若き名将と罠を張る女#1 決戦前夜◆2

故郷に幾度となく勝利をもたらした、若く、麗しい将軍。そして彼に献身的に仕える女官フレイメア。一方、敵の魔法使いである妖婦ギリはこの将軍を陥れようと影から策を練る……。 全50ツイート予定 前↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_若き名将と罠を張る女#1 決戦前夜

2016-06-12 19:05:55
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_都市国家ギェスの空気は次第に重くなり、緊張感が高まっていった。理由は数日にわたって繰り返される殺人や破壊工作だ。 「どこからか分からないが……敵が侵入している」  執務室でセリル将軍はくまの深くなった目をつむった。 11

2016-06-12 19:18:58
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_机の上には事件の起こった箇所に赤い印のつけられた地図。体力と睡眠時間を削り対応に当たった。普通の事件なら警察の仕事だろう。ただ、今回は敵軍の侵入が予想された。軍を動かし、街に厳戒態勢を敷く。  フレイメアは心配そうにヴェールの奥からセリルの横顔を見る。 12

2016-06-12 19:25:30
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「どうやって侵入したか、考えはあるか? フレイメア」 「すぐに答えは出ませんが……」 「俺には仮説が一つある。トンネルだ。敵陣地があの丘に作られてから1ヶ月、その間作業を続け、こちらの街の下までトンネルを掘ったんだ」  フレイメアは驚いて手にした書類を落としそうになる。 13

2016-06-12 19:33:37
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「トンネルと言いましても、かなりの距離がありますよ」 「奴らは陣地を構築し、ひたすら守りに徹している。こちらが攻めようとすると迎え撃ってきて損害を覚悟してこちらの勢いをそぐ。トンネルのためだと思えば理屈が通る。魔法の力には土を掘るものもあるという」 14

2016-06-12 19:41:11
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_そこまで言って、セリルは椅子に座ったまま大きく伸びをした。直後、貧血を起こしたのかゆっくりと身を丸める。 「いかがなされました……? はやり過労が……」  心配するフレイメアだったが、セリルは笑顔を見せた。 「寝不足かもしれん」 15

2016-06-12 19:48:51
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_フレイメアは自分の机から立ち上がると、お茶を用意してセリルの机に置いた。 「どうぞ。少し休憩しましょう」 「ありがとう……」  セリル将軍は机の上の地図を畳み、お茶を飲む。 「働きすぎかもしれない。心配かけたな」 16

2016-06-12 19:55:18
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_その日はまだセリルに元気が残っていた。次の日になる。フレイメアはある情報を聞いた時、執務室に入るのをためらった。 「失礼します」  返事は無かった。セリルは自分の机に座り、肘をついて深くうなだれていた。 「……」 17

2016-06-12 19:59:22
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_若き将軍は目を合わせることなく、顔を伏せたまま。窓の外、太陽を雲が隠す。 「君は優しい。深く問い詰めたり、悲しいことを説明させたりしない」 「私はあなたの隣に」  静かに顔をあげ、フレイメアを見上げるセリル将軍。すでに涙は無かった。 18

2016-06-12 20:09:23
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「独り言だけ言わせてくれ……妻と子供が殺された。いけないな……今の俺は、冷静さを欠いている」  セリルは仕事をしようとしたのだろう。机の上の書類を手に取って眺める。しかし、目が滑ってしまうようで、何度も同じ紙を見ていた。 19

2016-06-12 20:13:23
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_フレイメアはゆっくりと彼の傍に寄り添い、静かに話す。 「後のお仕事はわたくしにお任せくださいまし」 「ありがとう……本当に助かる。今日は仕事にならないな……ハハ、だめな男だ……」  その後姿を見送って、フレイメアは警備の手配の仕事に取りかかった。 20

2016-06-12 20:17:25
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_若き名将と罠を張る女#1 決戦前夜 ◆2終わり ◆3へつづく

2016-06-12 20:17:47
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【用語解説】 【掘削の呪文】 交通インフラ整備や鉱山で何かと重宝される魔法。視界に映った範囲の地面を削り取ることができる。地球においてシールドマシンがゆっくりと岩盤を削るように、掘削の呪文は機能する。削った分は消えるわけではないので、発生した大量の土砂を処理する方法が別途必要

2016-06-12 20:24:06