「チチバンド」に「キンローホーシ」…パラオで古い日本語が今も使われている理由は? 大使館に話を聞いた
日本とパラオの歴史的関係
まずはパラオと日本がつながりを持っている理由について。
第一次世界大戦後から第二次世界大戦の終わりにかけて、日本はパラオを統治していた。
戦後、パラオにいた日本人は日本にいったん強制送還されたが(日本に代わって米国が統治するようになった)、1947年には600人もの日本人が再び渡航。1994年10月にパラオが独立すると、日本は同年11月に外交関係を結んだ。
現在、パラオには日本から年間2万人近くの観光客が訪れる(2019年時点)ほか、姉妹・友好提携都市の関係を結んだり、パラオから日本に国費留学生がやってきたりと、盛んな交流が行われている。
パラオの文化に今でも日本の影響が残っているのは、戦前から今にかけて深い関係がつづいている背景があるからなのだ。
日本語由来の単語がコミュニケーションの1割くらいを占めている
背景を知ったところで、パラオの今についてのお話を聞きたい。今回トゥギャッチ編集部の質問に、在パラオ日本国大使館の荻野毅 一等書記官が答えてくれた。
ーーー日本語由来の言葉は、実際どれくらいの頻度で使われているのでしょうか?
パラオでのコミュニケーションで実際に使用される単語のうち、日本語由来の単語は1割くらいを占めていると思います。
パラオ語のスピーチを聞いていると「トクベツ」や「オキャク」といった単語が必ず聞こえてきますし、 街を歩いていると親が子どもに「アブナイ!」と言っている場面に出くわします。
ーーー日本語由来の単語の中でも、特によく使われている言葉はなんでしょうか?
デンキ、デンワ、センプウキ、デンチ、オンガク、ベントー、ダイジョーブ、ゴメンなどはよく使われています。
ーーー逆に、言葉としては残っているもののあまり使われていない言葉はありますか?
カツドウカン(活動館=映画館のこと)、マチアイシツ、バッキン、ベンゴス(弁護士)、アバヨ、ボクジョウ、ドロボウ(泥棒)、ヒドイ、ハカセ、モンク、モノサシなどは、あまり使われていないですね。
日本語由来の単語は、パラオ語に混ざってどのような形で登場するのだろうか。
ーーー 純粋なパラオ語と日本語由来の単語が混ざった例文を教えてください
1. Ak mo milil ra taki ngak ma sechelik.
(アクモ ミリル ラ タキ ガク マ セエリック)
意味:友達と滝へ遊びに行きます。
2. Ng tansiobi ra ngelekem er oingerang?
(ン タンショビ ラ ゲレケム エラ オイゲラン?)
意味:子どもの誕生日はいつですか?
3. Ng Meral ungil a aji era bento.
(ン メラル ウンギル ア アジ エラ ベント)
意味:弁当の味はとても良いです。
4. Ak milecherar a takai el sasimi el msa tokubets el okiak er ngak.
(アク ミレエラル ア タカイ エル サシミ エル メサ トクベツ エル オキャク エル ガク)
意味:特別なお客のために高い刺身を買いました。
4番目の文例に至っては一つの会話に4つも日本語由来の単語が登場するので、なんとなく文意を推測できそう。
コミュニケーションの1割を占めているという言葉通り、パラオに行くと聞き覚えのある言葉をそこかしこで耳にする機会が多そうだ。
日本でおなじみのフレーズをパラオ語で言うと?
ーー言語以外で、パラオの日常になじんでいる日本由来のモノ・文化などはあるのでしょうか。
パラオの日常になじんでいる日本由来の日用品としては、ふかし鍋、鎌、金だらい、コンロ、畳、つるはし、七輪などがあります。
文化については、素麺(温かいにゅうめんが主流)、うどん(お正月の定番)、おしるこ(これもお正月の定番)を食べます。 なお、刺身はパラオの国民食になっていますが、日本統治以前から食べていたので日本由来ではありません(醤油をつけて食べるのは日本の影響ですが)。
このほかに、お葬式で遺族にお金(香典)を渡したり、お墓に食べ物やお花をお供えしたりする点は、日本の文化の影響を受けたものと思われます。
言葉だけでなく、文化的にも日本とゆかりがあるパラオ。ここまで話を聞いて、パラオに対する親近感が爆上がりした筆者は思った。「逆に、日本でもパラオ語を使っていきたい」。
例えば、SNSやネットでたびたび目にする「働きたくない」、仕事でよく使う「直帰します」、誰もが一度は使ったことがあるであろう便利ワード「行けたら行きます」をパラオ語で言ったらどうなるのだろうか。
ーーー日本でのコミュニケーションでよく使われるフレーズについて、パラオ語でなんと言うか教えてください
以下のとおりです。
・働きたくありません
Ng chetik e loureor. (ン エティク エ ロウレオル)
・行けたら行きます
Ng soak lekong al sebechel. (ン ソアク エレコン アル セベエル)
・直帰します
Ak di ngar tiei e mo remei. (アク ディ ガルティエイ エ モ レメイ)
以上のシチュエーションにて、日本語でストレートに言うのがなんとなくはばかられる場合は、パラオ語でさらりと伝えてみるのもいいかもしれない。今日の飲み会はン ソアク エレコン アル セベエル!
その他、覚えていると便利なパラオ語としては以下のようなものがある。
Alii(アリー)→こんにちは
Mesulang(メスーラン)→ありがとう
Mechikung(メイクン)→さようなら
Ma uriul(マ ウリウル)→また後で
ーーー日本語由来の単語をきっかけにパラオに興味を持った人に向けて、一言メッセージをお願いします
ビールを飲むことを「ツカレナオス」と言ったり、ブラジャーのことを「チチバンド」と言ったりすることについて、信じてもらえない方もいらっしゃるかもしれませんが、パラオでは本当に多くの日本語由来の単語が使われています。
言語だけではありません。ラジオから演歌調の歌や日本語混じりの歌が普通に流れてきますし、 商店ではベントーやムスビ(おむすびのこと)が売られ、ほとんどのレストランでは刺身が食べられます。
日本語由来の単語をきっかけにパラオに興味を持った方は、新型コロナウイルスが収束したら、 ぜひパラオに旅行に来ていただき、手つかずの自然とともに、日本の影響が残るパラオをご自身の目で確かめてみてください。 そして、パラオの人々に、「ダイジョーブ」「オイシイ」「ゴメン」といった共通の言葉で話しかけてみてください。
詳しいお話を聞いて、心からパラオに行ってみたくなった。
ちなみに、今回登場した日本語由来のパラオ語は、在パラオ日本国大使館のYouTube公式チャンネルにて、動画で紹介されている。
日本語由来のパラオ語がどんな発音で使われているのかが分かるだけでなく、パラオの人たちの演技力と陽気さがクセになる動画だ。
在パラオ日本国大使館のTwitterアカウント(@OfPalau)では、パラオの言葉や文化について定期的に発信している。気になった方は、ぜひフォローしてみては。