「インドのヤギが服を着ててかわいい!」…だけではすまない、インド一周中の写真家が語る実情

愛されている動物はみんなかわいい
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Twitterに投稿された、古着を着たヤギたちの画像がかわいいと話題だ。

この画像をインドで撮影しツイートしたのは、日経ナショナルジオグラフィック写真賞でグランプリを受賞したこともある写真家の三井昌志(@MitsuiMasashi)さん。

ヤギは寒さに強い動物だが、写真のヤギたちはなぜか服を着せられている。三井さんはその理由を「体が冷えて風邪でもひいたら大変」と飼い主が心配したからでは、と推測している。

にっこりほほ笑んで見える、服を着ている子と着ていない子
短めのベストの背中の穴から毛がひょっこり
麻布でしっかり巻かれるヤギ、それを尻目に走り回る犬

服を着たヤギたちの画像を見たTwitterユーザーからは、「飼い犬っぽくてかわいいですね」「良い感じにダメージ効いてておしゃれ」とそのかわいさに注目するコメントが集まった。

インドのヤギ事情について三井さんに質問をしたところ、どうやら「かわいい」だけではすまない現実的な事情があるとの回答が返ってきた。

愛犬に服を着せてかわいがるのとはまったく違う

服を着せられたヤギたちはペットとして飼われているのでしょうか?

基本的には食肉用です。つまり大人になったヤギはどこかの段階で屠(と)殺されて、お肉になります。

インドでは牛や水牛、ヤギや羊、馬、ロバ、ラクダなどさまざまな動物が飼われていますが、純粋に愛玩目的で飼われている動物は非常に少ないです。

ネックレスをしているように見えるヤギもいますが、他にもオシャレなヤギは見かけましたか。

これはネックレスではなくて、首ひもだと思います。確かにネックレスのようにも見えますね、それは気づかなかったな。

写真のヤギたちは街中で飼われていて、フラフラどこかにいってしまうと困るので、飼い主が首にひもを付けているのでしょう。

ヤギを飼っている人たちのヤギに対する接し方についてどう感じていますか?

ヤギたちは家畜ですから、単にかわいがっているから服を着せているわけではありません。 飼い主には「毎日ヤギに餌をあげて、大きく成長したら市場に連れて行って売り払い、現金収入を得る」という明確な目的があるのです。 飼っているヤギが病気になったり、死んだりしたら重要な収入源が失われてしまうわけですから、そうならないように大切に扱っているのです。

身もふたもない言い方かもしれませんが、ヤギは飼い主にとって「商品」であり「財産」なのです。多くの日本人が愛犬にお洋服を着せてかわいがるのとは、意味合いがまったく異なっているわけです。

ヤギに服を着せるインドの人たちについてどう感じますか?

ヤギたちは最終的にはお肉になって人に食べられてしまう運命にあるのですが、それでも子ヤギのつぶらな瞳はとても愛らしいですし、大人のヤギのすっとぼけた表情もなんだかかわいいですよね。

そういう感覚は飼い主であるインド人たちも持っているはずです。子ヤギを我が子のように抱きしめるインド人の姿を、何度も見たことがありますから。

僕が興味を惹かれるのは、ヤギを飼うインド人が「我が子のようにヤギをかわいがる優しさ」と「成長したヤギをと殺して食べる残酷さ」をあわせ持っている点です。 

三井さんは、日本人とインド人の動物や食肉への思いの違いをこのようにも回答してくださった。

僕を含め多くの日本人にとって「食肉というのはどこかの工場で加工されてスーパーに並んでいる商品・モノ」であり、例えばパック入りの牛肉の「その前の姿」に想像をめぐらせる機会はあまりないと感じます。

しかしインドの街には食肉になる前の家畜の姿が当たり前にあり、肉屋にいけばと殺されたばかりの肉が目の前でかっさばかれています。そのような日常における違いが、日本とインドにおける動物や食肉に対する感覚の違いを生んでいるのではないでしょうか。

 「動物をかわいがったり、家族や友達のように思ったりすること」と「その動物の肉をおいしく食べること」は矛盾した行動のようでいて、そのどちらもヒトの本能に根ざした人間性の一部だと考えています。

「ヤギが服着てる! かわいい!」という単純な思いから始まった取材だったが、三井さんのお話はとても深く、非常に考えさせられる結果となった。これもインドの人たちにとっては生きていくための営みのひとつなのだ。とはいえ、ヤギが服を着ている姿はやっぱりかわいい…!

 

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