【HYDE】The Short Story...

運命は歪められた。 だが彼は覚えている。あの時のことを。 彼女もまた、見据える。 再び相まみえるその時を待ち続けて。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「なあ、ハイド」 『なんだ、イース』 「ごめんな」 『なぜ謝る』 「...ありがとう?」 『なぜ疑問系なんだ』 「すまない...胸がいっぱいで、上手く言葉が出て来なくて」 『...無理に話す必要はない』 「あぁ、」 『...その代わり、ずっと』 「...あぁ。君の、そばに居るさ」

2016-07-08 13:38:46
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

...。遅い。 ごめん。ーーーただいま。 ...おかえり。1

2016-07-08 18:02:56
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

朝日が昇る。鳥の声が聞こえる。何気ない、いつも通りの日常。「ハイドさん、おはよう!」。部屋の入り口から、セーレがひょこっと頭を出す。「朝ごはんできてるよー!」。そう言い残すと、風のように去っていく。そう、いつも通りの日常。いつもと変わらない、同じ朝。「.........、」。2

2016-07-12 19:19:49
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ふと窓から見えた姿に、未だ少し眠気を抱いていた脳が一気に覚醒する。駆け出すように外へ出た。太陽の光は絶えず降り注ぎ、眩い光に目を細める。「...?あぁ、ハイドか。おはよう」。陽の光を反射して一層輝く黄金色の鉄槌は、持ち主の手の中で眠るように佇んでいる。「...早いな、イース」。3

2016-07-12 19:23:30
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...おはよう」。朝日は昇る。鳥はさえずる。陽の光の眩しさに目を細め、月の光を浴びて目を閉じる。「...未だに、夢のような気がしてな」。ふと、言葉が漏れる。嬉しいような、寂しいような。憂いを帯びた声は、どこか儚げだった。「......夢か。俺も、未だに夢なのかも、と思うよ」。4

2016-07-12 19:29:01
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

また君の隣に立てるなんて。そう付け加えた彼の表情は優しい。己の手に持つ鉄槌を、ハイドの前に掲げ見せた。「ありがとう、相棒を守ってくれて」。微笑むイースにつられ、彼女の表情も柔らかくなる。「...守られていたのは、私も同じさ」。守り、守られ。お互いは、お互いを決して忘れる事なく。5

2016-07-12 19:37:26
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「......イース、」。ハイドの視界が歪んだ。自分が泣いていると気付いたのは、イースの指がゆっくりと水の粒をすくった時で。頬に感じる暖かな感触は、彼女の涙を止めるどころか。「......イース。イース、...イースっ...」。小刻みに震えるハイドの肩に、優しく彼の手が触れる。6

2016-07-12 19:45:45
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「ごめんな」。優しい言葉。あの日失ったはずの暖かい声。ハイドは首を横に振る事しか出来なった。今口を開いて、果たして上手く言葉が紡げるのか。否。「...ハイド、」。視界に影が落ちる。それがイースのものだと気付くのに、そう時間はかからず。いつもよりずっと間近で見る彼は、綺麗だった。7

2016-07-16 12:08:48
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

視線を上に向けると、青い瞳が視界に広がる。涙はいつの間にか止まっていた。イースの唇が、ゆっくりと動く。「...ハイド、俺は「ハイドさーん!イースさーん!ご飯できたよー!」...」。彼の言葉を遮るように、セーレの元気な声が聞こえてきた。ふわりと、風が二人の沈黙の間をすり抜ける。8

2016-07-16 12:21:04
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...ふふ」。沈黙を破ったのは、イースの小さな苦笑。困ったように笑いながら、彼は目の前のハイドの髪をくしゃりと撫でた。「...何を言おうとしたんだ」。怪訝な顔で己を見やる彼女に対し、イースはゆっくり瞬きをする。波紋が広がるように小さく揺れる優しい瞳が、ハイドの姿を映した。9

2016-07-18 21:55:49
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「内緒」。意地悪く口角を上げた彼は、身を翻して背を向けた。「また来るべき時に、話すよ」。地に鎮座していた鉄槌を持ち上げ、その背へと。あるべき場所に戻った魂は、陽の光を浴びて一層強く輝く。「...まったく」。焦がれた日々をその胸に感じながら。「必ずだからな」。ハイドは、笑った。10

2016-07-18 22:00:29
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

かつて、彼を失う未来を彼女に与えた"狂暴竜の魂"。 運命の歯車が抜け、歪んだこの未来の中で。 決着の時もまた、避けては通れぬ道。11

2016-07-18 22:05:30
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「...変えられた未来。歪められた運命...ということ」。ふわり、と。空気を翼に変えて。「...祖龍"ミラルーツ"......余計な事をしてくれる」。少女の瞳は、狂おしい程に赤い。あの日、頂でイースを喰らわんとした、命を狩る暴君の魂。《......まあ、良い》。12

2016-07-19 01:10:50
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

少女の声に、低い唸り声が重なる。それは空気を揺らし、殺気を撒き散らす。《我が魂は、潰えぬ。我が魂は永遠に、命を喰らう》。暗く淀む少女の瞳は、何を映しているのだろう。歪曲した運命に。結末が書き換えられた未来に。少女の瞳越しに見える世界に。《あぁ》。"暴君"は、何を見るのだろう。13

2016-07-19 01:19:41
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

夢の中。目の前に立つ人物に、そう結論づける他なかった。「......スオウ」。"夢でなければいいのに"。思わずそう願ってしまう程に、嬉しくも切ない再会の場。かつて共に闘った旧友に向けて、イースは頭を下げた。そう、薄々気が付いていた。「...すまない。皆の仇、取れなかった」。15

2016-07-19 01:29:20
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

運命が歪曲し、自分は今"生きている"。しかし、記憶だけは鮮明に残っていて。あの時、隻眼のティガレックスとの死闘の果てに。「...俺は、死んだはずだった」。しかし、俺は"生かされた"。暴君の魂によって。心臓を貫かれ意志を喰われる感覚は、今でも思い出すと胸が握り潰されそうになる。16

2016-07-19 01:33:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「俺を生かしたのが暴君の魂なら、例え仇を取ったにしろ、書き換えられた未来に生きるのは狂った俺だったはず」。そう、だけど。「...俺は、喰われた事で自分の心を取り戻した。...皆には、申し訳ないと思ってる」。仇を取る為に生き、死に場所を捜す為に生かした己は。「...馬鹿野郎」。17

2016-07-19 01:36:30
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

懐かしい声だった。久しぶりに聞いたはずなのに、つい最近まで語り笑い合っていた感覚さえおぼえる。「...俺は、俺達の為に自分を殺そうとしてるお前に、気付いて欲しかったんだよ」。そう言って、スオウは在りし日の笑顔を友へ向ける。「...縛り付けてごめんな。お前は、生きて良いんだ」。18

2016-07-19 01:40:33
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

友の言葉は、イースの胸に深く響く。自分を取り戻すきっかけをくれた存在と、この命を賭した誓約。不安定に揺れ動いていた彼の心は、ゆっくりと安定を取り戻していく。「例え復讐だったとしても、お前の行動を否定なんてしない。...ありがとうな」。でも、生きる事を望むお前は、輝いてるよ 。19

2016-07-19 01:47:51
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

伸ばした腕は空を切る。反射的に開かれた瞳に暗闇が広がった。視界の端から、わずかに月の光が差し込む。「...ありがとう」。独り言。小さく呟いた彼の瞳から、一筋の涙が溢れ落ちる。「今度は...生きる為に決着を付ける日が来る」。お前もどこかで、生きているんだろう?「なぁ。暴君よ」。20

2016-07-19 01:53:36
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

イースの瞳は、もう淀んではいなかった。かつての友が憂い悲しんだ未来に、彼の死をハイドが嘆いた未来に。「...大丈夫」。本来あるべき姿の未来に生きた彼は、ここにはもう居ない。歪曲の運命を生きる彼の心にも、意志にも、迷いは無かった。旧友達に感謝を告げて。"彼女"と共に生きる道を。21

2016-07-19 01:59:38
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

再び、対峙する狂える魂に向かうは。 黄金に輝く鉄槌と、氷炎纏う二振りの剣。22

2016-07-19 02:02:42