連作小話「接吻」

キャラもオチも決めて、後はオチに向けていかに説得力ある展開するか、俺の筆力を試そうとした習作。さて、筆力やいかに。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「ねーえ、初子さん、考えてくれた?」夫の一周忌法事が終わって後片付けをしていたら義姉が早速話しかけてきた。私たち夫婦には子が無かったので家が途絶える。それでは困るので義姉の次男を私の養子にしろと言うのだ。家の存続を口実にしているが、本当の狙いは夫の遺産なのだ。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「ええ、まあ」私は曖昧な返事。義姉の夫の商売(半導体ブローカーとのこと)がうまくいっていないという噂。ちょうどいい機会だからじらしてじらして長年の意趣返しをしてやろうと内心考えているのだが「一周忌も終わったんだからきちんとするのが孝一の遺志にも沿うからね」と姉。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「一周忌がようやっと終わったばかりですし。まだ気持ちの整理が」「そりゃあそうね。だけどきちんとしとかないと何かの際に困るものね」何かの際ってなんやねん、私が死ぬということか。あー、やだやだ。なんでこんな人を義姉にしてしまったんだろう。溜息ついても始まらないけど。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「悪い人ではなかったんだけどマザコンでねえ」白雲さんと差し向かいでお酒を飲みながら私。白雲さんは浄土真宗のおおっさん、夫の葬式、その後の法事でもお経をあげてくれた人だ。最近、ちょくちょく来てくれて私の愚痴を聞いてくれる。お茶のはずが今夜はお酒になってしまった。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 奥さん、よう尽くしはりました。姑さんの介護は外から見ていても懸命やった、姑さんは感謝して逝かれましたで。お母さん思いのご主人も口には出さんけど喜んではったと思いますわ。あの世に行かれてお二人、仲良うしてはりますよ。奥さん、これでようやく肩の荷をおろされましたな。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「肩の荷をおろした」なんてはっきり言うなあ、この坊主。でも、その通りだ。嫁に来てから35年、気難しい舅、意地悪な姑、マザコンの夫によう尽くしたよ私。舅も姑もちゃんと自宅介護したの。老人ホームに入れたかったのだけど夫が大反対、黙って耐えた、健気でエライなあ、私。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 坊主の私がこんなこと言うのもナニやけど、逝かれた方たち、皆さん自分勝手な人ばかりどした。もうちょっとお嫁さんの気持ちを考えてあげたらよろしいのになあと思てました。初子さん、なんであんなに我慢できはったん?慈悲慈母観音さんみたいなお人や、ほんまに。感服してます。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「観音さんみたい」なあんてお上手言うのは止めて下さい。私は私の務めを果たす、自分で選んだ道だからと考えただけです。そりやあ最初は悩みました。しまった失敗したこの結婚はと思いました。でも離婚するだけのエネルギーはなかったし過ちを認めるのも口惜しかったのよ。
土曜日 @doyoubi
#twnovel ほんまに聡明健気なお人や、参りました。そやけど、ちょっと気になるんで突っ込んでよろしいでっか。初子はんのような聡明な女性がなんであんなマザコンに捕まりはったん?二三回話したらどんな男か大体わかりまっせ。失礼やけど、やっぱり財産に目が眩んだんとちゃいますか。
土曜日 @doyoubi
#twnovel あっ、突っ込んできやがった。失礼しちゃわ、この坊主。古傷にさわるな。結婚前にある事があってそこから逃れるためにしようことなしに結婚したのよ。資産家だということも理由になったのは否定できないけど、そんな事、まだあなたに言えないわよ。「お金は大事でしょ。違いますか」
土曜日 @doyoubi
#twnovel その通り。銭は命の次に大切なもんです。そやから私なんかもお布施をくれはる檀家さんを大事にしてまっせ。Excelで檀家さん毎にきちんと管理して法事のご案内葉書を出させてもろてまんねん。そのお陰でこうやって初子さんとも親しくさせてもらいましたしな、ひひひ。あ、失礼。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「ひひひ」なんてイヤラシイ笑い方、そやけどこの坊主、なんで関西弁やねん、東京生まれの筈なのに。あ、私まで関西弁になってしまった。「ねーえ、白雲さん。どうして関西弁で喋るの?関西弁、あたし嫌いじゃないけど時々下品だなあなんて思ったりするのよ。親しみやすそうだけど」
土曜日 @doyoubi
#twnovel 若い頃に数年程関西で暮らしたもんで関西弁が染み付いてしもたんですわ。浄土真宗生臭坊主の寺に生まれて父母の暮らしぶりに反発しましてな。あの頃は私も潔癖でした。檀家さんから頂戴したお布施(しかも無税)で贅沢な生活、なんやねんこれ、おまえら堕落しとるわと家を出ました。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 関西では苦労しました。職を転々辛酸もなめなめ。人の弱みにつけ込んだり足元を見たり引っ張ったりされて。女や思て甘うにみとったら騙されたり。つくづく自分がぼんち育ちと思いしったんですわ。こんなんやったら寺を継いだ方がましやとようやく納得できて帰ってきましたんや。
土曜日 @doyoubi
#twnovel この坊主の言う事は話半分とは思っているが、お寺の坊ちゃんが関西で世間を初体験したのは事実。話を面白くするために脚色する人だけれど苦労話の詳細(損得好き嫌いの世界。彼の名誉のために省略)は面白かった。「苦労されたんですねえ。ところで、いい人には出会わなかったの?」
土曜日 @doyoubi
#twnovel おなごはんとはなくもなかったけどあきませんでしたわ。臆病やからなあ、わて。それに、浄土真宗生臭に反発してたもんで女犯の戒めは守ろうとしてたとこがありました。お陰で50を過ぎた今でもチョンガーですわ。自分の身の回りは自分でするようになってしまいましたわ、ハハハ。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「女犯の戒め」だなんて嘘ばっかり、この坊主。檀家回りを口実に家の中に入り込んで後家殺しとかなんとかよからぬ噂もどこ吹く風。ほんとに食えない奴だなあ。ケリを入れてやろう。「でも、艶福のお噂を聞きましたよ。どこかの誰かさんが白雲さんから離れられないとかなんとか」
土曜日 @doyoubi
#twnovel ほほほ、そんな噂があるんでっか。人の口に戸は立てられませんなあ。ところで、噂といえばお宅の養子話はどないなりましたん。檀家さんのお家の存続にかかわることでっさかいに私も無関心ではおられまへん。そやけど、あれだけ尽くされた初子さんに無理強いするのもあこぎでんなあ。
土曜日 @doyoubi
#twnovel こいつぅ、さらっと逃げちまった。やっぱり噂(後家殺し)はほんとなんだ。「もーう、いい加減にして欲しいわ。この家のために一生懸命やってきて一人になったら養子をとれなんて。どこまで私の気持を踏みにじるのよ。人の気持を考えないエゴイストは私、女でも男でも大嫌い」
土曜日 @doyoubi
#twnovel まあまあ、初子さん。人間はみんなエゴ、そんな当たり前のことに怒ってもしゃあないで。エゴが寄り集まってなんとかやっていきよるのが世の中や。エゴがあるからこそ男と女のややこいしい事もおもろなる。そんな風に考えたらどないやろ。狐と狸の化かし合いもよろしいやおまへんか。
土曜日 @doyoubi
#twnovel あ、私もエゴなの?いやだあ、私は私の務めをきちんと果たしてきただけなのよ。不本意な結婚だったけど、自分で選んだ道なのだから妻として嫁として精一杯仕事してきたのよ。やっと解放されてこれから自分の人生と思っていたのに、余計な荷物はもうゴメン。養子なんかいらないわよ。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 話しているうちに気持ちが高ぶって涙が出てきた。そうなんだよ、私、必死で生きてきたんだ。健気だなあ。姑舅夫そして小姑、無神経なエゴに囲まれて一人ぼっちだったもんなあ。子どもが出来ていたら人生変わったかもしれないけど、種無しだったもん。それも私のせいにされたのよ。
土曜日 @doyoubi
#twnovel 「初子さん、これで」。白雲さんがハンカチを出してくれた。「泣きたい時は泣いたらよろしおます。思い切り泣きなはれ」そう言いながら私のそばににじり寄って来た。涙の眼の隅で私はそれを見ていた。あ、今度は左手を私の膝に置いたぞ。このエロ坊主、と思いながら私は泣き続けた。
土曜日 @doyoubi
#twnovel あんたは一人ぼっちでよう頑張りはりました。もう、意地を張らんでもよろしいで。仏さんがついてはります。生きてる人間はみんなエゴやけども、死んだら皆仏さん。仏さんはなんにも言わず微笑みながら観てくれてはります。肩の力を抜きなはれ。あんたは一人やないんやで。
土曜日 @doyoubi
#twnovel うまいこと言うじゃん、このエロ坊主と内心褒めてやったら左手が膝の上を撫で這いまわりだした。こんなババアに何をするんだと少し思ったが悪い気持ちはしない。やがて手が肩に回り抱き寄せられた。唇を押し分けて差し込まれた舌を私は受け入れる。これでいいんだ。自然なんだ。 了