燭へし同棲botログ:キスの日

2016/5/23:長谷部の罪悪感とつぐない。
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燭へし同棲bot @dousei_skhs

【キスの日】 いつも二人で眠るベッドの脇にしゃがみ、そこに今一人で眠る光忠を見つめてどのくらい経ったのだろう。部屋に不釣り合いなサイズのベッド。端に寄り、律儀に俺のためのスペースを開けて眠る光忠の顔に、黒髪が一筋掛かっている。眼帯は外されて、俺だけしか知らない素顔がそこにあった。

2016-05-23 23:00:21
燭へし同棲bot @dousei_skhs

残業を終え、疲れて帰ってきたはずの俺が、何故素直にベッドに入らずこんなところでじっとしているのか。それは、今朝のとある事件――というと大仰かもしれないが、俺にとっては事件だった――が関係していた。

2016-05-23 23:03:12
燭へし同棲bot @dousei_skhs

光忠は、いつも家を出るときにキスをしてくれる。本当に自然に、流れるように。小さい子どもがするように頬へ、身長差にものを言わせて額や髪へ。ほんとうに軽く触れる程度に唇へ。 「……ああ」 俺が今ベッドの脇でしゃがんでいる原因。それは、俺が今朝その自然なキスを拒んでしまったからだった。

2016-05-23 23:06:17
燭へし同棲bot @dousei_skhs

どちらが先に出るかはまちまちだが、今朝先に出たのは光忠の方だった。 (ごめんね、起こして) (構わない) いつもより早かったから、俺は起き抜け状態だった。顔も洗っていないし着替えてもいない。正直、仕事へ向かうためにきっちり決めた光忠の前に、だらしない姿のままで出たくなかった。

2016-05-23 23:09:04
燭へし同棲bot @dousei_skhs

(じゃあ、長谷部くん) (! あ、……) (お、っと) そんな気持ちが無意識のうちに出てしまったのだろうか。近づいた光忠の身体を、俺はそのときほんの少し、本当に少しだけ、押し返してしまったのだ。

2016-05-23 23:12:20
燭へし同棲bot @dousei_skhs

光忠が目を見開いたのがわかった。すぐにフォローすればよかったのに、慌てた俺は「気を付けて行って来いよ」と送り出す言葉を重ねてしまった。気まずくならないように気を遣ってくれたのか、あいつもあいつで「ありがとう、長谷部くんもね」と笑って出て行ってしまった。

2016-05-23 23:15:48
燭へし同棲bot @dousei_skhs

そこから自業自得の罪悪感を抱いたまま一日が終わり、今に至るというわけだ。 ――本人が起きているときにしなければ意味がない。それは百も承知だが、俺はまず自分の中のもやもやを、今朝の光忠に対しての罪悪感を、どうにかして払拭しておきたかった。

2016-05-23 23:18:05
燭へし同棲bot @dousei_skhs

嫌じゃない。嬉しいんだ。お前にキスをされるのは。 ただそれだけ、伝えておきたかった。 「……みつただ」 俺は手始めに、布団からからはみ出た光忠の手をそろそろ握り、唇を当てた。温かく乾いた、分厚い、大きな手だ。

2016-05-23 23:21:11
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「…………」 起きる気配がないことを確認した俺は、思い切ってベッドの上に乗り上げてみた。スプリングが極力軋まないように、そうっとだ。そして一筋掛かった髪をよけ、露になった額にも口づける。ついでに、頬にも。

2016-05-23 23:24:19
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……光忠、」 最後に俺の視線が辿り着いたのは、光忠の唇だった。 ……ここまでしたら、さすがにやり過ぎではないだろうか。いや、逆だ。ここまでしたら今更だろう。そんなおかしな勇気に後押しされた俺は、薄く開かれた唇にそっと自分のものを合わせ――

2016-05-23 23:27:37
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「なにしてるの」 自分の身体が、ぴしっと固まる音がした。 油の足りない人形のようにぎこちなく視線を上げると、暗い中でも不思議とわかる琥珀色が俺を見据えている。 ……光忠が、起きていた。

2016-05-23 23:30:10
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「お、起き、……」 「寝てたよお。でもなんだかくすぐったいから」 起きちゃった。あっけらかんとそう答える光忠の目には、心底楽しそうな色が浮かんでいた。――どこから見られていたんだ!

2016-05-23 23:33:29
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「すっ……すまな、」 「だーめ、逃がさない」 熱くなった顔を押さえ、慌てて上から退いた――つもりだったが、俺の腰はいつの間にか伸びていた手にがっちりホールドされていた。さっき秘密のキスをしたばかりの、大きな手だ。

2016-05-23 23:36:48
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……ね。もっかい聞くよ。なにしてるの?」 光忠は子どもに言い聞かせるように首を傾げ、甘ったるい、でも本当に寝起きなのだろう、掠れた声でもって尋ねてきた。

2016-05-23 23:39:29
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「なにって」 「うん」 「……なん、でもない」 「寝込み襲っておいて、それはないでしょ」 「襲っ……!?」 どう説明したものか逡巡していると、光忠はその間に軽々と上体を起こしてきた。一気に縮まった距離に思わず身体を逸らせると、光忠の腕に今度は背中を支えられた。

2016-05-23 23:42:33
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「あ、う……あの、」 「――まあいいよ。理由はあとでゆっくり聞こうかな」 「え」 「とりあえず、さっきのお返しをしないとね」 「光忠! 待っ」 「待たない」

2016-05-23 23:44:15
燭へし同棲bot @dousei_skhs

言葉を封じ込めるように、光忠は俺の瞼にキスをしてきた。行き場をなくしていた俺の指を絡め、次はそのまま開かれた掌に。光忠はそこから触れるか触れないかくらいに近づけた唇を滑らせ、俺の腕に、そのまま伝って首筋にまでキスをする。……そして。

2016-05-23 23:46:54
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……ごめんね、長谷部くん」 「え……」 「でも君があんまり可愛いことするから」 まだまだ寝かせてあげられないよ。 そう言った光忠が、俺の「  」に ――噛みついた。 【了】

2016-05-23 23:52:57
燭へし同棲bot @dousei_skhs

(おまけ) 「――長谷部くん、水飲む?」 「……いまいい」 「そう。欲しくなったら言ってね」 「うん……」 「ところでさあ」 「……なんだ」 「気を遣わなくていいんだよ」 「……?」 「僕にはね」

2016-05-23 23:56:17
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……どういうことだ」 「キス拒まれたくらいで、長谷部くんを嫌いになんてなりませんよってこと」 「そ、そんな心配はしてない」 「えー、本当? ちょっとはしまったとか思ったんじゃないの」 「…………」 「長谷部くんの図星はわかりやすい」 「うるさい!」 「ふふ、ごめん」 (了)

2016-05-23 23:57:32
燭へし同棲bot @dousei_skhs

【管理人より】例に漏れず駆け足で終えましたキスの日、お付き合いいただきありがとうございました。いつもよりアダルトな雰囲気になっていればなあと思います。いよいよ本格的に暑くなって参りました。皆さま体調には気をつけてお過ごしください。明日からもよい燭へし日和を。

2016-05-24 00:01:17