンチ」とは今でこそ愛嬌を以て語られるが、当時の英国人にとっては必殺の一撃の意味を持っていた。 #マイアミ鎮守府

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しかしボクシングは、1900年にヴィクトリア女王がインド象にカウンターパンチを食らった事で禁止され、排斥され、闇に葬られた。だが、それがいかなる縁か、この現代に対艦格闘術として甦ったのだ…！ 「すごい嘘臭いんですけど」 「ズガタッキェー！」 #マイアミ鎮守府

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今や多摩は二本の足でステップを踏み、拳を構える一匹のボクサー。 「なるほど同じ格闘家、なおさら血がたぎるわね」ペロリと舌なめずりをし、再び構え直す足柄。 技量と力の真っ向勝負、これこそ水上艦同士の戦い。足柄はニヤリと笑い、そして、「ウニャーッ！」ローキック！ #マイアミ鎮守府

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ボクサーは足を使えぬ。対して足柄は砲(手)雷(足)撃可能。相手の弱い土俵で戦うは兵法の基本である。しかし！ 「タマァー！」 「グニャー！」 多摩は即座に反応、足柄の爪先を踏み抜いた！ボクシングの足技、19世紀英国では非紳士的行動。今は現代、舞台は日本領！ #マイアミ鎮守府

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足柄の爪先を踏みつけ拘束し、一気に多摩が距離を詰める。「タマァーッ！」フィスト・オブ・フューリー。戦艦主砲クラスのボディブローが足柄の腹部に多段直撃！「グニャーッ！」なおもボディ！「タマァーッ！」「グニャーッ！」さらにボディ！「タマァーッ！」「グニャーッ！」 #マイアミ鎮守府

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「やるわね」しかし足柄は血泡を口から吹きつつ不敵に笑う。これは慢心ゆえの懲罰、ゆえに次は失敗せぬ。 「タマァーッ！」無慈悲な多摩のボディブロー！しかし足柄はあえて多摩との距離を詰める。拳は勢い半ばにして足柄の腹部にめり込む。ダメージ減殺！そして、 #マイアミ鎮守府

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「ウニャーッ！」 足柄が叫ぶと同時に多摩が吹き飛ばされる。ワン・インチ・パンチ。妙高流の体術は身体を自在に操作するのが身上。伸ばすことが出来るならば縮めることもまた可能。足柄は多摩への距離を詰める際、自分の腕を極限まで圧縮し、バネめいて打ち出したのだ。 #マイアミ鎮守府

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爪が抜け、足柄の腹部から血が流れ出す。しかしそれを意に介さず足柄は追撃！「ウニャーッ！ウニャーッ！ウニャーッ！」十本の指と二つの足による広範囲刺突攻撃、ボクシングには応じずあくまで妙高流を貫く構えだ！「ダマァーッ！」多摩の巨体の各所が削れていく！ #マイアミ鎮守府

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「ウウウニャアアーーーーッ！」 足柄がその場で三回転、頭蓋粉砕の九十三式酸素ハイキックを繰り出す！ しかし足柄の蹴りが届くより先に、多摩のストレートが足柄を打った。曲線より直線が早いは必然。キックにクロスカウンター、多摩もあくまで己の流儀を貫くつもりだ。 #マイアミ鎮守府

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一方球磨に対峙する鈴谷・熊野二名は！ 「ヒカエオラー！」甲高い重巡スラングを叫んで電光石火の連撃。師匠の足柄ほどの威力はないにせよ、その速度は並の重巡の拳よりも遥かに早く、その手数は多い。だが球磨の巨体はその連打をものともせず、飛び回る熊野へ爪を繰り出す！ #マイアミ鎮守府

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球磨の拳は振るわれるだけで周囲に衝撃を放ち、獲物の動きを乱してくる。しかし熊野はその衝撃を怪鳥音で相殺、己のペースを維持する。攻守一体のスタイルはまさに天才の成せる技であった。「熊野、前出過ぎ！」球磨の周囲を回りながら砲撃しつつ、鈴谷が注意する。 #マイアミ鎮守府

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「攻めなければ倒せませんわ！」 球磨の拳をダッキング、そのまま斜め上にジャンプし敵の顎に多段キックを決める熊野。事実、球磨の肉体は軽巡時代のそれの数十倍にも強化されている。夜戦距離の至近攻撃でなくては打通は不可能といっていい。しかしそれは鈴谷も理解していた。 #マイアミ鎮守府

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理解はしている、だが感情が邪魔をする。自分よりも経験の浅い熊野が敵と鮮やかに渡り合う姿、そして前回の敗戦の記憶。羽黒との訓練もただ自分の未熟さを再確認するだけに留まった。そして今自分は苛立ちで歯軋りしながら、致命打にもならない砲撃を続けている。 #マイアミ鎮守府

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蹴りによってさらに高く飛び上がった熊野は、空中でヌンチャクを取り出す。目標は球磨の頸動脈。頑強なヌンチャクの鎖で締め上げれば、いかに巨体の怪物とて昏倒せしめられよう。 怪鳥音をより一層高く上げ、球磨の頭上から襲撃をかける。 ヌンチャクが閃く。 #マイアミ鎮守府

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熊野はざくり、と音がするのを聞いた。そして自分の体が空中で停止している事も。「熊野！」鈴谷が叫んでいる。視界を下に向けると、球磨の拳が自分を串刺しにしている事に気づいた。腹から血が滲み、間の抜けたような勢いでそれが吹き出す。瞬間、激痛と恐怖が全身に浸透した。 #マイアミ鎮守府

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しかし熊野の叫びは中断される。球磨は熊野を串刺しにしたまま、粗雑に地面へと叩きつけ、擦り上げる。声にならない呻きと血と吐瀉物が熊野の口から溢れだす。そして地面から引き剥がされた熊野の眼前に、獣の大口が待ち構える。反応の間もなく、口が閉じられた。 #マイアミ鎮守府