宝箱探しを終わらせてやった!#1 ゴミしか出ない!◆2

冒険者のゼイラはダンジョンに暮らして長い。彼の目的はただ一つ。ひたすら、宝箱を探して開ける……どれもこれも、ハズレばかりだ!! そんなとき、不思議な二人組が現れて…… 全50ツイート予定 最初↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_宝箱探しを終わらせてやった!#1 ゴミしか出ない!

2016-06-30 19:37:14
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「よこせ!」  ゼイラは二人の青年から宝箱を強奪する。背の低い方の青年が肩をすくめて降参のポーズ。抵抗も物言いもなかった。彼らは宝箱に興味が無いのだろう。ゼイラはそう判断する。 「ここはワシの縄張りだ。勝手な真似は許さんぞ」 「はいはい」 11

2016-06-30 19:44:55
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「いいか? ここではワシがルールだ」 「はいはい」 「宝箱を見つけたら、すべてワシによこせ」 「いいよ」  ダンジョン内で縄張りを主張することはよくある。大抵通行料をせびったり、収穫をピンハネしたりする。縄張りを守るためにダンジョンに住み着くことにはなるが。 12

2016-06-30 19:49:17
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_ダンジョンの冷たい空気に、吠えるゼイラの白い吐息だけが空回りしている。まるで草木に威嚇しているような、全く手ごたえのない応対。ゼイラは尋ねる。 「素直だな。お前ら。何者だ? 何しにここへ来た?」 「僕らは観光客です。当然、観光に来ました」  長身の方が答えた。 13

2016-06-30 19:54:40
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「名は何という?」 「僕はフィルです。こっちの控えめな方はレッド」 「何がだよ……あ、宝箱」  背の低いレッドの視線の先、鍾乳石の陰に宝箱があった。ゼイラの目の色が変わる。 「ワシのだぁ!!」  鎧をガシャガシャ鳴らして走るゼイラ。 14

2016-06-30 20:00:22
減衰世界 @decay_world

_ダンジョンに宝箱が生まれる理由。多様な説があるが、大体は世界を創造した神の楽しい記憶が魔力の濃い場所に箱の形になって創造される、という大まかな原理は意見が一致している。  宝箱はある日突然、ダンジョンのどこかに、ぽつんと転がっているものだ。 15

2016-06-30 20:05:17
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_ダンゴムシのような晶虫を踏みつぶし、ゼイラは鍾乳石の陰の宝箱にしがみついた。地下水が彼の背中にぽとぽとと落ちて、ぞっとする感触を与える。  ゼイラ自身にも、違和感を覚えさせた。きょとんとした目で見る二人の青年。 「そ、そんなに……」 16

2016-06-30 20:12:54
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「ワシは、憑りつかれているのかもしれんな……少し、話を聞いてくれんか?」  宝箱を抱えたまま、じりじりとフィルとレッドに近寄るゼイラ。 「宝箱の中に、ごくまれに現れるという伝説の宝物。その名は、ベルベンダインのメダル……」  フィルもレッドも顔を見合わせて首をひねる。 17

2016-06-30 20:17:43
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「知らんのも無理はない。あまりにも希少すぎて、一般には知られていない。だからこそ、ワシはその魅力に憑りつかれた。そしてダンジョンに住み着くようになって、6年がたつ……」  ゼイラは泥で濡れた宝箱を開く。しかし、中は空だった。 18

2016-06-30 20:24:24
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「6年間……一つとして見たことはない……」  泥と地下水の混ざった地面に腰を下ろし、ゼイラはうなだれた。目の前がぐらぐらする。それは宝箱めがけて走ったせいだろうか。  それを見たレッドは宙をしばらく見たあと、ポケットに手を入れた。何かを取り出す。 19

2016-06-30 20:29:02
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「探しものって、ひょっとしてこれ?」  取り出したのは手のひらサイズの宝箱。それを開けるレッド。中に入っていたのは……金色に輝く一枚のメダルであった。  それを見たゼイラは目をむき、震える手を伸ばす……。 20

2016-06-30 20:33:37
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_宝箱探しを終わらせてやった!#1 ゴミしか出ない! ◆2終わり ◆3へつづく

2016-06-30 20:34:05
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【用語解説】 【ダンジョン内占拠】 冒険者が一人、あるいは複数でダンジョンに住み、様々な難癖をつける行為。一応合法だが、嫌われる行為ではある。ダンジョン内の魔力は晶虫等の営みで急速に枯れていくので労力の割に合わない一方、枯れた後も占拠を続け、再び魔力が満ちるのを待つ強者もいる

2016-06-30 20:40:13