【ライフ・イズ・ディザイア・ノット・ミーニング】#2実況付き
ネオサイタマ。重金属酸性雨の降りしきる雑踏を抜け、闇に包まれた裏路地にその店はある。看板には奥ゆかしいフォントで「水面」のショドー。美しく強かな女主人の営む、知る人ぞ知る酒場だ。静かで心地よい音楽が流れるその安らぎ空間には今、卓を挟み向かい合う男が2人いるだけであった。1
2016-07-18 21:04:35「いい店だろ?よく来るんだ」屈強な身体と流れる様な長髪の男は、向かいに座る無愛想な細身の男へ豪快に笑いかけた。「たまにゃサシってのもいいもんだ。なぁエンデューロ=サン。メンポの無いお前と顔合わすってのも中々ねぇしな」エンデューロと呼ばれた無愛想な男は「そうか」と短く答える。2
2016-07-18 21:06:45カラン、カラン。氷の音が数度響く。「相変わらずシケてんなぁお前」「…そちらも相変わらず騒がしいな、ジューテイオン=サン」長髪の男…ジューテイオンは自分のグラスを一気に空けると「ハッ!言いやがる」また豪快に笑った。3
2016-07-18 21:08:50彼らはかつて、互いにソウカイ・シンジケートに身を置いたニンジャ同士、今は、炎上するあのネオサイタマを生き延びた者同士である。「飲めよ」「飲んでる」彼らは時折サケを酌み交わすようになった。それはこのアマクダリの世で組織という枠に収まれぬ男達のフシギな縁であった。4
2016-07-18 21:10:54「俺はあの頃、お前の事なんかこれっぽっちも知らなかったのにな。おかしな縁だぜ」言いながら、ジューテイオンはグラスにサケを注ぐ。「極秘任務が多かった」「だろうな。で?今はどうなんだ。ビズは上手いこといってんのか」「…それなりだ」そっけない答えの後、エンデューロもサケを飲み干した。5
2016-07-18 21:13:00「それなり、か。走れりゃいいって、いつも通り顔に書いてあんぜ」エンデューロの態度に少しも気を悪くした様子のないジューテイオンは言う。その言葉に、エンデューロがほんの僅か口角を上げると、ジューテイオンは満足げに笑った。これが彼らの常の付き合いだ。6
2016-07-18 21:15:34ソウカイヤ時代、エンデューロは闇社会のさらに裏を駆け巡っていた。ゲイトキーパーに見出され、寡黙さと”狂気”を買われ、ネットワークには流せぬ裏世界の情報を運び続けた。しくじれば死。ケジメはおろかセプクすら許されず、初めからその存在を"無かった"ものとされるような役目であった。7
2016-07-18 21:18:09エンデューロは生き残った。ひとえに彼は任務に忠実で、カラテに打ち込み、そして「走りきる」事だけにその全てを捧げていたからだ。安いプライドなど彼には無い。与えられたコースを走りきる、ただその為だけに彼は生きた。ただ、走り続ける為だけに。8
2016-07-18 21:20:55「妙だが、まぁ、わかるぜ。俺だってわけもなくメタルが好きだ。聞けば身体が動いちまう。そんなもんだ」ジューテイオンは狂気じみたエンデューロの「走り」をそう理解していた。そんなジューテイオンを、ヤクザには似つかわしくない、真っ直ぐな男だとエンデューロは思う。9
2016-07-18 21:23:18「実際モータルのままならバンドでもやってたか、ライブハウスに入り浸り…そりゃ今もだな!ま、ニンジャじゃそうはいかねぇ。あの時は尚更な」ジューテイオンは目を細めた。「おかしな神父=サンのおかげで予定が狂っちまった。悪くはねえがな。」「…神父?」10
2016-07-18 21:25:55唐突な聞き慣れぬその言葉にエンデューロは聞き返した。「あ?他にもいたろ。神父めいた男に会ってニンジャになったって…あぁ、お前はあの話の時いなかったか?そんな話を聞いてよ。俺も似たようなもんだった」「何者だ?」「ニンジャだとよ。ショートセンテンス=サンが詳しい」「なるほど」11
2016-07-18 21:28:27頷いたエンデューロは、しかし、何かニューロンが騒めくのを覚え押し黙った。「お前には関係なかったな、そんな奴。」微かなアトモスフィアの変化を感じたジューテイオンは、エンデューロのグラスをサケで満たしながらそう言った。「そうだ、ショートセンテンス=サンっていやぁよ、この前…」12
2016-07-18 21:30:47「その神父」話を変えようとしたジューテイオンの言葉を、突如エンデューロが遮った。真面目なこの男がそのようなシツレイをすることは滅多にない。「おう、どうした」「その神父、どこに居る」「あぁ?いや…ネオショーナンだとかっつってたな」ジューテイオンは訝しんだ。13
2016-07-18 21:33:20