機動戦士クロスボーン・ガンダム 第1話の作劇

富野由悠季原作・長谷川裕一漫画の傑作、「機動戦士クロスボーン・ガンダム」の魅力を、第1話を題材にして、作劇分析をしてみました。
ガンダム クロスボーンガンダム
13
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
「機動戦士クロスボーン・ガンダム」の再版刊をやっとこさGET。富野由悠季が原作(名義貸しじゃなくて)をした唯一のガンダム漫画。漫画担当は長谷川裕一だから、僕としてはとっても好みな作品だ。というわけで、第一話をテキストに、作劇の勉強をしてみよう。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
さて、ガンダムの正当な始まり方は、「敵のモビルスーツの襲撃を受けた瞬間の描写」だ。ここでは輸送船が宇宙海賊に襲われる、という形で描かれる。面白いのは、ここでは主役機のクロスボーン・ガンダムが「襲撃してくる敵」として描写されている点だ。これは、新しい。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
「敵」と思っていた相手が「味方」で、「味方」と思っていた相手が「敵」になる。第一話でここまでやっている。これは分析的に読むと「面白い」だけだが、実際に物語を作るとなると、ものすごい力量がいる。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
「敵」としてクロスボーン・ガンダムが冒頭から登場するので、読者にかなりの印象を与えることができる。初代ガンダムで、ザクがあれほどの人気があるのは、やはり冒頭から徹底的に描かれるのがザクだからだろう。そう考えると、冒頭から主役メカを出す、というのは画期的だ。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
「奴が……海賊どものガンダムが出て来るぞ!」というセリフは、さながら「赤い彗星」のごとく恐れられている、ということを意味している。そしてガンダムは、ひざまづいた姿のロングショット、額にドクロマークのある顔、背中のX字スラスター、そして起立した全身が描かれる。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
この見開きでの「見せ方」は完璧だ。立っているのは母艦の上で、下には整備員がいる。最後コマでは、目がピキイインと光るはずである左斜め下から見上げている構図になっていて、後方にはガンダムと違うデザインのモビルスーツが飛んでいる。まさに「ガンダム」なのだ。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
で、ページをめくると、木星を背景にして出撃するクロスボーン・ガンダムと、主要キャラがコラージュ風に描かれているところに、タイトルがかぶさる。「ここは木星だ」とか「誰が誰なのか」の説明は全くない。ただ、読者の意識下にはこの映像が記憶されることになる。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
これはとても大事なことで、物語が展開していく上で、「どのキャラが重要なのか」がわかっていないと、読み進むのがつらくなることがある。オシャレな作品が読みにくいのはそのため。長谷川裕一はある意味で古いタイプの漫画を描くのだが、少年漫画としてはとてもわかりやすい。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
ここで視点が変わる。驚くほど大胆な切り替えだ。ガスの惑星が木星であることが説明され、主人公が登場する。物語の舞台が木星であることを強調するためか、この見開きで「木星」という言葉が4回出てくる。「木星圏」「地球・木星間航行船」「木星だ!」「念願の木星圏」と。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
作劇的に勉強になるのが、クロスボーン・ガンダムの襲撃と、主人公が「木星」の映像で結ばれていることだ。「ガンダムと主人公は、同じところ(木星圏)にいる」ということ。これがないと「ガンダムがいるのは、地球圏かスペースコロニー」という思い込みが砕けない。#crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
さて、次に重要なのが、「主人公の名前を読者に覚えさせること」。これはガンダム作劇では、「身近な人間に何度も名前を呼ばれる」ということになっている。(笑) 主人公・とビアは左のページだけで3回名を呼ばれている。(ガンダム第1話のアムロほどではないが) #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
「主人公の名を覚えさせる」というのは大事なことで、タイトルになっていない限り、そうとうな努力をしないと読者は覚えてくれない。作者はわかりきっているのでつい省略してしまうのだが、それだと「この人誰?」になってしまう。特に小説では、そうなる。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
少年漫画らしい、明るくて元気な主人公を登場させて、ここで舞台の説明がちょっとだけ入る。主人公が先、説明は後、である。つい「舞台を説明してから、主人公を登場させよう」と思うのだが、それは間違いだと教えてくれている。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
ここからの伏線が上手い。「木星から来た偉い人」も「カラス先生」も、「手袋をしている手」が印象的に描かれている。「偉い人」は今後出てこないので、名前もない。ただ、「木星の大人は手袋をしている」ということを描くためには、複数の人が同じことをしている描写がいるのだ。#crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
カラス先生は、トビアのことを「アロナクス君」と呼ぶ。これは姓を呼んでいるのだと思われるので、これで主人公の名が「トビア・アロナクス」であることがわかる。このカラス先生が木星から来た人かどうかは、この時点では描かれていない。そう、この時点ではどうでもいいのだ。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
で、クラスメイトとの会話が展開するのだが、実はクラスメイトの名は一人も出てこない。重要な設定が、何気ない会話の中に出てくる。手袋の話も出て、手の甲に階級章がある、という映像が、カラス先生だったりする。こうした謎に、読者は「あれ?」と思うはずだ。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
この会話の中で、トビアが「歓迎会で女の子にチェックを入れていた」という情報が出てくる。これには2つの意味があって、1つは「ヒロインが一緒に来た留学生でないことを知っていること」。もう1つは、「可愛い女の子のために活躍しちゃうような男の子であること」だ。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
さらに、この会話で「宇宙海賊がガンダムタイプのモビルスーツを持っている」という話題が出てくる。「このステーションだいじょうぶかしら?」というセリフが重なれば、フラグは完全に立って、直後に警報が鳴っても違和感ありません。見事なストーリーテリングです。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
警報も、ちょっとづつ意味がずらしてあって面白い。「敵襲か?」と思わせておいて、ヒロインが密航者として登場し、トビアに抱きつく。しかも、その女の子は可愛い。はい、ボーイ・ミーツ・ガール完了で、長谷川裕一漫画ですから、ちゃんと主人公はヒロインのために戦います。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
謎のヒロインの登場。しかも彼女は貨物室で何かを見たと告白。その瞬間に、宇宙海賊が出現する! それは舳先に女神像を掲げた、涙滴型の宇宙帆船で、海賊旗をビームフラッグで掲げている! あれ、このビームフラッグはもしかしてF91の? と、読者には思わせといて…… #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
木星の標準型のモビルスーツが出撃。木星と海賊の量産型同士の戦いを見る主人公たちは、すでにノーマルスーツを着ている。こういうのがいい。こういう時に宇宙服すら着てなくてピンチになる低脳なキャラだったりすると、見ていてアホらしくなるから。(パニックものに多い) #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
ここで主人公のニュータイプの資質が出てくる。「このモビルスーツは牽制だ、攻撃している敵は別にいる!」と言うのだ。そこに登場する、2機のクロスボーン・ガンダム! この構図がいい。主人公たちに対し、ほぼ垂直に頭から降下してくるガンダム。手前は、黒いガンダムだ。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
長谷川裕一アクションの凄さがこれで、主人公が上から下に突っ込むときに、頭を下にしているのだ。こんな恐ろしい絵の描けるひとはそういない。ちなみに、ガンダムエースの最新号でも、長谷川作品以外でガンダムを上下逆さまに描いた絵は、ない。 #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
なぜ上下を逆に描いた絵が凄いのかというと、そこには「落下」という感覚があり、「怖い」のだ。試しにこの絵が「下から上に」行く絵がとすると、それほどの怖さはない。いつかは勢いが削がれていく、と感覚的に思うのだ。「右から左」なら、ゲームの画面みたいに思える。  #crossbone
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199
しかし、上から下へ、しかも頭が下になっている絵は「怖い」。その速度が加速していくように感じるのだ。だから、2機のガンダムが急降下して、主人公の目の前をものすごい速度で通過したように見えるのだ。こういう構図はなかなか描けるものではない。 #crossbone
残りを読む(9)

コメント

ええな@手を洗うネコ🐽 @WATERMAN1996 2011年2月13日
指摘されている「頭を下にして落下する」という構図は、長谷川漫画では割と古くから使われている、おそらくマップスの初期からです。エナジー・フォール・ダウンの構図が典型的ですね。
石黒久人『おはなし作家の妄想トーク』 @silverblue2199 2011年2月13日
そう思います。「頭を下にして落下する」というのは、サスケに出てきた回転いなずま斬り、サイボーグ009・地下帝国ヨミ編の最終回、カリオストロの城のクライマックスくらいかな。どれにしても怖い、その怖さをアクション描写として使っているところが凄い!
ログインして広告を非表示にする
ログインして広告を非表示にする