【神戸電鉄】山を分け入る神戸電鉄のハナシ。【怪談】
- halpal02_mof28
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きっかけはとあるツイートから。
そうして夜のTLにぼちぼちと投下される怪談…
菊水山駅。それは神戸電鉄有馬線にかつて存在した停留所である。 2005年3月、休止という扱いで事実上廃止された。 ──それは菊水山が休止になって数か月後の夏の事だった。
2016-07-11 22:16:12何時もより蒸し暑い夏の夜。阪神線内の遅れから新開地駅を定刻より少し遅れて出発した下り最終電車は鵯越出て山奥へ分け入っていく。ここから鈴蘭台までの間にある駅は休止となった菊水山である。
2016-07-11 22:18:37力行4ノッチで50km/hをキープしトンネルに飛び込む。2つめのンネルの出口にホームが見える。休止となった菊水山だ。 そこで運転士はあるものを目にした。 ──人?
2016-07-11 22:21:05確かに人だった。待合室に座る白いワンピースの若い女性である。 一瞬呆気にとられたが停車するわけにはいかない。列車は50km/hの速度を保ったままホームを抜けた。 時刻は夜中の0時を15分ほど回ったころ。こんな場所に人は居るはずがない。鈴蘭台駅に着いた運転士は恐怖に襲われた。
2016-07-11 22:24:22鈴蘭台駅で接続をとる三田ゆき最終電車の運転士に「さっき菊水山に人居なかったか?」と尋ねた。すると三田ゆきの運転士は「幻覚でもみたんじゃないか」と笑う。乗務終了後に車掌に尋ねても「ホームには人は居なかったぞ?つかれているんじゃないか」と心配された。
2016-07-11 22:26:50「気のせいかな」運転士は忘れることにした。 しかしその日を境に下り最終電車に乗務した運転士は口々に鈴蘭台駅で「さっき菊水山に人居なかったか?」と尋ねるようになった。 ついには最終電車の乗務を拒むものも現れるようになった。 悩んだ助役はその最終電車に添乗することにした
2016-07-11 22:30:24助役が添乗する最終電車は新開地駅を定刻通りに発車。鵯越を出て真っ暗な山の中を進む。いつ見ても不気味な光景だ。時折閉塞信号機の青い光が後ろに流れる。トンネルを出てホームが見える。菊水山だ
2016-07-11 22:32:14「あっ」運転士が叫んだ。助役は見てしまった。照明の電源を落とされた真っ暗なホームにほぅっと輝く白いワンピースの若い女性だ。列車は菊水山を通過した。
2016-07-11 22:34:36重い空気に包まれた運転台。しばらく沈黙が続いた後、鈴蘭台駅の場内が黄色い明りを灯して近づいてきた。「居たな…」「居ましたね…」交わした言葉はそれだけ。助役は鈴蘭台で電車を降り魂の抜けたようにベンチに腰掛けた
2016-07-11 22:36:59その翌日もそのまた翌日も最終の乗務員から「菊水山居ました」と鈴蘭台で声が交わされる。助役は「まいったな…」と頭を抱えた。相手が相手、場所が場所である。特に休止駅。旅客に危害はないとはいえこのままだと運転士がもたない。そこで助役は考えた。
2016-07-11 22:39:35作戦はこうである。最終電車が行ったあと、新開地へ向かう最終の上り電車がある。それを鈴蘭台まで回送する。そしてその電車を菊水山に臨時停車させる。最終が逝った後の回送であれば問題はなかろう。早速運転掛に相談した。
2016-07-11 22:42:31そして実行の日。怖いものみたさの野次馬もあってか数人添乗があった。新開地停泊車は折返して鈴蘭台に向かう。運転士は緊張した面持ちでハンドルを4ノッチに合わせた。湊川を通過し地下トンネルを抜ける。空には満点の星空である。長田、丸山、鵯越と通過しトンネルへ飛び込む。
2016-07-11 22:45:55ホームが見えた「菊水山。停車」運転士はブレーキをかける。件のワンピースの女性は───居た!構内踏切で足止めされながらこちらを驚いた顔で見ている。 鋳鉄制輪子の鈍い音と共に列車が止まった。ワンピースの女性は呆気に取られている
2016-07-11 22:49:27「ドア開けて!」沈黙を破ったのは助役の一声だった。相手はどうであれお客様であるドアを開けた。運転士は震えながら「お客さーん乗りますかー最終ですよー」と声をかけた。慌てた女性は電車に向かって走ってきた。そして一番前のドアから乗車。電車はドアを閉め発車した。
2016-07-11 22:51:57女性は通過する電車から見るよりもはるかに美人で月のような白い肌だった。ふわりとしたワンピースには買い物かごをぶら下げている。夜中としては不釣り合いな格好である。シンと静まり返った車内で女性はニコリと微笑みこう言った。
2016-07-11 22:54:48「今日は止まりましたね…久々に帰省したら電車が止まらなくなっていて驚きました…」透き通った声がモーターの音に重なる。「お客さん。菊水山駅なんですけどこの駅。3月に休止になりましてね…もう電車は止まらないんです…」助役が恐る恐る事を説明した。女性はまた驚いた顔をした
2016-07-11 22:59:31「えっそれじゃあもう止まらないんですか…」「ええ…お客様の乗り降りがすくなくて…」「そんな…買出しに行けなくなってしまうわ…」買出し?この辺に住んでいるのか?しかも乗っただけで消えないって幽霊じゃない?助役を含め乗務員全員に疑問が浮かぶ。「場内注意。進路1番線」運転士が換呼した。
2016-07-11 23:03:55電車は身をくねらせ鈴蘭台1番線に入線した。「ここではなんですし電車も明日の仕事のために新開地に戻さなければ…駅の方でゆっくりお話でも」助役の切り出しに少し不満そうな女性は頷いた。階段を下り駅員の詰所へ向かう。「狭いところですが」お茶とお菓子を用意して話を伺うことにした
2016-07-11 23:07:50話を聞くと「菊水山駅の近くに家がある」「買出しをしなければならないため夜中にでかけて朝から買出しをしていた」「たまたま旅行をしていて帰ってきてみたら電車が止まらない」という返事が返ってきた助役は困惑した。あの辺にはダム以外の人工物が皆無である。
2016-07-11 23:10:50しかし電車は公共交通機関である、困っている旅客が居るのであればどうにかしなければならない。あの場所は代替交通が確保できない。それに買出しである。大荷物を抱えてタクシーやバス等あまりお勧めできるものではない。「こちらとしても止めたいのは山々なんですが…」と深々と頭を下げた
2016-07-11 23:14:28机の下から女性の足が見えた。そのときある異変に気づいた。明らかに人のモノではない何かが足以外にぶらさがっているのである。しっぽ?いやそんなはずはない。相手は確かに人だ。頭を上げた
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