『ケイレブ・ウイリアムズ』の作者 ゴドウィンとその家族・友人

7
藤原編集室 @fujiwara_ed

『ケイレブ・ウィリアムズ』(白水Uブックス)の作者ウィリアム・ゴドウィンは、思想史のほうでは英国最初の無政府主義者ということになっています。過激派です。(もっともあくまで理論的なもので、いわゆる活動家ではありませんでした) pic.twitter.com/6uxb29oW2R

2016-07-14 12:39:43
拡大
藤原編集室 @fujiwara_ed

父親がカルヴァン派の牧師で、息子ウィリアムも父と同じ道へ進んだのですが、やがてフランスの啓蒙思想に傾倒し、信仰を捨ててロンドンへ向かい、文筆の世界に身を投じます。英仏海峡の向こうでフランス革命が始まるのはその数年後。

2016-07-14 12:40:54
藤原編集室 @fujiwara_ed

ルイ16世が処刑された1793年にゴドウィンが発表した『政治的正義』は、政府と私有財産の否定、富の分配を説いて、英国社会を批判。その急進的な主張は保守派からは危険視され、一方で若者を中心に熱狂的な反響を呼び起こします。

2016-07-14 12:41:38
藤原編集室 @fujiwara_ed

『政治的正義』を貪り読み、その思想に傾倒したなかにコールリッジ、ワーズワス、シェリー等、若き日のロマン派詩人たちもいました。ちなみに『崇高と美の観念の起源』でゴシック小説に美学的論拠を提供したエドマンド・バークはフランス革命に否定的な立場で、ゴドウィンとは敵対する陣営でした。

2016-07-14 12:42:23
藤原編集室 @fujiwara_ed

@fujiwara_ed 左からコールリッジ、ワーズワス、エドマンド・バーク。 pic.twitter.com/n2RjfnXqNF

2016-07-14 12:43:33
拡大
拡大
拡大
藤原編集室 @fujiwara_ed

『政治的正義』は大変評判となった本ですが、教育のない一般庶民には少々難しすぎました。そこでゴドウィンは自分の思想や主張を、誰が読んでも面白い読み物のかたちで訴えることを考えました。そうして書かれたのが『ケイレブ・ウィリアムズ』(1794)です。

2016-07-14 12:44:40
藤原編集室 @fujiwara_ed

『ケイレブ・ウィリアムズ』は『政治的正義』の主張を大衆向けにかみくだいた社会告発の書、思想小説でもあるのですが、面白いのは作者の当初の思惑を超えた複雑なものが、この小説の中で生まれていることです。

2016-07-14 12:45:44
藤原編集室 @fujiwara_ed

体制=権力側に立ち主人公を迫害する地主が悪、その罪を追及する主人公が善とは必ずしも言えず、孤児とその庇護者という二人の間の疑似親子関係は、激しい愛憎を孕みながら物語の終盤まで持続していきます。

2016-07-14 12:48:22
藤原編集室 @fujiwara_ed

@fujiwara_ed 〈父=創造主〉に対する〈子=被造物〉の反逆という主題は娘メアリーの『フランケンシュタイン』にも受け継がれている、とは多くの評者が指摘するところでもあります。

2016-07-14 12:50:02
藤原編集室 @fujiwara_ed

「重要なのは、『ケイレブ・ウィリアムズ』を通して、ゴドウィンが、ゴシック・ノヴェルであろうとなかろうと、それまでのノヴェルでは決して扱われることのなかった、あるいは扱うことのできなかった人間の深層心理や哲学的、形而上的な主題の探求に成功したことである」―横山茂雄『異形のテクスト』

2016-07-14 12:51:54
藤原編集室 @fujiwara_ed

18世紀末英国社会の現状を厳しく批判すると同時に、人間心理の深淵、形而上的な深みに鋭く踏み込んでいったウィリアム・ゴドウィン『ケイレブ・ウィリアムズ』(白水Uブックス)好評発売中です。green.dti.ne.jp/ed-fuji/Hakusu… pic.twitter.com/bLNMnVnuFU

2016-07-14 12:55:07
拡大
石堂藍 @PiedraIndigo

『ケイレブ・ウィリアムズ』のおもしろさは、二人の主要人物の複雑な心理が、一貫したサスペンス(社会的な)の中で描かれていること。まんまぱくってネット社会で再現してもイケるネタだけど、そんなことをしたら、すごく浅薄になりそう。

2016-07-14 13:42:27
石堂藍 @PiedraIndigo

横山茂雄が『異形のテクスト』の中で、ゴドウィンについて述べたのは、知識=力への欲望が不可避的に持つ光と闇の両側面を描いたことで、ノヴェルの領域を広げたということ。これは『フランケンシュタイン』へと直結するもので、要するに人類の最も深い業に迫っている。そこまでの射程を持てるか。

2016-07-14 13:45:15
石堂藍 @PiedraIndigo

それにしても『ケイレブ・ウィリアムズ』がUブックスとは。読んでいない人はぜひ読んで。この時代の小説はもれなく冗長だが、それでも充分に緊迫感があり、おもしろい。そして『サン・レオン』も翻訳されることを願おう。

2016-07-14 13:47:36
藤原編集室 @fujiwara_ed

ウィリアム・ゴドウィンの奥さんはメアリー・ウルストンクラフト。『女性の権利の擁護』(1792)で有名な、フェミニズムの元祖ともいうべき人です。アナーキズムの元祖とフェミニズムの元祖が結婚して、生まれた子供が『フランケンシュタイン』の作者メアリー・シェリー。

2016-07-14 14:09:28
藤原編集室 @fujiwara_ed

@fujiwara_ed メアリー・ウルストンクラクフトの肖像。1797年に二人が結婚した時、教会で式を挙げたので、信仰を捨てたはずのゴドウィンがなぜ・・? と支持者が失望したという話も。 pic.twitter.com/BmrN0AcV0B

2016-07-14 14:12:20
拡大
藤原編集室 @fujiwara_ed

メアリー・ウルストンクラフトは恋多き女性だったようで、ゴドウィンと結婚する前には、『夢魔』で有名なスイス出身の画家フュスリに恋したり、アメリカ人実業家との同棲生活が破綻して投身自殺を試みたこともあります。

2016-07-14 14:13:13
藤原編集室 @fujiwara_ed

@fujiwara_ed メアリー・ウルストンクラフトと同棲相手の間に生まれた娘ファニー(メアリー・シェリーの義姉)についての本が最近翻訳されました。ジャネット・トッド『死と乙女たち ファニー・ウルストンクラフトとシェリー・サークル』(音羽書房鶴見書店)。

2016-07-14 14:15:10
藤原編集室 @fujiwara_ed

ゴドウィンとメアリー・ウルストンクラフトの結婚生活は長くは続かず、娘メアリーを出産後まもなく、母メアリーは産褥熱で亡くなってしまいます。

2016-07-14 14:16:22
藤原編集室 @fujiwara_ed

ゴドウィンはその後再婚。お相手は聖書や歴史に取材した子供向けの本の作者メアリー・ジェイン・クレアモント。二人はのちに児童書出版業を始め、メアリーとチャールズ・ラム姉弟の『シェイクスピア物語』を世に送ります。 pic.twitter.com/wfhvxquIVf

2016-07-14 14:17:19
拡大
藤原編集室 @fujiwara_ed

ちなみに後妻の連れ子クレア・クレアモント(メアリー・シェリーの義妹)は後に詩人バイロンの愛人となり、『フランケンシュタイン』やポリドリ「吸血鬼」を生んだデオダディ荘の伝説の一夜にも同席します。(画像はクレアとバイロン) pic.twitter.com/GlpGlOfUvQ

2016-07-14 14:18:55
拡大
拡大
藤原編集室 @fujiwara_ed

娘メアリーは、ゴドウィンの著作のファンで経済的支援者でもあった詩人P・B・シェリー(画像・右)と恋仲になりますが、シェリーにはすでに妻子がおり、二人はフランスへ駆け落ちします。そのときメアリーは17歳。 pic.twitter.com/xO8Bpclu9T

2016-07-14 14:20:39
拡大
拡大
藤原編集室 @fujiwara_ed

結婚制度を否定し、妻メアリー・ウルストンクラフトとも子供ができるまで入籍しなかったゴドウィンですが、娘の自由恋愛には激怒したといいます。

2016-07-14 14:22:20
藤原編集室 @fujiwara_ed

1816年、バイロンの誘いでシェリーと共にスイスのレマン湖畔、デオダディ荘で一夏を過ごしたメアリーは、長雨の退屈を紛らすために提案された怪談競作に応じて、『フランケンシュタイン』の着想を得ます。(その後完成した原稿を1818年に匿名で出版)

2016-07-14 14:23:24