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ゆたさんと月の沙漠の思い出

ゆたさん用です。収録者にはおすそ分け!→TLにおすそ分け用に一般公開に切り替えます。
思い出
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Yutaro @yutaro_today
煮物しながらAちゃんのことを思い出す。
Yutaro @yutaro_today
AちゃんBちゃんは家が近所だった幼馴染で、2人はそこらへんの同年齢の大ボスだった。遊びに入れてもらう時は2人に断るのが習わしだった。私はみそっかすで、入れてもらえないこともしょっちゅうで、2人のことは苦手だった。小柄で不器用な私はよくからかわれたし、意地悪もされた。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
3人で遊ぶ時、AちゃんBちゃんは私を仲間はずれにしたり、2人だけで内緒話をしたりした。2人はよく、私を見て、顔を見合わせて「ネー」って言ってた。2人とも苦手だった。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
あるときAちゃんの誕生会に誘われた。正直どうして誘われるのか不思議だった。嫌われてると思ったから。プレゼントを用意して、ちょっとおしゃれもして、それでも行く気になれなかった。私はまたいじられ役だと思ったから。行きたくないなあと母に言った。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
母は、あんたが行ったら喜ぶよ、と言ったけど、そんなわけないじゃんと思った。私は喜ばれるような相手じゃないのに。それでも、誕生日なんだし、と言われて、それもそうだと思い直した。誕生日だ。今日くらいはわがままもいじわるも、我慢してもいいかなと。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
家を出たらBちゃんが車に乗っているのが目に入った。「どっか行くの?」「おでかけ!」「Aちゃんの誕生会は?」「行かない」Aちゃんの一番の友達なのに?Aちゃん、がっかりするだろう。少し気の毒になる。私はちょっと遅刻してAちゃんの家に着いた。もう始まっているだろう。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
Aちゃんちに上がったら、Aちゃんが飛び出してきた。Aちゃんはかわいかった。綺麗な部屋。テーブルにケーキとおかし。誰もいなかった。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
ゆたちゃんが一番だねって言われて、戸惑った。でも、おめでとうを言って、プレゼントを渡して、出されたジュースを飲んで、まだ来ない友達を、おかしに手をつけずに待った。来なかった。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
30分経った。1時間経った。誰も来なかった。Aちゃんは泣かない。でも真っ青だった。私は行きたくないなんて一言でも言ったことが申し訳なくて苦しくて、精一杯おどけてみせた。Aちゃんのお母さんが「私の一番好きな歌」と言って、月の沙漠のレコードをかける。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
なぜ誕生日にこんな物悲しい曲をかけるのかわからなかったけど、Aちゃんも好きだと言い、何度も何度もかけるので覚えてしまった。声を張って歌った。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
それからAちゃんが、首飾りをくれた。お返しだと言って。もらわなければいけない気がした。ケーキを食べた。黄桃の缶詰ののった、手作りケーキだった。「来てくれたのはゆたちゃんだけだね」って何度も言われた。言われるたびに胸がぎゅうっとなった。お誕生日なのに。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
Aちゃんが学校に遅れてくるようになるのは、それから数年後。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
それからも別にAちゃんと私は、仲良くなることもなかった。数日後、Bちゃんとつるんで鼻高々のAちゃんを見て、私もまた、元のポジションに戻った。それで、誕生会のことも忘れた。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
Bちゃんと2人で迎えに行ってもなかなか出てこない。10分くらいして、お母さんに急かされながらランドセルを背負って、もたもた出てくるのだった。Bちゃんはときどきしびれを切らして、もう行こう、遅刻すると言った。ときどき待ち、ときどき先に行った。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
Aちゃんのお母さんが、先に行ってということが多くなった。そう言われれば先に行った。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
Aちゃんは学校に来なくなった。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
ずいぶん経ってから。数年経ってから、私は思い至る。Aちゃんが休み始めたのは、Aちゃんを置いていくようになってからだった。待っていれば、ほとんど出てきた。置いて行った日は、休んだ。思い至って、凍りつく思いがした。待っていればよかった。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
待ってればよかった。Aちゃんは、お母さんに急かされてランドセルを背負いながら、もたもたと玄関を出たのだろう。そして、私たちがいないのを見て、引き返したのだ。誕生会のことを思い出した。私はAちゃんを独りにしてしまった。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
待っていればよかった。Bちゃんが行こうと言っても。Aちゃんのお母さんが、言っていいと言っても。そんなの無視して、待っていればよかった。私はそうしたいと思えば人の期待を無視できるのに。そういうかわった子どもなのに、そうしなかった。よりにもよって。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
もう中学生になっていた。もう手遅れだった。手遅れだと思いたくなかった。Aちゃんに、手紙を書いた。そうだ。変わり者の私なら、突然手紙を書いたっていいだろう。アニメの話を書いて、アニメの絵を描いた。他愛もない女子中学生の普通の手紙。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
何度も書き直した。家を出て戻った。何度も何度も。自分のしてることが意味があるかわからなくて。ただの自己満足だと知っていて。Aちゃんがどう受け取るかわからなくて。それでやっぱり、私は変わり者だから今更なんだいと思うことにして、どうにかポストに入れてきた。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
そんな手紙を何度も書いた。学校のことは書かなかった。勉強のことも書かなかった。将来のことも書かなかった。ひたすら漫画やアニメの話を書いた。あるとき、返事が来た。アニメの絵だった。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
お手紙ありがとうと書いてあった。本当に嬉しいのかわからなかった。わからなかったけどまた、書いた。罪悪感にかられて書いた。あの日の小さな彼女を思って書いた。どうしていいかわからなくて書いた。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
私からの手紙は30通を超えたと思う。Aちゃんからの手紙はトータルで3通。ある年の誕生日、カードを持って行ったら、お母さんが出てきてAちゃんに会えた。Aちゃんは照れ笑いしてた。嫌がってなさそうだった。それが一番ほっとした。 #月の沙漠
Yutaro @yutaro_today
Aちゃんが、お手紙もいっぱいありがとうね、と言った。嬉しかったと言った。ほっとした。10こくらいくれたよね、ありがとうと、言った。どきっとした。頷いて、それから漫画の話を少しして帰った。Aちゃんのお母さんが、もう来なくていいからと言った。また、どきっとした。 #月の沙漠
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