満開の桜に包まれて安らげ!#1 古城の法則◆3
_宝探しを名乗るフィルとレッドを華麗にスルーした男たちは、自らを植物学者の団体だと名乗った。 「学者さんかぁ。白衣着てないんだね」 「白衣じゃフィールドワークはできんよ」 フィルとレッドも死霊の少女について軽く説明した。 21
2016-06-02 17:21:29_それを聞いた学者たちは、一様に暗い顔をする。 「桜を植えた伝説の方……きっと悲しい思いをしているでしょうな」 「と申しますと……」 学者たちはフィルにいくつかの写真を見せる。黒く変色し、枯死した桜の写真。 「まさか、伝染病というのは」 22
2016-06-02 17:26:04「そう、桜の伝染病だ」 「教授! この木はもう駄目です」 作業を続けていた学者が報告する。採取した樹液をルーペで互いに観察する学者たち。一様に厳しい表情だ。 「手遅れであったか……もう木を切っても遅い。ここの桜は来年見ることはできないだろう」 23
2016-06-02 17:30:56_フィルはそのとき、死霊の少女がやけに静かなことに気付く。振り返ると、草むらの中に蒼白な顔で立っていた。。 恐る恐る彼女はこちらに歩み寄り、写真を見て絶句する。学者たちは写真をしまい、撤収の準備を始めた。 「伝染病は北上している。鳥や獣、観光客の靴に乗って……」 24
2016-06-02 17:36:29_学者たちが去った後も、三人は桜の木の下でしばらく佇む。レッドがスコップを肩に背負い、口を開いた。 「そういうことなら、桜が枯れる前に手記を見つけるしかないな」 レッドはそう言って草むらの中へ歩いていく。コオロギが跳ねて逃げていった。フィルも続く。 25
2016-06-02 17:41:05_土を掘ろうとして、二人は少女の様子がおかしいことに気付いた。彼女は地面にへたり込み、呆然とうなだれている。 「もう、いいんだ……手記は、探さなくても……」 「何言ってんだよ、まだ何にもしてないじゃないか」 レッドは笑って、ザクザクと土を掘る。 26
2016-06-02 17:47:00_死霊の少女は草むらに佇み頭上に咲き誇る桜たちを見上げている。その目は涙で潤んでいた。 「桜はもう終わりだ……桜の苗は一本の桜から挿し木で作った。だから病気にかかったら耐えられる木は存在しない。みんな枯れてしまう……ひとつ残らず」 それでもレッドは掘るのをやめない。 27
2016-06-02 17:53:31_少女の姿が次第に透明度を増し、空気に溶けていく。浄化されようとしているのだ。それは妄執が消えゆく証。その原因が諦めであることは、フィルもレッドも分かっていた。桜が散っていく。 「もう、さよならだよ。最後は桜に包まれて消えたい」 ふわりと浮き上がる少女。 28
2016-06-02 18:00:18_視線の先には桜があった。石垣の上に零れそうなほど咲き誇る桜。少女は目を細め――そこで止まった。 視線の下、レッドがスコップで猛然と土を掘る。そこらじゅう土を掘る。気まずくなってきた。一人で勝手に浄化しようとしている自分が気まずい。 29
2016-06-02 18:06:41「どうして」 フィルはレッドの気持ちを代弁した。 「兵士さんの鎮魂のために桜を植えたひとがいるって凄いことだよ」 「いくら凄くたって枯れたらおしまいだよ」 「兵士さんだって死んだらおしまいじゃないだろう?」 桜の花びらが少女の頭に触れ、髪飾りのように彩を加えていた。30
2016-06-02 18:12:57【用語解説】 【桜の危機】 桜はアヅマネシアを代表する樹木だが、伝染病流行を千年に一度のペースで繰り返している。原因は「サクラクロクサリカビ」という病気で、カビのように表面が黒く煤けることから命名されており、実際にはウィルスである。ウィルスは南の大陸から飛来するという説がある
2016-06-02 18:22:56