
ヴォイドアクセラレーター#1 追い込まれた部屋◆3

_ゼミールは呆然としたまま動けなかった。 (ミシュスが……消えた?) 突然のことだった。まるで今まで話していた相手が、突然崖から飛び降りたような……そんな感じがして、理解ができなかった。 21
2016-07-18 20:10:59
「失敗……したのか?」 ようやくその考えに辿り着いて、ゼミールは動き出すことができた。震える手でヴォイドアクセラレーターを慎重に拾い上げる。水晶のレンズの中に封じられた暗黒物質が渦を巻いていた。恐る恐る計器に向き合う。 22
2016-07-18 20:18:06
_計器の示す値を見ても、想定した数値は得られていない。それどころか、何も変化しているようには思えない。本来ならば加速された魔力が検出されるべきなのに。 「こんなの、無駄死にじゃないか……」 何故こんなことになってしまったのか、思いが頭を駆け巡る。 23
2016-07-18 20:24:41
「予知なんか信じたから……行動を起こしたから……前に進んだから。だから失ってしまったんだ……」 ゼミールはそれでもあきらめきれず、計器を見る。すると、一枚の置手紙。書いたのは、ミシュスだった。恐る恐る中身を見る。 24
2016-07-18 20:33:33
『この手紙を見られたということは、わたしはもういなくなっていることでしょう……えへ、一度言ってみたかったんだ。最近予知を繰り返しているんだ。10回くらいだと思う? いいえ、もっとたくさん……その全ての予知が、あなたの栄光を予言している。予知を信じて』 25
2016-07-18 20:41:11
「こんなの、栄光でも何でもない……」 震える指で次の行を読む。 『わたしの場合は魔法の予知だけど、あなたにも予知がある。きっと成功する、きっと望みに辿り着く……それは叶うかどうかわからない。けれども、あなたが前へ進めるのは、きっと信じているから』 26
2016-07-18 20:46:56
『きっとわたしは消える。望みを抱いて、頑張って、結果が得られない。それと同じ。でも、わたしはその先までわたしは見えている。わたしはゼミールの時を加速させたよ。きっとあなたは反対するから、手紙で贈る。実を結ぶのはゼミールだよ』 27
2016-07-18 20:51:12
「本当に……時は動いているのか?」 ミシュスを失ったゼミールはどうしただろうか? 答えは単純だった。いつもの日々を始めたのだ。今回の結果をレポートにしてヴォイド・システム専門誌へ投稿した。そして助手を欠いたまま研究を続ける。 28
2016-07-18 20:54:32
_レポートの反響は無かった。それでも、日常が悲しみを麻痺させることをゼミールはよく知っていた。長距離走の最中、足の痛みを感じないように。日々の生活の中で忙殺されることで、様々な痛みを無視してきた。けれどもソファに横たわると、不意に涙がこぼれて止まらなくなる。 29
2016-07-18 21:00:52
_涙が流れる。血を流すような、身体から人間らしさが流れ出ていくような感覚。突然ゼミールの瞳に怒りの炎が灯り、勢いよく立ち上がる。テーブルに無造作に置かれたヴォイドアクセラレーター。それを床に叩きつけようとして……ようやくインターホンが鳴り続けていることに気付いたのだ。 30
2016-07-18 21:09:08
【用語解説】 【ソファ】 広く普及する家具。大抵は革張りだが、何の皮を使用するかでソファの性能は大きく変わる。シリンダーを組み込み、化け物の皮を使用することでソファに座ったまま便利な魔法を使えるようになる。リラックスしたり飲み物を出したり。ただ、魔法代は無視できない
2016-07-18 21:14:28