ダンジョン儲かってますか?#2 かけがえのない商品◆1
_深層に降り立つ。光源の呪文があちこちで白熱電球のように光る。その光を糧にする苔が天井や壁にびっしり。湿度は高く、あちこちから地下水が滲み出る。壁から魔力を濾過する晶虫、そしてキノコ。生命の気配が濃い。それは魔力の濃度が濃いことを意味していた。 「ぐへへ、いいムードです」 31
2016-06-20 19:40:15_クレンツとレェラは苔むした狭い通路を歩く。あちこちに部屋があり、そこでは何かが組み立てられていた。まるでマネキン人形のような無感情な白い人形。関節が曲がるようになっており、ぎこちなく手足を動かす。マネキンを作るのもまたマネキンであり、クレンツとレェラを無視して作業する。 32
2016-06-20 19:44:45「ここは……」 「こいつらはオートマタ。労働用の人形だ。そしてここは生産工場だヨ」 クレンツが言うにはこのオートマタはダンジョンの保守を行っているという。命令が白紙ならこき使うことができるが、残念ながら彼らは言うことを聞かない。 「赤いオートマタを探せ」 33
2016-06-20 19:50:39_クレンツの指示通り、レェラは作業中のオートマタを眺めて赤いものを作製中でないか確認して回る。この生産工場に辿り着くまで、たくさんの難局をクレンツは救ってくれた。確かな信頼を感じ始めていた。クレンツは倒した化け物を捌き、内臓を油紙で包んでは「高く売れるぞ」と教えてくれた。 34
2016-06-20 19:56:11「ああっ、いました!」 声を上げるレェラ。オートマタは無視している。すぐにクレンツがやってきた。レェラは見つけたのだ。組み立て終わったばかりの、赤い肌のオートマタを。 「こいつは不良品なんだ。だから命令が入っていない。つまり、いくらでも命令し放題だ」 35
2016-06-20 20:01:17「それってすごいじゃない。高く売れるってことじゃない!」 「ハハハ、目玉商品だなァ」 そのとき、工場に現れたのは3人ほどの冒険者のグループ。作業途中のオートマタを投げ飛ばして素材を回収している。オートマタは表情を変えず黙って作業を続けていた。彼らはレェラたちに気付く。 36
2016-06-20 20:07:18「おっ、クレンツじゃねぇか」 「今度はこんな小さな女の子を騙しているのか?」 「てめェら、静かに、静かに!」 様子がおかしい。クレンツは明らかに動揺しており、レェラを遠くに連れて行こうとする。レェラは僅かに不信感を抱く。 「どういうことです?」 37
2016-06-20 20:13:13_クレンツの代わりに冒険者たちが答えた。 「その赤い奴、不良品だぜ。命令は聞くが、すぐ壊れちまって何の役にも立たない。クレンツ、どうせ高値でこの子に売るとかなんとかしているだろうが、こんな詐欺まがいをやめて、真っ当な……」 凍った笑顔でクレンツを見るレェラ。 38
2016-06-20 20:18:26_レェラの目に映ったのは、猛ダッシュで逃げていくクレンツの背中だった。 「もしかして、騙された……」 追いかける気力もなく、呆然とその場にへたり込むレェラ。困った顔をした冒険者たちが、気まずそうにその場を去っていく。 39
2016-06-20 20:27:32_かび臭いような苔の匂いが彼女の涙腺を刺激し、ポロリと涙がこぼれた。この場に残されたのは物言わぬオートマタたちと、横たわる赤い肌のオートマタと……全てを失ったレェラだけだった。 40
2016-06-20 20:35:04【用語解説】 【オートマタ】 動く人形。疑似的な感情と知能を持つが、あくまで紛い物であり魔法は使えない。しかし身体能力は成人男性を越えるほどであり、疲労も感じない優秀な労働人材である。神秘帝国時代に生まれたゴーレムをエシエドール帝国が改良して量産した。今では過去の技術である
2016-06-20 20:45:46