悪い男に騙されなかった日向

見る人すべてを震撼させた読者参加型なりきりストーリーアカウント『悪い男に騙される山城』の解ストーリー『HAruna's waRD』! その後日譚『悪い男に騙されなかった日向』 ※随分と間が空いてしまいましたが、以前まとめてくださっていた方の引き継ぎとしてまとめます 前→http://togetter.com/li/1005333 次→間宮編集中… 続きを読む
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日向 @ike_hyuuga

【『悪い男に騙されなかった日向』開始】

2013-12-16 15:31:47
日向 @ike_hyuuga

薄暗い通路を歩く。無駄に響く自分の靴音だけが耳朶に届く。 突き当たりの壁まで見通せる程に直線で、当然ながら床の面積も比例して壮大になるが、自分以外に人影は全く無い。 片側の壁は窓一つ無い文字通りに壁が延々と続き、逆側は鉄格子がずらりと並んでいる。 敢えて言おうか。ここは牢獄だ。

2013-12-16 15:41:48
日向 @ike_hyuuga

軍事犯罪者を閉じ込める為だけの施設だ。平和な鎮守府なので埋まっている数の方が少ない。それでも零ではないので、目的の牢に行き着く迄の間に、幾度か囚人からの視線を感じた。一度も目を向けなかったので誰の顔も見る事は無かったが。 気安く声を掛けてきたのもいるが、完全に無視する。

2013-12-16 15:47:30
日向 @ike_hyuuga

苦しそうではあるが演技だと見抜ける咳を繰り返す男の牢の前を過ぎ、変わらぬ歩幅で歩く事十数歩。目当ての男が投獄されている鉄格子の前で踵を揃えて立ち止まる。 体の向きを変えて、中で方膝を立てて座る男の顔を確認する。目が合ったのは紛れも無く紫水だった。 一歩だけ近付く。

2013-12-16 15:54:25
日向 @ike_hyuuga

少し見ない間に不精髭で雰囲気が相当変わっている。黒と白の服が全く似合っていない。 住み心地はどうだい? 声量は抑えたつもりだったが、足音以上に響くので思った以上に大音量になってしまう。 「…最高だよ。遂に美人が話し掛けてくる幻覚が見え始めたくらいにな」 ふむ。

2013-12-16 15:59:54
日向 @ike_hyuuga

喜べ、幻覚ではないぞ。なんなら触ってみるか? 届くのならば、だがな。 両手を軽く伸ばしてやる。格子にしがみ付いても届きようが無い距離ではあるが。 「遠慮しておくよ。生憎俺は巨乳派なんでね」 冗談を言える程の余裕が在る事実に驚きはしない。憔悴している姿を期待はしていたが。

2013-12-16 16:06:35
日向 @ike_hyuuga

「で、何の用だい? さっき注文しておいたピザのお届けかな」 悪いな、此処に来る迄に平らげてしまったよ。貴様と話をしに来た。退屈なら付き合え。それでピザの代金を免除してやろう。 「へぇ。超多忙だけど財布が無いから従わざるを得ないな」 楽しそうに紫水が口元を緩める。

2013-12-16 16:34:21
日向 @ike_hyuuga

窓も無ければ温度を調整する空調も無いが、温度も湿度も低い。寒い程ではないが。 問おう。貴様は本当に『悪い男』なのか? その冷ややかな空気が止まる。 相手は質問の意味を考えているのか、意図を考えているのか、返答に迷っているのか、はたまた言葉を忘れてしまったのか、すぐに答えない。

2013-12-16 16:39:32
日向 @ike_hyuuga

紫水は五秒きっかり悩んでから口を開く。 「…どういう意味だい?」 言葉は使えるが意味を忘れてしまったみたいだ。仕様の無い奴だな。 紫水。今から話すのは私の憶測だ。事実だとしても相違があったとしても、貴様に益は無い。ただ私が満足するだけだ。だが、聞け。そして答えろ。

2013-12-16 16:45:47
日向 @ike_hyuuga

あれから考えたのだが、最終的に貴様は目的を達成しているな。 「あぁ? 鎮守府は無傷で健在で、俺はこの通り囚われの身だぞ?」 そうだな。だが『目的は果たした』だろう? たいした男だよお前は。私の推測が正しければ、だがな。 順を追おうか。まずは『復讐』の件についてからだ。

2013-12-16 16:49:17
日向 @ike_hyuuga

おかしいんだ。 本当に上層部を恨んで殺してやりたいのなら、回りくどい事をせずに爆弾なり毒なりを使って、一気に皆殺しにすればいい。副局長殿の能力と財力と伝手を用いれば可能だろう? わざわざ普通の人間が艦娘の、それも『鬼』に抵触するリスクを背負う必要は無い。

2013-12-16 16:51:59
日向 @ike_hyuuga

「…違う違う。『鬼』の力で成し遂げないと意味が無いんだ」 なるほど。その思想は理解できる。一旦保留しておくとしよう。次だ。 何故『私達が榛名達を助けに来るのを待った?』 「……」 これは“当たり”のようだな。ほぼ確信していた分であるのが勿体無い。

2013-12-16 16:55:42
日向 @ike_hyuuga

あの時私達が榛名達を助けに行けたのは、霧島が榛名に造って渡したあの装置に発信機の機能も付いていたからだ。あれが無ければ救援はおろか、居場所すら掴めていない状態だったからな。普通に“此処”だと思っていたくらいさ。 発信機に、貴様が気付かない筈が無い。有り得ない。絶対に有り得ない。

2013-12-16 17:04:14
日向 @ike_hyuuga

本当に『鬼』を使って復讐をしたいのなら、詰めの段階で初歩的なミスを許す筈が無い。貴様は放置したんだ。私達が絶好の機に割って入る事を望んだんだよ。 「そんな事をして何のメリットがあるんだよ」 あるだろう? 前の話に戻るが、貴様は『目的を達成した』。目的の為に、私達が必要だった。

2013-12-16 17:08:18
日向 @ike_hyuuga

普段ここまで続け様に喋る事が無いので、少々辛くなってくる。構わず口と舌を動かす。 結論だけを言ってしまおう。最終的に究極に結果だけを客観的に見れば、紫水。貴様の悲願は達成している。 「…復讐が成功したと?」 ああ、そうだ。貴様の復讐とやらは完遂している。

2013-12-16 17:11:34
日向 @ike_hyuuga

あれだけ大勢が『鬼』の姿と力を目の当たりにし、上層部が隠匿してきた『鬼』に係わるあらゆる知識は漏洩した。先の戦いに参加していない者にも、既に話は伝わっているだろう。上層部も最早完全には揉み消せない、隠せない。 流石に『人格』の植え付けによる『処置』は消えないだろう。必要悪だ。

2013-12-16 17:14:37
日向 @ike_hyuuga

紫水が唾を飲み込む。 だが、こうなってしまってはもう 『生駒の時と同じような“処分”はもう行えない』。 これが貴様の目的、哀願、最終目標だ。成就させたわけだ。 「…何を知ったような事を…!」 ふ、まだ認めないか。何が貴様をそうさせるんだ? まだ話は終わってないぞ。

2013-12-16 17:17:23
日向 @ike_hyuuga

いくら情報を拡散させたところで、人も艦娘も脅威に関しては実際に体感しなければ警戒しない。現代に『鬼』を出現させ、猛威を奮わせたかった。貴様はその方法を得る迄に至った。 言ってやろうか。 『被害が少な過ぎる』。あれだけの数の敵と『鬼』を相手にしながら犠牲は零だ。貴様のお陰でな。

2013-12-16 17:21:27
日向 @ike_hyuuga

『被害は最小限』で『“鬼”の恐怖と発生方法だけは伝わった』。 貴様の理想通りじゃないか。 榛名と山城がいなければ犠牲者の数の方が多かっただろうがね。 あの2人に『鬼』を制御させるのも、計画の内だったんだろう? 異論は? 「…新月と若宮が犠牲になってるだろ」

2013-12-16 17:24:59
日向 @ike_hyuuga

私個人の意見だが、あの2人は被害者だと思ってはいない。他大勢は反論するだろうけどね。 貴様が何もしなければ新月と若宮はいまだに健在している保障等無い。むしろ戦闘に後ろ向きな性格の奴が戦場に居ても、いずれは死ぬか仲間を見殺しにすると私は考える。 ましてや、2人は『鬼』を抱えている。

2013-12-16 17:27:25
日向 @ike_hyuuga

『被害は最小限』だとは言ったが『皆無』だなんて言っていない。貴様を善人であるとも言っていない。 若宮に関しても、最期に関する資料を見たが、彼女の死は予定外の事だったんじゃないのか? 飲み物が欲しい。紫水も同じようだったので、今は我慢する。

2013-12-16 17:31:55
日向 @ike_hyuuga

「榛名と山城を“騙した”理由は?」 お前は馬鹿か? あの2人がいくらお人好しで助平でも『こうこう、こういう理由なのでこの毒を飲んで僕とセックスして下さい』なんて言って了承するわけが無いだろう。だから騙した。 強引にでも『鬼』を覚醒させる必要があった。更に制御迄も、な。

2013-12-16 17:34:49
日向 @ike_hyuuga

「君や扶桑、あの女医を殺そうとした理由は?」 生きている。死んでいない。それが全てだ。貴様が本当に殺したかったのなら、生き残る可能性等無いくらいに準備できた筈だ。 仮に死んだとしても『鬼』を相手にする犠牲としては『最低限』の域を出はしないさ。

2013-12-16 17:37:19
日向 @ike_hyuuga

「どうしてそんな事を」 榛名と山城が、元の『榛名』と『山城』の意識に打ち勝ったのは本人達の意思だ。それを成す為に恨む、憎い、許せない対象が必要だった。憎悪は最も強い感情だからな。 あの2人の性格上、新月を強く恨める訳が無い。憎む存在が不可欠だった。だから自分で請け負った。

2013-12-16 17:40:05
日向 @ike_hyuuga

紫水が両手を軽く挙げ、ぱち、ぱち、とやる気の無い手拍子をする。 「面白い。実に面白い話だ。続けてくれ」 そろそろ話す事も無くなりそうだがな。 「じゃあ聞いてやるよ。最後の山城の爆弾は? 日向の考えが事実なら、あのタイミングで爆弾なんて不要だろ?」 ああ、それか。簡単だ。

2013-12-16 17:47:30